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ON AIR BLOG / 2017.06.14 update

今日は、「音楽の世界を変えた」と言われる日本人についてのお話。 毎日新聞 論説委員 中村秀明さんに解説していただきます。

音楽をやっている人、音楽が好きな人ならとても有名な楽器メーカーに 「ローランド」があります。Rの大きな文字が特徴です。45年前にこの会社を大阪市内に作り、電子ピアノや電子オルガン、電子ギター、シンセサイザーなどを世界に広めたのが梯郁太郎さんです。 「電子楽器の父」とも呼ばれている梯さんですが、4月に87歳で亡くなり、この間の日曜日11日にお別れの会がありました。

日本ではあまり大きく報道されなかったのですが、
イギリスのBBCやアメリカのニューヨークタイムズは、 その死を悼んで大きく伝えています。「世界のミュージシャンに多大な影響を与え、音楽の世界を変えた」と。電子ピアノやシンセサイザーはエルトン・ジョンやスティービー・ワンダーらが愛用したことで知られています。日本ではシンセサイザー奏者で作曲家の冨田勲さんも ローランドユーザーだし、梯さんと個人的親しかったそうです。

ほかにも「リズムマシン」とも呼ぶ電子ドラムのTR-808というのが、
多くの音楽家の心に刻まれているとびきりの存在のようです。 ビヨンセやマドンナらが歌詞の中に「808」と書き、 ブリトニー・スピアーズは重低音のバスドラムの響きを 「私の心臓は808のようビートを刻む」と歌っています。アフリカ・バンバータの「Planet Rock」はほぼ TR̶808 のみで作られた曲。1982 年にリリース。 ヒップホップとテクノが初めて出会った名曲。その仲人役が、梯さんが生み出したこの TR-808。

2013年には米グラミー賞のテクニカル賞を受けています。
電子楽器同士や コンピューターとの間で音楽データをやりとりするための国際規格MIDIの 普及に力を注いだ功績でした。MIDIというのは、 実際の音ではなく音楽の演奏情報「音を出せ、その音の高さはこれくらい、 音の大きさはこれくらい 」といった指示をデジタル信号に変えて 楽器やコンピュータに送るものです。

身近なところでは、 通信カラオケで曲を指定したらカラオケ部屋の装置が曲を流すのはMIDIのおかげ。 駅の電車発着のメロディにも使われています。たいていのメーカーは自らの規格に固執するのが常だが、 梯さんは「それでは電子楽器が普及しないと思った」と語って、 これをみんなで使おうと呼びかけた。 その思いが音楽をする人のすそ野を広げ、音楽産業を成長させた。

音楽は金持ちの子にしかできないと言われていた時代がありました、 しかし電子楽器やMIDIの登場で誰にでも音楽ができるようにしてくれました。 ヒップホップやダンスミュージック、ポピュラーミュージックの大きな広がりは なかっただろうと言われています。「音楽で食べていけるのは梯さんのおかげ」と言う人は少なくありません。いろいろな人が思い出を語っています。 「一度決めたらぶれないという姿勢を持ちながら、ちょっとしたことでも 人に感謝するひとだった」とか「若い人と議論するのがとても好きだった」とか、 「いつも、長い視点で音楽や経営のことを考えていた」という話を聞きました。

ロックに「Gibson 」と「Fender」のギターがあるならば、ダンスミュージックには『Roland / TR-808』がある!


…と言われているほど。ちなみに、ローランド TR-808 のドキュメンタリー映画、 その名も『808』も去年の年末に公開されました。偉大な日本人の存在、学ばせていただきました!

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