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ON AIR BLOG / 2017.10.11 update


今日のトピックはノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)について。毎日新聞外信部、堀山明子さんに解説して頂きました。

Q:日本の被爆者団体も喜んでいるようですが、何が評価されたのですか。
A:ICANは核兵器廃絶を目指すNGOの連合体で世界100カ国の400団体が連携しています。日本では市民団体「ピースボート」などが参加しています。20〜40代が中心の若い組織で、2007年発足ですから歴史もまだ浅い団体です。SNSを駆使して被爆者の声を世界に発信する、核保有国にも核兵器削減のプレッシャーをかける国際的な枠組みづくりに努力しました。核兵器禁止条約の交渉が始まる初日には、広島で被爆した藤森俊希さん(73)がスピーチし、条約条文に「ヒバクシャ」という単語をそのまま使って、被爆者の苦しみと被害に留意する
と明記されています。

Q:被爆者の声が届いた条約なんですね。だから被爆者団体も喜んでいるわけですか。被爆者が受賞したともいえますね。
A:ICANのフィン事務局長は「すべての被爆者、核廃絶運動に参加した人たちの受賞」と言っています。ただ日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)代表委員の田中熙巳(てるみ)さんは、受賞を逃したことに「長い間活動してきて、残念。うれしいのと悔しいのが入り交じっている」と複雑な気持ちを会見でちらりともらしていました。この部分、あまり報じられていないのですが、なぜ日本の被爆者団体が受賞できなかったのかという視点もあっていいと思います。私が所属する外信部では同僚が平和賞をどこか受賞するか予想していくつかのシナリオを準備していました。ICANも候補に入っていましたが、被団協なり、団体名を指名せずに「ヒバクシャ」なりが連名で受賞すると考えていました。だから「ICAN」と発表された瞬間も、皆でずっとテレビ画面を見て「それから?それから?」と次の発表を待っていた状態でした。

Q:なぜICANだけの受賞になったのでしょう?
A:被団協も国際的な核廃絶運動を長年してきました。被爆者だけでなく、広島・長崎で被爆した韓国人や、原水爆実験の被害者など日本という枠組みを越えた連帯運動に努力しています。ただ、日本政府は今回の核兵器禁止条約には交渉会議にも参加せず、唯一の被爆国でありながら署名していない現実があります。その宿題を果たせていないから、ひとつの国の団体ではなく、国際NGOに授与したのではないでしょうか。ICANの受賞はもちろん日本の被爆者や核廃絶運動にとっては励みになりますが、同時に大きな宿題を見せ付けられたという側面もあるように思います。

Q:どうして日本は署名していないのですか?
A:核兵器禁止条約は核兵器を違法と明記し、保有や製造だけでなく威嚇も禁じています。日本は核保有国である米国と同盟を結び、「核の傘」の下にいます。日本が攻撃されたら米国が助けてくれるという期待があるんですね。米国は今回、同盟国に交渉に参加するなと圧力をかけたので、日本はそれに従いました。同じ構図では米国が欧州諸国とつくる北大西洋条約機構(NATO)加盟国も参加していません。ノーベル平和賞の審査団体があるノルウェーもNATO加盟国なので署名していないんですよ。

Q:核保有国や米国の同盟国が参加しないで、条約はどうなるのでしょう?
A:50カ国が批准した90日後に発行します。現在署名した国は53カ国。各国が批准手続きを経て来年ぐらいには発効するかもしれませんが、核保有国と同盟国が加わらなければ「絵に描いた餅」になります。だから今回のICANへの受賞は、条約に対する国際的な市民レベルの関心を見せつけ、核保有国にプレッシャーをかける意味があったと思います。ノルウェーでは9月の議会選挙で条約が焦点になり、小差で支持する中道左派が敗れたそうですが、日本も今、衆院選の最中ですから核兵器禁止条約の署名も争点にするべきです。


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