毎日新聞社世論調査室長 平田崇浩さんに解説していただきました。

Q：熊本、大分、支援物資が届かない。避難する場所が車の中。 などなどいろいろな問題を抱えています。今回の政府の対応はどうでしょう。
Ａ：今はまだ大きな余震が続いていて、被害が広がらないように住民を避難させたり、行方不明者を捜索したりといった緊急の対応に追われている状況です。余震を恐れて自主的に避難している人も多く、電車や道路などの交通網が寸断されているため、食料などの救援物資がうまく行き渡らないことなどが問題になっています。

Ｑ：余震が収まらないと、救援物資を届けるのもたいへんですよね。
Ａ：震災はまだまだ現在進行形なのですが、マグニチュード7.3の本震があった4月16日と翌17日の2日間、毎日新聞が全国で実施した電話世論調査では、政府や関係自治体の対応が「適切だと思う」と答えた人が65％で「適切ではない」は13％でした。これまでのところ、震災の収束と被災地の復旧・復興を祈りながら政治や行政の動きを見守っている人が多いのだと思います。

Ｑ：阪神大震災や東日本大震災の教訓は生かされているのでしょうか。
Ａ：そう思います。政府は自衛隊の災害派遣部隊を急いで増強したり、在日米軍にも救援を頼んだりして、まずは180万食の食料などを被災地に届けようとしています。東日本大震災のときは、被災した自治体から要請が来るのを待っていて支援が遅れた反省があり、それを教訓に今回は政府の判断で支援を進めています。自治体側の受け入れ態勢が整っていなくても、避難者がいるところに片っ端から救援物資を届けようと、ツイッターなどのＳＮＳを利用する動きもあります。民間のボランティア団体も過去の震災経験を生かして、迅速に救援活動に入っているそうです。

Ｑ：東日本大震災のときは民主党政権でした。
Ａ：私はあのとき、首相官邸の記者クラブに詰めていたのですが、当時の菅直人首相をはじめとした政権幹部の人たちは、地震が起きた初日の夜から想定外の原発事故の対応に追われて、津波被災地への支援が後手に回ったように思います。今回は津波も原発事故も起きていませんが、内陸を震源とする大規模な直下型地震が繰り返し被災地を襲う、これもまた前例の乏しい大震災に直面しているわけです。災害は次々と新しい形で起こるものですから、「想定外」を言い訳にすることなく、過去の教訓を生かしながら、そのときの被災地・被災者に寄り添った支援を急ぐほかないのだと思います。

Ｑ：政治や経済への影響はどうなるのでしょうか。
Ａ：現地の工場の操業を停止した企業も多く、交通網や生産設備、インフラの復旧が遅れれば、地域経済に深刻な影響を与えるでしょう。東日本大震災のときは被害が広範囲にわたり、被災していない地域でも製品や部品の供給がストップしてしまう「サプライチェーン問題」が日本経済に大きな打撃となりました。今回の震災の影響がどこまで広がるかは今後、よく見ていかなければなりません。

Ｑ：震災前から、経済の状況がよくないということで消費増税の先送りが検討されていたようですが。
Ａ：消費税は来年4月に10％に引き上げられることが法律で決まっています。安倍首相は「リーマン・ショックや大震災のような事態が発生しない限り、予定通り引き上げる」と繰り返し言ってきたわけですが、今回の熊本地震がこの「大震災」に当たるのかどうか。一方で、今後の復旧・復興には莫大なお金が必要になりますから、その財源をどうするのかという議論も出てくるでしょう。

Ｑ：今年の夏には参院選もありますね。
Ａ：安倍首相は消費増税の先送りを決めたうえで、衆院を解散して衆参同日選にしようとしているのではないかとも言われてきました。選挙前に増税の先送りを決めれば、自民党に有利に働くという理由からです。でも、熊本地震が発生して、同日選はなくなったという見方が広がっています。衆院議員の任期はまだ2年半以上、残っていますから、いま解散するとすれば、よほどの大義名分が必要です。「いま選挙をすれば勝てるから」という理由だけでは「被災地を置き去りにして選挙をやっている場合か」と批判されますよね。政治的に有利だとか不利だとかではなく、いまは純粋に被災地のことを考えて対策を急いでほしいですね。