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なくそう! 田んぼや畑でのヒヤリ・ハット ~農作業の安全対策~

なくそう! 田んぼや畑でのヒヤリ・ハット ~農作業の安全対策~

農作業中の安全対策はできていますか?
慣れや油断から、思わぬ事故が起きる可能性があります。

今回は、「なくそう! 田んぼや畑でのヒヤリ・ハット ~農作業の安全対策~」というテーマで学びました。
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(村上)
農作業と言えば太陽さんじゃないですか! 今年もたくさんの野菜を育ててるんですよね?

(杉浦)
今年はね、結構いろいろやったよ。キュウリ、トマト、カボチャ、枝豆、シソ、唐辛子、トウモロコシ、イタリアンバジル。

(村上)
すごい! 今の時期、収穫を迎えてるものはあります?

(杉浦)
この前、枝豆を採って。採れたての枝豆、激ウマだから! 甘いの! これから唐辛子を赤くさせて、乾燥させて、鷹の爪の輪切り作るの。楽しいよ。

(村上)
本格じゃないですか!

(杉浦)
もうガチ勢です。でね、これから収穫が本格化するのは、やはり「米」ですね、お米! 九州地方や四国地方とか早いところでは、もう始まってるよね。

(村上)
そっか! 今年はお米でいろいろありましたから、無事に収穫作業が進むといいですね。

(杉浦)
本当に願っております。それでね、一つ心配なのが、「お米農家さんが頑張り過ぎちゃわないかな」ってことなんだよね。

(村上)
頑張り過ぎちゃうんだ…。

(杉浦)
そう。みんなが期待して待っていてくれてるからって、疲れていても休憩を取らずに「あと少し」「あの目印までやろう」なんて頑張り過ぎちゃうと、注意不足になって思わぬ事故を引き起こす可能性もあるんだよね。佳菜子ちゃん、世の中には農業の他にも、建設業とか、運送業、製造業など様々な産業があるよね。働く人10万人に対して作業中に命を落とす人の割合が一番高いのは、今挙げた四つの産業のうちどれだと思いますか?

(村上)
うーん…。農業のかた、外だと、暑い時期は熱中症とか心配だなと思っちゃいますけどね…。選べないどうしよう。みんな大変!

(杉浦)
みんな大変なんです! でも実は、農業なの。農作業中の事故で亡くなるかたの割合がですね、他産業と比較しても高くて、同じように大型の機械を使用している建設業のおよそ2.5倍! 非常に深刻な状況なんです。2023年には236人ものかたが農作業中の事故で亡くなっているんだって。

(村上)
そんなにですか!? それは予想外でした。一体どのような事故で亡くなってしまうんですか?

(杉浦)
気になるよね。ここからは今日の講師に教えていただきましょう。農林水産省生産資材対策室の美保 雄一郎さんです。

(村上)
美保さん、農作業中の事故で亡くなるかたが多いということですが、どのような事故が発生しているんですか?

(美保)
農作業中の死亡事故の中で、最も多いのは「トラクターやコンバインなどの農業機械を扱っている時の事故」で、次に多いのが「熱中症による事故」です。農作業中の熱中症による死亡事故は7月と8月が多いのですが、実は9月にも発生しています。

(村上)
農家さんは農作業のプロですよね。それでも、そういった事故が発生しているんですね。ちょっと驚きました。

(美保)
そうなんです。農家さんは個人事業主のかたが多く、農作業を一人で行うケースも少なくありません。企業であれば、例えば、1時間作業したら10分休憩などのルールを設けて従業員を管理しているところも多いと思いますが、個人事業主のかたは自分自身のご判断に委ねられています。そのため、先ほどお二人がお話しされていたように、「もう少し頑張ろう」「日が暮れる前に、きりのいいところまでやってしまおう」と無理をして事故に遭うことがあるのだと思います。

(杉浦)
特に注意が必要なのが、農業経験が浅いかたなんですよね。

(美保)
はい。農作業中の事故の発生割合を分析してみたところ、雇われてからの経験期間が3年以下のかたが過半数を占めています。また、年齢は50代以上で事故発生の割合が高くなることが分かっています。

(杉浦)
これはですね、会社を定年退職後に農業を始めるかたもいらっしゃいますから。そういうかたは特に注意してほしいですね。

(美保)
そうですね。ただし、ベテランのかたであっても実際に事故は起こっています。経験があるからこそ、慣れや油断が生まれ、重大な事故に直結することがあるんです。ですから「農作業中の事故は誰にでも起こり得るもの」こうした意識をもって、日々の作業に取り組んでいただきたいと思っています。

(村上)
事故を防ぐために気を付けておきたいポイントはありますか?

(杉浦)
そうだよね。ここからは、事故を防ぐために気をつけておきたいポイントを伺いましょう。まずは、農作業中の死亡事故が最も多く発生している、農業機械の安全対策から教えてください。

(美保)
はい。農業機械事故のうち最も多いのは「機械の転落・転倒」による事故です。トラクターやコンバインが農道から畑に転落・転倒したり、畑への出入り口など、農地のきわでの作業中に転落する事故が目立っています。

(村上)
トラクターって、タイヤも大きくて、車体もガッチリしてるじゃないですか? あれが転倒したり転落したりするなんて、ちょっと想像できないですよね。

(美保)
そうですよね。でも、田んぼや畑はアスファルトの道路とは違って、地面がデコボコしていたり、不安定な場所が多いんです。しかも、農道は田んぼや畑よりも高い所にあることが多くて、その農道のカーブを曲がる時にハンドルやブレーキ操作を少しでも誤ると脱輪してしまい、そのままバランスを崩してトラクターごと斜面を転がり落ちてしまうこともあるんです。

(杉浦)
勢いよく転落したら、運転している人は車体から投げ出されたり、下敷きになってしまったりする可能性があるんですよね。僕も佳菜子ちゃんも、トラクターに乗って作業したことがあるんですけども、やっぱりかなり大きいし。運転も結構レバーとかも多いじゃん? 難しいよね。

(村上)
カーブする時とか難しいイメージがありますね。

(杉浦)
田んぼの中だったらいいのかもしれないけど、農道だと、道が狭いから怖いんだよね。あぜ道とかさ。

(村上)
確かにそうですね。怖いですねー。

(美保)
農業機械は、大型の機械ですので、安全に扱うための研修などをしっかりと受講してもらうことが大事なのかなと思います。

(杉浦)
車もそうだけど、慣れって怖いよね。

(村上)
本当に、自分は大丈夫と思い込むのが一番怖いですよね。コンバインも同じような事故が多いんですか?

(美保)
はい。コンバインの場合も、同じように転落・転倒事故がありますが、それに加えて、死角が多い機械ですので、作業している人に気付かずひいてしまう事故も発生しています。また、コンバインは稲や麦などを刈取りしたり、脱穀したりする機械なんですが、脱穀部に稲を投入する作業を手で行う時に、誤ってチェーンに腕が巻き込まれる事故も起きています。

(村上)
安全対策のポイントを教えてください。

(美保)
はい。まず、安全装備をしっかり着けてください。トラクターやコンバインに乗る時はヘルメットを装着してください。またトラクターには安全フレームといって、転倒しても運転者の身を守る装備がありますので、運転する時は必ずシートベルトを装着して、安全フレームを立てて使用してください。

(杉浦)
基本こそしっかりと守っていただきたいですね。

(美保)
はい。また、農道やほ場(農作物を栽培するための場所)で「転落・転倒する危険性のある場所については、あらかじめ目印を付ける」「草を刈って見やすくする」などの対策を実施してください。「狭い道のカーブでは徐行運転」も心掛けてください。

(村上)
コンバインの場合も安全対策のポイントは同じですか?

(美保)
そうですね。コンバインの場合はこれまでの対策に加えて、一緒に作業する人と意思疎通をしっかり取ってから、作業を行なってください。コンバインは死角の多い農業機械です。動かす際は他の作業者のいる位置を確認し、声を掛け合ってください。

(村上)
これも慣れてしまうと疎かになりそうなことですよね。声をしっかりと掛け合っていただきたいと思います。

(美保)
また、コンバインの脱穀部の点検や掃除をする時は、手が巻き込まれないよう、必ずエンジンを止めて行なってください。手で脱穀作業をする時は、手袋や軍手、首に巻いたタオルなどは外して、袖口を締めるなど、機械に巻き込まれにくい適切な服装にしてください。

(村上)
手を守るために手袋や軍手を着用した方がいいのかと思ったら、反対なんですね。

(美保)
はい。手袋や軍手はチェーンに巻き込まれやすいので、手で脱穀作業をする時は、外すのが基本なんです。

(村上)
そうなんだ。

(杉浦)
では続いて、農作業中の事故の中で2番目に多いという「熱中症」に対する安全対策を教えてください。

(美保)
はい。農作業中の基本的な熱中症対策は、一般的な対策とさほど変わらず「こまめに水分と塩分を補給すること」が基本です。また「高温下での長時間の作業は避け、絶対に無理をしない、頑張りすぎないこと」「20分おきに休憩と水分・塩分補給をして、休憩は涼しい日陰などで作業服を脱ぎ、体温を下げるように心掛ける」ことです。何かあった時のために、できるだけ単独での作業も避けた方がよいです。

(杉浦)
それから「プレクーリング」もお勧めですよね!

(村上)
プレクーリングってなんですか?

(美保)
はい。「農作業を始める直前に、冷たい飲み物や冷やしたタオルで体温を低下させると、農作業中の体温上昇を抑える効果がある」と言われています。これは、家庭菜園をされるかた、建設現場で働くかたなどにも有効な方法だと思います。

(村上)
「作業の直前に体を冷やす」なんて、知らないかたもいそうですね。

(美保)
はい。また近年は、熱中症対策グッズとして、通気性のある帽子やネッククーラー、ウェアラブル端末もありますから、そうしたグッズを活用していただければと思います。

(村上)
「ウェアラブル端末」って、どういったものですか?

(美保)
手首などに装着するデバイスの総称なのですが、熱中症対策としても、スマートウォッチのように手首に装着してアラートを発信するものがあるんです。こちらは人間の体温を推定し、上昇を検知したら、光や音、振動により装着している人に熱中症リスクを教えてくれるんです。

(村上)
そういったものが、今あるんですね。

(美保)
はい。手頃な価格のものもありますので、残暑が続くこれからの時期も気を抜かずに、こうしたものを活用するのも対策の一つだと思います。

(杉浦)
命を守るものですからね。農作業にもデジタルを活用する「スマート農業」の時代ですからね。

(美保)
はい。これから収穫の時期を迎え、農家の皆さんは一段と忙しくなると思います。でも、どんなに慣れた作業でも、ちょっとした油断が、思わぬ事故につながることがあります。だからこそ、今一度、日々の作業を見直して安全第一で取り組んでください。また、各地域で農作業安全についての研修会が開催されておりますので、このような機会も活用して、正しい安全知識を学んでいただければと思います。

(村上)
今日の話を聞いて特に注目したのは、私は「農作業中の熱中症対策はお済みですか?」。呼び掛けて、皆さんに気を付けていただきたいなと思いました。

(杉浦)
僕は、「農作業 一番危険なのは 慣れです」。本当に気を付けていただきたいです。


「 関連リンク 」
農林水産省「農作業安全対策」
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