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はじめの100か月の育ちビジョン

はじめの100か月の育ちビジョン

全てのこどもが健やかに育っていく特に大切な時期に、保護者や養育者だけでなく、社会全体でできることがあります。
今回は、「はじめの100か月の育ちビジョン」というテーマで掘り下げました。
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(村上)
「はじめの100か月の育ちビジョン」?初耳ですが、こどもに関することなんですか?

(杉浦)
実は、今まさに子育て中の僕も、初めて聞いた言葉なので、予習してきました!そもそも、「はじめの100か月」とは何を指すのかというと、お母さんがこどもを妊娠してから小学1年生までのことです。こどもの生まれた月によって変動はありますけど、誕生前から7歳までがだいたい100か月。そしてこの時期が、長い人生において非常に重要な時期であることから、一人ひとりが健やかに育つことができるよう、みんなに大切にしてほしい考え方をまとめたもの、それが「はじめの100か月の育ちビジョン」なんだそうです。

(村上)
「みんなに」ってことは、子育てしていない私とかにも関係するってことですかね?

(杉浦)
そうなんです。今日はそこが重要なポイントの一つ!この「はじめの100か月の育ちビジョン」は、子育てしている保護者や養育者はもちろんのこと、お医者さんや保育士さんなど子育てに関わる人だけではなく、親戚や近所の人、自治体の人、企業やメディアの人などなど、つまり、社会を作っている全ての人で共有して大切にしたいビジョンなんです。

(村上)
それって具体的にどんなことなんですかね?スポーツも、私もそうですが3歳からやっていて、幼いうちから始めたほうが有利という考え方がありますから、なんとなく大事なんだろうなとは思いますけど、改めて「はじめの100か月」と言われるともう少し掘り下げたくなっちゃいます。

(杉浦)
そこ「もっと知りたい!」ですよね。ということで、今日の講師はこのかたをお招きしました!玉川大学教育学部教授で、「はじめの100か月の育ちビジョン」の策定にも携わった大豆生田 啓友先生です。大豆生田とは珍しい名字ですね。今日は豆先生とお呼びしてもいいですか?

(豆先生)
もちろんです。

(村上)
豆先生!まず、どうして「はじめの100か月」が重要なのかお聞きしたいのですが。

(豆先生)
はい。一般的に0歳から7歳、8歳までの脳は、その発達において特に環境の影響を受けやすい時期であると言われています。

(杉浦)
分かりやすく言うと、脳が柔らかいから、良いことも悪いこともどんどん吸収しちゃう、そんなイメージですよね。

(豆先生)
はい。また、生涯の健康や特定の病気へのかかりやすさは、胎児期や生後早期の環境の影響を強く受けて決定されるという考え方もあります。さらにアメリカの研究で、質の高い幼児教育は長期にわたって影響を与えるとされていて、幼児期までの重要性は世界的にも確認されているんです。

(杉浦)
つまり「三つ子の魂百まで」じゃないですけど、「はじめの100か月」までに健やかに成長すれば、その後も幸せに生きられる可能性が高いみたいなことですか。

(豆先生)
そうなんです。でも残念ながら、その大切な時期を健やかに過ごせるこどもばかりではないんです。貧困や虐待などにより厳しい状況にあるこどももいます。実際、児童虐待により亡くなる子の約半数は、0歳から2歳、つまり「はじめの100か月」の時期にあるこどもです。

(村上)
そうなんですね。知らなかったです、そんな悲しい現実があるとは。

(豆先生)
また、日本の子育てを取り巻く環境は大きく変わりました。少子化が進んで、兄弟の数が減ったため、保育園などに通うまでは、こども同士で育ち合う機会や、保護者以外の大人と関わる機会、様々な社会文化や自然などの環境に触れる機会が、家庭の環境によってものすごく左右される現状があります。

(杉浦)
今は昔と比べて、いろんな人が子育てに関わったり、十分な遊び場がある環境ではないから、家庭によって差が生じてしまう場合があるということですね。

(豆先生)
はい、そうなんです。こうした背景などもあって、「こどもまんなか社会」の実現を目指すこども家庭庁を中心とした政府がまとめたのが「はじめの100か月の育ちビジョン」です。このビジョンには「置かれた環境にかかわらず、全てのこどもの「はじめの100か月」をみんなで支え応援していきたい。」という思いがぎっしりと詰め込まれていて、その思いを全ての人に共感してもらうことで、社会の考え方を変えていくきっかけになったり、国や自治体がどのような政策に取り組むべきかを指し示す羅針盤になれば、というふうに期待されているんです。

(村上)
いい方向にはきているのかなと思うんですが、具体的にはどんなビジョンが描かれているんでしょうか?

(豆先生)
「はじめの100か月の育ちビジョン」では、こどもの育ちにおいて大切にしたいことを、大きく「五つのビジョン」としてまとめています。一つ目が「こどもの権利と尊厳を守る」。二つ目が「安心と挑戦の循環を通してこどものウェルビーイングを高める」。三つ目が「こどもの誕生前から切れ目なく育ちを支える」。四つ目が「保護者・養育者のウェルビーイングと成長の支援・応援をする」。五つ目が「こどもの育ちを支える環境や社会の厚みを増す」。この五つなんです。

(杉浦)
豆先生はこの「はじめの100か月の育ちビジョン」について、どのような印象を持たれていますか?

(豆先生)
「はじめの100か月」が、こどもの生涯にわたる幸せにつながる大事な時期であること、そして、全てのこどもの育ちを社会全体で支えていくことが大切であること。この二つを、改めて「国」のビジョンとして明確に打ち出したことが、とても革新的だと思います。

(村上)
豆先生のような教育の専門のかたがそういう印象を持たれているのなら、期待もできますし、ますます内容が気になりますよね。

(杉浦)
では、ここからは、「はじめの100か月」の五つのビジョンの中から特に気になるものをひもといていきましょう。「はじめの100か月の育ちビジョン」は、置かれた環境にかかわらず、全てのこどもの「はじめの100か月」をみんなで大切にしていきたいと考えてまとめられたものです。ビジョン1は「こどもの権利と尊厳を守る」。ビジョン2は「安心と挑戦の循環を通してこどものウェルビーイングを高める」。ビジョン3は「こどもの誕生前から切れ目なく育ちを支える」。ビジョン4は「保護者・養育者のウェルビーイングと成長の支援・応援をする」。ビジョン5は「こどもの育ちを支える環境や社会の厚みを増す」でした。さあ佳菜子ちゃん、この中で気になるものはありますか?

(村上)
ビジョン2の「安心と挑戦の循環をとおしてこどものウェルビーイングを高める」ですかね。ウェルビーイングって、ちょこちょこ聞きますが内容までは分かっていないんです。豆先生、教えてもらっていいですか?

(豆先生)
「ウェルビーイング」とは、「身体、体」と「心」、そして「それを取り巻く環境や社会の状況」、これら全ての面で「良い状態・幸せな状態」にあることを専門用語で「ウェルビーイング」と呼んでいます。

(村上)
その「ウェルビーイング」を「安心と挑戦の循環」をとおして高めるってどういうことですか?

(豆先生)
こどもは不安な時などに大人が寄り添う「アタッチメント、愛着」により安心します。この安心を土台として、「遊びと体験」による「挑戦」を繰り返しながら成長していきます。例えば「アタッチメント、愛着」による安心と、「遊びと体験」が交互に出てくるわけです。赤ちゃんなんかでも、公園に行ったとき、歩けるようになってきたんだけど、まだ不安だから抱っこされていて、だけど目の前にはワンちゃんがいて、すごく興味があるんだけどなかなか不安があると触りにいけない。だけど、「安心」が持てるようになってくると自分から挑戦にいくじゃないですか。そういうことなんですよね。もう一つ例をあげると、公園に行くと、滑り台があって滑りたくても、こどもによっては、他のこどもがいると中に入っていけない!という場合。こどもは、滑り台に行ってみたい!と見ている。親からすると、早く滑り台に行ってほしいという気になるんですが、こどもからすると、自分が安心して「よし!行くぞ」と思えないと行けないので、まずはしっかり「安心」があって、自分から「よし、やってみよう!」と滑り台へ行き、できた!という「挑戦」、この循環です。「挑戦」というのは、ある意味、遊びや体験なんです。だから、遊びがすごく大事ということでもあるわけですよね。

(村上)
なるほど~!!

(杉浦)
いろんな角度の物事がウェルビーイングにつながると言ってもいいんですかね?

(豆先生)
そのとおりです。遊びというのは、自分からやりたい!と思ったことなので、こどもが自発的にすることって、すごく大事なんですよね。

(杉浦)
勉強になりますね。佳菜子ちゃん、他に五つのビジョンの中で気になるのはありますか?

(村上)
ビジョン3の「こどもの誕生前から切れ目なく育ちを支える」かな。これはどういうことですか?

(豆先生)
こどもの育ちには、「妊娠期」、「乳児期」、「おおむね1歳から3歳」、「おおむね3歳から幼児期の終わり」、「学童期」、「思春期」、「青年期」があります。その成長に応じた環境の変化でつまずくことがないように、全ての関係者で連携して育ちを支えることが重要なんです。例えば、「小1の壁」という言葉を聞いたことがありますか?

(杉浦)
ありますね。「小1の壁」は、保育園から小学校に上がったときに、環境がガラッと変わるのよ。そんなときに、親の働き方も、保育園に預けていた時のようにできなかったり、そのために学童が必要だったりとか、保護者・養育者プラス、お子さんにも大きな環境の変化が起こるため、どの家庭でも起こり得る問題ですよね。

(豆先生)
こうした問題が育ちの切れ目にならないように、保護者は働き方を見直したり、学童や地域のサービスを活用します。このような連携がスムーズに、当たり前にできる社会を作っていくことが望まれているんです。

(村上)
例えば、会社側が子育て中の従業員が働きやすいように環境を整備して、こどもの育ちをバックアップする、それが当たり前の社会を目指していこうってことですよね。こどもの育ちを応援するって、こどもに直接関係することだけじゃなくて、その保護者や養育者をバックアップすることでもあるんですね。

(豆先生)
そうなんです。ビジョン5の「こどもの育ちを支える環境や社会の厚みを増す」ということは、正しくそのことを言っています。こどもや子育てに直接関わりがある人もない人も、全ての人がこどもの育ちにとって大切な役割を担っています。こどもにとっては、周りの全ての人が育ちを支え、応援してくれる存在です。地域において、様々な人が関わり合い、つながっていくことで、こどもの育ちを支える環境や社会の厚みが増していくんです。

(村上)
なるほど!太陽さんは、実際にこどもを4人育てている最中ですよね。今日の五つのビジョンを聞いてどう思いますか?

(杉浦)
今、すごく感じたのは、みんなでこれを分かち合っていくことが重要で、子育て中のかたはもちろんなんですが、子育てをしていないかたも、理解をしていただいて、みんなでこどもを育てる社会をバックアップしていくというのは凄く重要なことだなと。これは、結構大変なことなんですよね。こどものいないかたに、理解を得られないこともあるから、みんながみんな同じ考えではない、だけど、そこであえて“みんな”という言葉が大事なキーワードだなと思いました。

(豆先生)
「はじめの100か月」は、人生を幸せな状態・ウェルビーイングで過ごすために特に大切な時期です。人生の一番初めのこの時期、全てのこどもが等しく健やかに育つことができるように、大切にしたい考え方をまとめたのが「はじめの100か月の育ちビジョン」です。是非このビジョンを知り、社会の全ての人がそれぞれの立場でこどもの育ちを支え、応援する社会を目指していければと思います。

(村上)
私が今日の学びの中で特に注目したのは「ウェルビーイング」です。内容までちゃんと理解できたと思います!

(杉浦)
僕は、やはり「みんなで」社会全体で子育て、これが大事だよね。

(村上)
周りのかたの影響って、こどもにとっては大きいですからね。

(杉浦)
親だけでなく、周りのかたなどいろんな支えがいるからね。


「 関連リンク 」
こども家庭庁「はじめの100か月の育ちビジョン」
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