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そのイメージを変えていこう!新しい認知症観

そのイメージを変えていこう!新しい認知症観

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誰もが認知症になり得る時代です。
認知症になっても自分らしく、希望を持って暮らせる社会を目指して、まずはあなたの“認知症”への先入観を変えていきませんか?
今回は、「そのイメージを変えていこう! 新しい認知症観」というテーマで学びました。
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(杉浦)
「認知症」って聞くと、佳菜子ちゃん、イメージどんな感じ?

(村上)
「新しいことを忘れちゃって、古いことのほうを覚えている」っていうイメージが強いかな。散歩に行っても、帰り道が分からないとか。

(杉浦)
そうだよね。それから、「身の回りのことができなくなって、介護施設に入ることになる」とか、「暴言、暴力などで周りの人に迷惑をかけてしまう」など、こういったイメージを持っている人って少なくないみたいなんだよね。

(村上)
一般的にはそのようなイメージなんじゃないかな…?

(杉浦)
でもね、実際に認知症の人の話を聞くと、こんな声が挙がってるんだって。「何も分からなくなったり、何もできなくなるわけではありません。新しいことだって挑戦できるし、新しいことだって覚えられます」。そして、「病気や生きづらさはあっても、自分らしく楽しく暮らせてます」、「支えられる一方になるわけではありません。家族や地域のために役に立てることだってあります」と。

(村上)
結構、ポジティブな言葉が多いですね。

(杉浦)
でしょ! 一口に認知症と言っても、症状の現れ方や進行具合は人それぞれ。それなのに、偏った思い込みがあると、認知症の人やその家族が医療サービスや社会からのサポートに対して消極的になって、診断や治療の遅れにつながっちゃうことがあるんだよね。

(村上)
「何かおかしい」と思っても、認知症への恐れから、病院に行くのをためらってしまう人がいる、という話は聞いたことあります。

(杉浦)
診断された後も人に言えなくて、社会から孤立してしまうケースもあるみたいだよね。では、佳菜子ちゃん、認知症の人や軽度の認知機能の障害があるかたって、どれくらいいると思う?

(村上)
先週もチラッと聞いたけど、思ってたより多いイメージですね。

(杉浦)
2022年の推計だと、合わせて1,000万人を超えていて、なんと、65歳以上の高齢者3.6人に1人が認知症か認知症予備群という状況なんだって。

(村上)
そうか。やっぱり多いですね。認知症は、誰もがなり得る病気っていうことですよね。

(杉浦)
そう。だから、認知症は決して他人ごとではなく、自分ごととして考える時代が来てると。こうした背景があって、昨年、認知症基本法が施行されました。ここからは、今日の講師に伺っていきましょう。厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課の西江 哲哉さんです。

(村上)
西江さん、認知症に関する法律があるんですね。

(西江)
はい。正式には、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」と言います。「認知症の人を含めた国民一人ひとりが、お互いに支え合いながら活力ある社会」の実現を目指すことを目的としています。

(杉浦)
かいつまんで言いますと、認知症になっても、自分らしく、希望を持って暮らせる社会の実現を目指すための法律ですよね。

(西江)
そうなんです。「認知症になると何もできなくなる」といった認知症に対する偏見や誤解を解消していくという考え方は以前からもあります。様々な施策が進められる中で、状況は徐々に変わってきています。これまでは、どちらかと言うと、お世話をする側の観点から、認知症施策を進めていましたが、「認知症基本法」では、認知症の人がどうしたいのかという観点から、認知症に関わる取組を進めることが基本理念として示されています。こうした認知症の法律があるのは、世界でも日本だけなんです。

(村上)
日本だけなんですね! それって画期的なことですよね。

(西江)
そうなんです。この認知症基本法に基づく基本計画の中で示されたのが、今日テーマに掲げている「新しい認知症観」なんです。

(村上)
「新しい認知症観」?

(西江)
「新しい認知症観」とは、「認知症になったら何もできなくなるのではなく、認知症になってからも、一人ひとりが個人としてできることややりたいことがあり、住み慣れた地域で仲間などとつながりながら、希望をもって自分らしく暮らし続けることができるという考え方」です。

(村上)
なんか、分かるような、分からないような感じなんですけど、具体的にはどういうことなんでしょうか?

(西江)
「新しい認知症観」は、認知症の本人からの人生に対する前向きなメッセージです。「認知症になっても自分らしい暮らしを続けていくためにはどうすればいいか」、「社会的にもどんな役割を果たしていけるか」といった前向きな考え方なんです。

(杉浦)
古い認知症観に縛られず、僕たち一人ひとりが新しい認知症観を持つようになれば、偏見や誤解も減ることが期待できますし、認知症の人やその家族は認知症であることを周囲に伝えやすくなりますよね。

(村上)
まず、みんなが新しい認知症観を持つことが大切ということですね。

(西江)
そうですね。その上で、認知症の人を含めた国民一人ひとりが「新しい認知症観」に立って、認知症の人が自らの意思によって地域とつながり、日常生活や社会生活を営むことができる共生社会を創り上げていくことを目指しています。

(村上)
そうなんですね。では、認知症の人が希望を持って暮らせる社会を目指して、今は、どのような取組が行われているんでしょうか?

(杉浦)
そうね、具体的に知りたいよね。ここからは、認知症の人が希望を持って暮らせる社会を目指して行われている主な取組について伺っていきます。まずは、こちら。「本人ミーティング」! 先ほど、認知症基本法では、認知症の人がどうしたいのかという観点から、認知症に関わる取組を進めることが基本理念として示されている、というお話がありましたよね。「本人ミーティング」はまさにこの基本理念と一致した取組なんですよね。

(西江)
そうなんです。「本人ミーティング」は認知症の人が集い、本人同士が中心になって、自らの体験や希望、必要としていることを語り合い、自分たちのこれからのより良い暮らしや、暮らしやすい地域のあり方を一緒に話し合い、発信していく場です。

(村上)
話し合うだけでなくて、発信していく場なんですか?

(西江)
そうですね。地域のかたや行政職員が、認知症に関わる取組を計画するにも、「本人の声を聞いたことがない」、「本人のことがよく分からない」、「どんなサービスが必要か分からない」では始まりません。なので、地域のかたや行政職員もこのミーティングに参加して、認知症の人たちが、自分らしく暮らし続けるために必要としていることを把握し、当事者の視点に立って、より良い施策や支援を一緒に進めていきます。

(村上)
認知症のかたの意見をすくい上げるだけじゃなくて、一緒に企画していくんですか?

(西江)
そうですね。昨年度は、432の市町村で本人ミーティングが実施されていて、「医療・介護の現場で配慮してほしいこと」や「安心して外出するために必要なこと」などのテーマを決めて、認知症の人と一緒に地域づくりについての議論を行っています。私も近所の本人ミーティングに参加したことがあるのですが、活発な議論が行われていて、とても驚きました。実は、出てきた意見を基本計画の内容や目標などを検討する際にも参考にしています。他にも、「認知症カフェ」という、認知症の人やその家族が、地域の人や専門家と相互に情報を共有してお互いを理解し合う場が、多くの自治体で設けられています。

(村上)
認知症の人だからこその意見が聞けるわけですから、こうした場が増えていけば、もっと本人の困りごとや希望にフィットした取組が増えていきそうですね。

(杉浦)
そうだね。では、続いての取組は「ピアサポート活動」! こちらはですね、認知症の人が、認知症の人の相談支援をする活動なんですよね。

(村上)
えっ? それって、認知症のかたご自身が、支援をする側になるということですか?

(西江)
そうなんです。これこそが新しい認知症観で、認知症と診断されたからといって何もできなくなるわけではなく、今後の生活に不安を抱える認知症の人に対して経験談を語るといった、相談役として活躍されるかたもいます。

(村上)
なるほど。認知症の先輩が相談に乗ってくれたら、当事者同士、共感し合える点も多そうですし、認知症と診断されてからも、希望すれば「社会の役に立つことができるんだ」と、先輩の姿を見て希望につながるかもしれませんよね。

(西江)
そうなんです。実際、認知症の人による相談支援は、認知症の人の心理的な負担を軽減したり、認知症の人が地域を支える一員として活躍し、社会参加することの後押しにもなっています。

(杉浦)
この「ピアサポート活動」の効果としては、「相談する側・される側という枠を外して、双方が相手の意見を尊重しながら話ができている。それが相談にとどまらず、交流の場になっている」との評価や、ピアサポーターご自身からも「いろんな人がいるから、いろいろな話が聞けて楽しい」という声が挙がっているそうです。

(村上)
「本人ミーティング」に「認知症カフェ」、さらに「ピアサポート活動」と、こんなに認知症のかたが地域や社会とつながる場所や活躍の場があるって、ほんと、知らなかったです。

(杉浦)
佳菜子ちゃん、もっとびっくりする取組があるんです。なんと、認知症の人が自らのメッセージを発信する「認知症希望大使」という取組もあるんですよ。ね、西江さん!

(西江)
はい。厚生労働省では認知症の人の発信の機会が増えるように、7人の認知症の人を「希望大使」に任命しています。希望大使には、国が行う認知症の普及啓発活動への参加や協力、国際的な会合への参加、「認知症とともに生きる希望宣言」の紹介などに取り組んでいただいています。

(杉浦)
また、希望大使には都道府県が任命する地域版もありまして、その数は、なんと80名ほど。都道府県が行う認知症の普及啓発活動に参加・協力してるんだって。どう、佳菜子ちゃん、認知症に対するイメージ、大分変わったんじゃない?

(村上)
すごく変わりました。「新しい認知症観」、イメージできてきました。

(西江)
誰もが認知症になり得る時代です。認知症になってからも自分らしい暮らしを続けていくためにどうすべきなのか、自分ごととして考える時代が来ています。認知症の人と出会い、認知症の人の声を聞いて、皆さんなりの認知症観を考えてみてください。

(村上)
今日の話の中で特に注目したのは「新しい認知症観を知ろう!」です。結構、今までイメージしてたことと違ったなって思いました。

(杉浦)
先入観を取り払うというのは大事ですよね。僕が特に注目したのは「認知症のかたも活躍できる社会」です。

(村上)
ほんと、そうですよね。そこが私も新しい気付きでもありました。


「 関連リンク 」
政府広報オンライン「知っておきたい認知症の基本」
厚生労働省「認知症施策」
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