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企業対応は待ったなし! 下請法は取適法へ変わります

企業対応は待ったなし! 下請法は取適法へ変わります

発注者と受注者の対等な関係に基づいた取引の適正化を目指し、「下請法」は、名称から内容まで改正され、来年(2026年)1月1日からは「取適法(とりてきほう)」として施行されます。

今回は、「企業対応は待ったなし! 下請法は取適法へ変わります」というテーマで学びました。
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(杉浦)
最近、モノやサービスの値段が上がってますけども、佳菜子ちゃん、実感してますか?

(村上)
すごくしてます!! もう、何でも上がってます。ガソリンも上がってるし、私はかき氷屋さんをしてますけど、フルーツが上がってる。やっぱり原材料が…、お砂糖もそうだし、氷も、牛乳とかも。だからお客様に提供する時の金額も上がっちゃうっていうか…。不本意ですけど。

(杉浦)
もっとリーズナブルな価格で食べてもらいたい、けど、上げざるを得ないと。モノやサービスの値段が上がっているのは、主に原油や原材料の価格高騰とか、賃金の上昇によってコストが上昇しているからなんだけどね。ガソリン代が上がれば運送料も高くなるし、原材料費や賃金が高くなれば製造コストも上がる。だから、消費者も含めてみんなでコスト上昇分を適切に分担するのは当然のこと、ということでね。

(村上)
そうですね。値上がりは、いろんなことがあるので、ある程度は仕方ないということですよね。

(杉浦)
そうだよね。でもね、立場の弱い下請け事業者は、発注元に値上げをお願いしづらくて、コスト上昇分を価格に乗せられないことも少なくないんだよね。

(村上)
やっぱり、仕事を発注する事業者の方が、立場が強い印象はありますもんね。

(杉浦)
「うちが発注してるから」みたいなね。ただ価格の転嫁が適切に実施されないと、下請け事業者の経営が圧迫されちゃうでしょ。下請け事業者は主に中小企業で、日本の企業はほぼ中小企業じゃん? つまり、下請け事業者の経営が圧迫されるということは、日本経済そのものが弱まってしまうことにつながるんだよね。そこで、下請け事業者の利益を守り、適切に取引が行われるように設けられているのが「下請法」という法律なんだけど、この法律の内容や名称が改正され、その通称も「取適法(とりてきほう)」に変わり、来年(2026年)1月1日から施行されるんです!

(村上)
あと2か月ちょっとですね。

(杉浦)
そこでですね、今日は改正される内容のポイントを絞って学んでいきたいと思います。講師にお迎えしたのは、公正取引委員会企業取引課の小山 光弘さんです。

(村上)
小山さん、まず「下請法」が「取適法」に変わるということですが、これってどうしてなんですか?

(小山)
はい。本来、発注者と受注者は対等な関係ですが「下請け」という用語には上下関係など、対等な関係ではないような印象を与えるとの声があります。また、時代の変化に伴い、近年「下請け」という用語を使わなくなってきています。こうした背景もあり、今回「下請法」が「取適法」に変更されることになったんです。

(杉浦)
「取適法」は、正式には「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」と言って、略称が「中小受託取引適正化法」。それで、通称が「取適法」となるんですよね。ちなみに、漢字で書くと、「取引」の「取」と「適正化」の「適」で「取適法」と。

(村上)
ほー…。正式な名称はめちゃくちゃ長いんですね。

(杉浦)
今、説明しましたけども、長いのよ(笑)

(小山)
はい。ですので、今日はまず「「下請法」が「取適法」になる」ということを知っていただければと思います。また、これに伴って、これまで法律での「下請事業者」は「中小受託事業者」、「親事業者」は「委託事業者」という用語に変更されます。

(村上)
名称が変更されると、初めは混乱するかもしれないですけど、早くから新しい用語を使っていると「時代に敏感なできる人」って感じがしませんか? 意外に早く浸透するかもしれませんね。ところで、そもそも取適法はどういったことを定めている法律なんですか?

(小山)
取適法は、簡単に言えば、取引上強い立場にある発注者が、受注者に対して行う不当な行為を取り締まるための法律です。ただ、あらゆる取引に適用されるものではなくて、取引の内容と当事者の規模によって、法律の適用対象となる取引を決めています。遵守事項として、例えば、「委託事業者は発注の内容などを書面又は電子メールなどで明示しなければならないこと」や、「中小受託事業者に責任がないのに委託事業者が発注後に代金を差し引いて支払うこと」など、委託事業者の義務や禁止事項が定められています。

(杉浦)
取適法は「中小受託事業者の利益を守り、取引の適正化を目的にした法律」なんですよね。さあ、取適法の基本を押さえたところで、ここからは改正される内容について伺っていきましょう! 改正ポイント1「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」です。

(村上)
これはどういうことでしょうか? 小山さん。

(小山)
中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、委託事業者が、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなどして、一方的に代金を決定することが禁止されます。

(杉浦)
これは先ほどから出ている、「価格転嫁が適正に行われるように設けられた規定」ということですね?

(小山)
はい。「原材料価格が上がったので価格を見直したい」という申入れがあるにもかかわらず、「値上げの話は受け付けない」と言って協議に応じず、一方的に価格を決定することがないように、価格協議の求めがあればきちんと協議することが義務付けられます。

(村上)
それであれば中小受託事業者も言い出しやすくなりますね。まずはきちんと話し合いをして、お互いにとって納得のいく落とし所を探していければいいですよね。

(杉浦)
そうだね。では、続いての改正ポイント2「手形払いなどの禁止」です!

(村上)
手形って、聞いたことあるけど、どういうものかは知らないです。

(杉浦)
そうだよね。でも手形は、企業間の取引において使われている支払手段の一つで、それが今回の改正によって禁止になるという、とてもとても重要なことなんです。

(村上)
小山さん、そもそも手形ってどういうものなんでしょうか?

(小山)
手形とは、将来の特定の期日までに、記載された金額を支払うことを約束した有価証券です。手元に現金が無くても物品やサービスを購入でき、支払を先延ばしにできるメリットがあるので、現金に代わる支払手段として企業間で利用されています。

(村上)
そうなんですね。その「手形による支払が禁止になる」というのはどうしてですか?

(小山)
近年、対象取引における現金払いの割合は増えてきており、支払を先延ばしにする効果を持つ手形払いは、中小受託事業者に資金繰りの負担を押し付け、その管理コストは、受け取る事業者に大きな負担をかけています。こうしたことから、手形払いが禁止されることになりました。また、現金以外の支払手段である「電子記録債権など」についても、納品日から60日以内で設定される「支払期日までに代金の満額が得られないものを禁止」します。

(村上)
中小受託事業者は、今後は「支払期日までに必ず代金を満額得ることができるようになる」ってことですよね。仕事の対価はなるべく早く受け取りたいというのは誰もが思うことだと思うので、中小受託事業者にとって、これは朗報ですね。

(小山)
そうですね。ただし、手形を使用していた委託事業者にとっては、期日までに資金を用意して支払わなければいけませんので、この改正は、実務面で大きな影響が生じるものになると思います。

(杉浦)
そうですね。企業にとって資金繰りは重要ですから、注意が必要な点ですね。では、取適法の改正ポイント3「適用対象の拡大」! 小山さん、説明お願いします。

(小山)
はい。冒頭でお話したとおり、取適法は、いくつかの要件で適用対象となる取引を定めています。その一つが「取引当事者の規模の基準」です。これまでは、取引当事者の「資本金」が規模についての一つの基準でしたが、今回の改正では、新たに「従業員の人数」という基準も加わりまして、今後の取適法の適用対象としては、「資本金の基準」と「従業員数の基準」のいずれかを満たすことが一つの要件となります。

(杉浦)
これまで、事業規模が大きくても資本金が少なく適用対象外だった発注者でも、従業員数の基準を満たす場合は、取適法の適用対象になるなど、発注者・受注者ともに「従業員数の基準」が加わることによって、「適用される企業の範囲が広がった」ということですね。

(小山)
おっしゃるとおりです。このほか、法律が適用される取引かどうかについて、「取引の内容」によっても要件が定められています。その取引内容は多岐にわたるのですが、今回、その一つに「特定運送委託」が追加されました。

(村上)
「特定運送委託」?

(杉浦)
まず、これまでどういった取引内容が適用対象だったかと言いますと、「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」、大きくこの四つがあったんですよね。

(小山)
はい。「製造委託」は、物品の販売や製造を請け負う事業者が、規格や品質、形状、デザインなどを指定して他の事業者に製造や加工などを委託することです。例えば、自動車メーカーが自動車の部品の製造を部品メーカーに委託することがこれに当たります。同じく「修理委託」は、物品の修理を請け負う事業者が、その修理を他の事業者に委託することです。

(村上)
それらはすぐにイメージできますけど、「情報成果物作成委託」と「役務提供委託」の内容がぼんやりな感じです。

(小山)
「情報成果物作成委託」という法律用語だと難しく聞こえますけれども、これはソフトウェアや映像コンテンツ、各種デザインなどの提供や作成を行う事業者が、他の事業者にその制作作業を委託することです。例えば、ゲームソフトのプログラムや、映画、ラジオ番組、商品や容器のデザインなどが情報成果物で、その作成を委託する取引が法律の適用対象ということです。また、「役務提供委託」の「役務」とは「サービス」のことでして、例えば、他社から清掃やビルのメンテナンスを請け負った事業者が、その仕事を他の事業者に委託することが「役務提供委託」に当たります。

(村上)
なるほど。これまでは、そういう取引内容が法律の適用対象だったんですね。では、これに追加されるという「特定運送委託」というのはどういう取引内容なんですか?

(小山)
これまでは、運送事業者が、請け負った運送を他の運送事業者に委託する取引については、役務提供委託として対象でしたが、「荷主と運送事業者との取引」は、現行法の対象ではありませんでした。これが、今回の改正により、製造や販売に関連して、「自社の製品を運ぶ行為を他の事業者に委託すること」も「特定運送委託」として取適法の適用対象になります。

(村上)
そういうことなんですね。

(小山)
はい。また、これまで公正取引委員会と中小企業庁が、定期調査や違反行為の是正などを行い、厳しく取り締まってきましたが、今回の改正により、事業を所管する省庁、例えば、運送業だと国土交通省も指導や助言ができるようになります。今後、法律の執行について省庁間で更に連携を図って、取引の適正化を推進していきます。

(村上)
いろいろお話を伺ってきましたけど、今回の法律の改正で、中小受託事業者がより守られることが期待できそうですね。

(小山)
来年(2026年)1月1日から「下請法」が「取適法」に変わり、適用対象となる取引内容や事業者の範囲が広がります。また、取引における手形払いなども、1月1日以降に発注を受けた分は禁止となります。今一度、取適法の基準を確認し、委託事業者も中小受託事業者も、みんなで安心して取引できる環境を作っていきましょう。

(村上)
今日の話を聞いて特に注目したのは、「「下請法」は「取適法」へ」です。

(杉浦)
僕は、「適正な取引をしましょう」と。来年(2026年)の1月1日から「取適法」に変わりますからね!


「 関連リンク 」
公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」
公正取引委員会「中小受託取引適正化法ガイドブック」(PDF)
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