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ON AIR BLOG / 2020.09.02 update
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「安倍首相の辞任と後継者に引き継がれる課題」について毎日新聞 論説委員 平田崇浩さんに解説していただきました。

Q:安倍首相の突然の辞任表明にはびっくりしましたね。
A:安倍首相ご本人も最後まで悩まれた末のことだと思います。いつから体調が悪化していたのかはよくわかりませんが、いざとなったら菅官房長官に引き継げるようにということは6月ごろから考えておられたようです。

Q:健康の問題ですから仕方ないとは思いますが、新型コロナウイルスの感染がまだまだ拡大している中で首相が代わるというのは不安な気持ちにもなります。
A:首相の気持ちの中で、もともと9月というのは節目として意識されていたのだと思います。東京オリンピック・パラリンピックが中止になっていなければ、東京五輪を花道に退かれるという話もささやかれていたくらいですから。お辞めになる時期というのも大事ですが、それよりも大事なのが「誰に引き継ぐか」だったのだと思います。

Q:それが「菅さん」ということなのですね。
A:菅さんはこの7年8カ月間、官房長官として安倍首相を支えてきた人ですから、コロナ対策もそうですが、経済、外交など、安倍政権の路線を引き継いでもらえるという安心感があるのでしょう。もう一つ、安倍首相にとって大きいのは、石破茂さんに勝てる候補という点だったようです。

Q:世論調査では石破さんの人気が高いですね。
A:安倍首相は本来、自民党政調会長の岸田文雄さんという方に引き継ぎたいと思われていたようなのですが、岸田さんではあまり人気はないし、菅さんや自民党の二階俊博幹事長という安倍政権の実力者と対立して、政権主流派が分裂してしまう恐れがあったのです。来週、安倍首相の後任を決める自民党総裁選には菅さんも岸田さんも立候補する見通しですが、「菅さんを後継に」という安倍首相の意向が自民党の各派閥に伝わっていますから、もう流れは決まったと見られています。

Q:石破さんは安倍さんとの関係は?
A:安倍さんがやろうとした憲法改正に異を唱えたり、森友・加計問題や桜を見る会の問題で国民にちゃんと説明するように苦言を呈したりしてきましたからね。自民党の国会議員票は安倍政権の中心にいた人たちがガッチリ抑えていますが、党員の投票は国民的人気の高い石破さんにかなり流れると思ったのでしょう。安倍首相辞任という緊急事態だからという理由で党員投票は省くことになりました。ただ、都道府県別に独自の党員投票をやるところもあるようですから、
そういったところで石破さんの人気が示されれば、今後の政権運営や、来年9月に行われる正式な総裁選に影響するかもしれません。

Q:首相が菅さんに代わっても政策は大きくは変わらないということですか。
A:そうですね。ただ、経済・社会・外交情勢は大きく変化していますから、それに的確に対応できるかが問われることになります。まずは何よりも、インフルエンザの流行期と重なる秋冬のコロナ対策ですよね。さらには、コロナの影響で落ち込んだ経済の立て直しと並行して、アベノミクスという普通ではない経済政策を普通に戻すソフトランディングも次の政権は考えないといけません。アメリカと中国の対立が深まる中でアメリカの大統領選もあり、日本の外交・安全保障政策も難しいかじ取りが必要になります。

Q:安倍路線を引き継ぎながら、安倍政権が残した課題も解決していかなければならないのですね。
A:少子高齢化や東京一極集中の問題、官僚の忖度が蔓延して公文書の隠蔽や改ざんが行われた問題もこのままでいいとは思えません。

——安倍首相が健康問題で辞任されるのはとても残念なことですが、後任を決める自民党の総裁選挙では、長期政権の良かったところ、悪かったところをしっかり総括して、これまで抜け落ちていたかもしれない格差の問題とか、子育てしにくい社会の問題とか、若い人たちが将来に希望を持てる政策の議論をしてもらいたいと思います。

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