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ON AIR BLOG / 2016.12.07 update


ノーベル賞を受賞した大隅良典さんが、 いよいよ授賞式に出席するため、 昨
日ストックホルムに到着しました。今日は大隅さんが受賞した「オートファジ
ー」について サイエンスニュース担当の毎日新聞専門編集委員 青野由利さん
に解説していただきました。

Q:今週はノーベル賞週間。 医学生理学賞の大隅良典さんは、もうストックホ
ルム?
A:6日に到着して、 今日7日は記念講演会。 8日はカフェの椅子にサインす
る行事 10日が授賞式と晩餐会。今年で日本人の受賞、3年連続です。 昨年は
ニュートリノ振動の梶田さんが物理学賞、 熱帯の寄生虫病の治療薬「イベルメ
クチン」の開発で大村さとしさんが医学生理学賞。 日本人の受賞は、アメリカ
国籍を持っている人を含めると25人目になります。 ずいぶん増えましたよね。
先日、日本のスウェーデン大使館で開かれた祝賀会にでかけたら、 過去の受賞
者が何人も参加していて、「もう、めずらしくないな」と実感しました。 ただ、
今回は「単独受賞」で、それはなかなかないことです。

Q:今年の大隅さんの業績は「オートファジー」?どんな研究なんですか?
A :一般の人には聞き慣れない言葉だと思うけど、 生物学では有名な、生命活
動に欠かせない仕組みです。 ちなみに、「オート」はギリシャ語で「自己(自分)」、
ファジーは「食べる」という意味。 平たく言えば、細胞が自分自身の部品を分
解する仕組み。 生物は、体内で古い部品を分解し新しい部品を合成する 「リ
サイクル」によって生命活動を維持しているんですが、 分解の仕組みに2通り
あります。 ひとつは「ユビキチン・プロテアソーム系」と呼ばれていて、 そ
のメカニズムの解明には2004年のノーベル賞が贈られました。
大隅先生のオートファジーは、それと並ぶ重要な仕組み。 ユビキチン・プロ
テアソーム系が、ひとつずつゴミを選別して捨てるのに対し、 オートファジー
はいろんなゴミをまとめてばっとゴミ箱に捨ててしまうイメージ。

Q:そんな現象をどうやって解明した?
A:オートファジーに相当する現象があるということは 1960年代から知られて
いたんですが、 仕組みや役割がずっとわからなかったんです。 大隅さんは、
顕微鏡で酵母をよく見て、 この現象が起きている現場を確認し、仕組みを解明
したんです。 さらに、人間の細胞にも同じ現象があることがわかり、研究がど
んどん進みました。


Q:大隅さんは、「基礎研究がとても大事」と強調してましたね。
A: はい、大隅さんは「役に立つという言葉が社会をだめにする」 という意味
のことをおっしゃってしましたね。オートファジーは、役に立つかどうかなん
て考えず、 好奇心に従って行った、まさに地道な基礎研究の成果で、 大隅さ
んは多くの人から「基礎研究の重要性を示してくれてありがとう」 というメー
ルをもらったとおっしゃってました。 ただ、結果的には、この基礎研究の成果
は、病気の原因究明や、 治療法の開発などに結びつくと考えられています。

好奇心に従って研究に邁進したというところがなんともピュア。人間の体って
宇宙とおなじくらいその仕組みが解明されていないって聞きます。 大隈さんの
研究で要らない物を壊して、必要な物を新たにつくる。その営みによって、生
命は維持されている。ということがわかった。 また一歩、人間の体の神秘の世
界を解明してくれたんですね。

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