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ON AIR BLOG / 2016.12.28 update


今日のトピックは今朝、安倍首相とオバマ大統領が真珠湾攻撃で犠牲になったアメリカ人兵士を追悼するアリゾナ記念館をそろって訪れたというニュースについて夕刊編集部の堀山明子さんに解説していただきました。

Q:記念館を訪れた首相は初めてなんですね。
A:ハワイの真珠湾といえば1941、日本軍が奇襲攻撃を仕掛けて日米開戦の契機になった現場ですが、記念館に訪れて追悼した首相は初めてです。米国大統領とともに訪れたという点でも意義があります。安倍首相は今朝の演説で、犠牲者への追悼と米国の寛容の心に感謝し「真珠湾が和解の象徴として記憶されるよう、今後も努力する」と不戦の誓いを立てました。第二次世界大戦中のアメリカ兵の合言葉は「リメンバー・パールハーバー(真珠湾攻撃を忘れるな)」だったそうですから、リベンジ、復讐の合言葉から平和と和解のシンボルに変わるなら、大きな意味があります。

Q:堀山さんはロサンゼルス特派員としてハワイもカバーしていたそうですが、真珠湾攻撃記念式の取材をされたことはありますか?
A;5年前の70周年の時に記念式を取材しました。真珠湾攻撃は戦艦アリゾナなどが攻撃され2300人以上が死亡しましたが、アリゾナ記念館は、まさに沈没した戦艦アリゾナの上に建てられた現場そのものです。今も戦艦の中に閉じ込められた兵士が眠り、戦艦の油が微量ですが流れていて、海にうっすら浮かんでいます。70周年の時も元ハワイ州知事を務めた日系アメリカ人を中心に和解の行事が呼びかけられ、日本の裏千家の家元が来て元米兵士に追悼のお茶を振舞ったりしました。広島出身の日系アメリカ人団体が真珠湾と広島の相互訪問を呼びかけたりもしましたが、実現しませんでした。

Q;これまで首相のアリゾナ記念館訪問が実現しなかったのは、どうしてでしょうか。ハワイの現地では今も反日感情があるのでしょうか。
A:地域感情が悪いわけではありません。ハワイは日系アメリカ人が多く移民した地域で、真珠湾攻撃のときは日系人はアメリカ人として犠牲者の救出に努力しました。日系人は戦時中は真珠湾攻撃があったために迫害されましたが、戦後は日米の架け橋になりましたので、地域感情でいえば、むしろ和解への努力を続けてきたと思います。記念館を訪れる前には必ず真珠湾攻撃に関する20分程度のドキュメンタリー映画を見ないといけないのですが、攻撃したのは「日本帝国」、戦後に米国と協力しているのは「日本」と明確に言葉を使い分け、しかも、真珠湾攻撃では日系アメリカ人も犠牲になったと、多角的に伝えようとしているのが印象的でした。障害は日米双方の中央の政治にあったと思います。安倍首相は2013年にA級先般がまつられている靖国神社を参拝し、オバマ政権から「歴史修正主義者」と批判されたりして摩擦がありました。また、米国内には原爆投下の謝罪とセットにされることへの警戒感もありました。

Q:今年5月にはオバマ大統領が広島平和記念資料館を訪れ、米国の原爆投下による犠牲者を追悼しましたね。あれがあったから真珠湾訪問が実現したのかもしれないですね。
A:広島訪問の返礼という意義付けは日米両政府ともいやがっていますが、実際には広島訪問があったから世論が受け入れやすくなったという面は日米双方ともあると思います。1月にはトランプ大統領になるので、オバマ大統領の任期最後に真珠湾訪問が実現したわけですが、世界中が期待した核廃絶の公約は前進しませんでしたが、「戦後の和解」では実績を残したのではないでしょうか。今日の演説でもオバマ大統領は「戦争は終わらせることができる。憎悪より祈りの力を証明した」と強調していました。

Q:オバマ大統領と安倍首相、仲悪いかと思ってたら、結構いい感じだったってことですか。
A:トランプ政権で今回のような和解をするのは難しいでしょうから、いいタイミングだったでしょうね。今年を振り返れば、広島、真珠湾と歴史和解がテーマになった年でした。安倍首相は歴史修正主義者という世界的に疑惑がもられたレッテルをはらうアピールをし、米国との関係ではある程度成功したと思います。あとは、これで「戦後が終わった」と区切りをつけるのではなく、アジアの犠牲者たちに同じように和解の努力を示せるか問われていると思います。日米の和解では「謝罪」がなかったことへの賛否がありましたが、「寛容と和解」という図式は、被害者が許すことからしか出発しません。寛容をもたらす信頼づくりを日本ができているか。来年はそこまで視野を広げて、世界の中での日本の立ち位置を考える年になればいいなと思います。

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