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ON AIR BLOG / 2020.06.03 update
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今日のテーマは学校の「9月入学」制度の導入が見送られたというお話です。毎日新聞 世論調査室長の平田崇浩さんに解説していただきました。

Q:学校の「9月入学」制度の導入が見送られたというお話。リスナーの皆さんの関心も高かったのではないでしょうか?

A:新型コロナウイルスの感染が広がって、一斉休校によって子どもたちの学習が遅れる問題をどうするか。だったら、来年の学年の始まりを9月にずらせばいいじゃないか。ということでスタートした議論でしたね。

Q:この際だから海外でスタンダードの9月入学に合わせようというのは、発想としてはアリだと思いましたが。
A:その意味で9月入学の導入論は昔からありますよね。アメリカやヨーロッパ、中国などと入学時期を合わせればお互いに留学しやすくなるし、就職活動のやり方も国際化するのではないかと。でも、長年議論されても実現しなかった。なぜだと思いますか。

Q:やっぱり、社会全体に与える影響が大きいからじゃないですか。日本の「年度」は4月から始まるわけで、学校の始まりを9月にしたら、じゃあ、国や自治体はどうするの? 企業は4月のままでいいの?という話になりますよね。
A:結局、今回も同じ結論に落ち着いたのだと思います。ただでさえ新型コロナウイルスの感染拡大で社会全体が大混乱に陥っているときに、9月入学を導入することになればさらに混乱が広がるのではないかと。例えば、来年度から9月入学にしようということになれば、来年4月に入学するはずだった子どもたちの学習が5カ月遅れることになるし、幼稚園や保育所が混乱して待機児童が急激に増えるかもしれません。

Q:9月入学の話は急に盛り上がって、急にしぼんだ感じがします。
A:政府の新型コロナ対策が遅いと批判されている中で、東京都の小池百合子さんとか一部の知事から9月入学を求める声が上がって、これなら前向きな政策として評価されるのではないかと思って飛びついたように見えました。でも、いざ議論してみたら、教育の国際化という将来的なメリットより、目の前の社会の混乱というデメリットの方が大きいことがわかったのでしょう。

Q:本当に9月入学に切り替えようと思ったら、何年も前から準備しておかないといけませんよね。コロナの問題が起きて急に慌ててやるようなことではないと思います。
A:かわいそうなのは中3や高3の受験生たちです。ただでさえ今の高3生たちは大学入試改革の混乱に翻弄されてきたわけですから。

Q:来年から始まる大学入学共通テストに英語民間試験や記述式問題を入れると言われて準備していたのに、撤回されましたね。
A:そんな混乱があったうえに、4月に授業が始まらない。9月入学の議論があったせいで今年秋以降の推薦入試などの日程もまだ決まらない。政府・与党の方では大学入試全体の日程を1カ月程度、後ろにずらすことを検討しているようですが、早く日程を固めて、受験生たちが落ち着いて勉強できる環境をつくってあげないといけません。

Q:学校が休校になっている間、オンライン授業や宿題でそれなりに勉強できた学校と、そうでない学校の格差が生まれているという話も聞きます。
A:学校が再開されても、登校する子どもの数を減らしたり、感染者が出れば再び休校にしたりしなければならないかもしれません。教員の数を増やす必要がありますし、誰でもオンライン授業が受けられるような教育環境も必要になるでしょう。̶̶9月入学を議論するのはいいのですが、いまでなくてもいいと思います。
まずは教育現場の混乱を取り除いて、困っている子どもたちのケアを最優先に考えることが政府や政治家の役割ではないでしょうか。

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