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ON AIR BLOG / 2018.08.22 update


今日のテーマは、「サマータイム導入はあり?それともなし?」毎日新聞編集編成担当補佐、前田浩智さんに解説していただきました。

Q:今日のお話は、サマータイム導入はあり?、それともなし?、ということですが、サマータイムって、アメリカとかヨーロッパで行っている制度ですよね。
A:そうですね。世界で60カ国以上が実施している制度で、たとえばドイツなどのEU(欧州連合)では、3月の最終日曜日に時計を1時間早め、10月の最終日曜日に元に戻すということをしています。

Q:東京オリンピック・パラリンピックの大会組織委員会が導入するよう求めているそうですね。
A:「低炭素社会づくり」を進め、五輪のレガシーにするという説明なんですが、一番の目的はオリンピックの屋外競技の猛暑対策です。マラソンは暑さを避けて午前7時にスタートする予定ですが、大会日程が7月24日から8月9日ですから、東京はとにかく暑い。サマータイムを導入して標準時間を1時間早めれば、午前7時のスタートが実質的に午前6時になるわけで、選手も観客も負担が減らせると考えたわけですね。

Q:今年みたいな暑さが2020年にはないとは言えませんからね。
A:気象庁は今年の夏を「災害級の暑さ」なんて呼びましたから、サマータイムありかなと私もちょっと思ったのですが、反対論もけっこう多いんです。コンピューターのシステム改修に、数千億とも言われる膨大な費用と、IT技術者の人手が相当に必要になるのが大きな理由の一つです。サマータイムを来年、試験的に実施しようという話も出ています。ところが、来年5月にはもともと、元号の切り換えという作業が控えていて、それとサマータイムが重なって、システム障害が出るのではないかと心配する声も聞こえてきます。

Q:でも、世界で60カ国以上が実施しているんですよね。
A:主要7カ国(G7)でサマータイムを導入していないのは日本だけです。でも、一方で、やめましょうという動きも最近は目立っています。たとえば、EU議会は今年の2月、サマータイムの影響を徹底的に評価し、必要ならば見直し案を示すよう求める決議を採択しました。

Q:コンピューターのシステムは関係ないですよね。
A:こっちの方が切実かもしれませんが、健康面の問題です。私たちは朝が来ると自然に目が覚め、決まった時間にお腹がすき、夜になると眠くなる。これは私たちの体の中に「体内時計」というのがあるからだそうですが、サマータイムを実施することによってこの体内時計がくるって、睡眠不足で交通事故が増えたり、脳卒中のリスクが高くなるという大学の研究結果が出ています。ロシアはサマータイムを実施していたのですが、救急車の出動や心筋梗塞が増えたなどとして、2011年をもって廃止しました。

Q:たった1時間なのに、いろいろあるんですね。
A:サマータイムはもともと省エネが狙いで、夏の日照時間を有効活用し、照明などの電力を節約しようという発想から始まっています。仕事の後の「アフター5」の時間もまだ明るいので、そこで経済効果も見込めるだろうと言われています。でも、今の電力消費はエアコンなどの空調が主体で、あまり効果が見込めないのではないかとの指摘が出ています。日本は戦後の1948年から4年間、サマータイムを実施し、残業が増えて取りやめた苦い経験もあります。

Q:日本も経験があるんですね。
A:GHQ(連合国軍総司令部)の指示です。電力不足を緩和するためでした。いずれにしても、「オリンピックのため」に結論を急ぐのはよくありません。オリンピックも夕方の競技は暑い時間になるし、マラソンもそもそもスタート時間を6時にすればいいという意見もあります。実施すればわれわれの日常生活が大きく変わることですから、みんなで議論して結論を出した方がいいと思います。

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