みらい図鑑

VOL.144「漆の伝道師」 福島県

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縄文時代から現代にいたるまで、日本人が繋いできた暮らしの智恵。
それが、漆器です。



材料となる樹木と漆が豊富に採れる自然環境にあった福島県の会津地域では、
「会津漆器」が古くから伝統産業として栄えてきました。

ウルシの木は、育つまでに15年。
そして、1本の木から一生で採れる漆は、なんと、たったの牛乳瓶1本分。
さらに、器のもとになる木地は、長いもので数十年、自然乾燥させてから使うんだそうです。

漆器といえば、高価なイメージがありますが、その理由を知ると納得ですね。




「ぼくが考える漆器の魅力は3点あります。
一つめは、すべてが自然から生まれる素材だということ。
二つめは、お直しをしながら次の世代まで長く使えること。
三つめは、気持ちのいい手触りや口当たりです。」

そう話してくれたのは、貝沼航(かいぬま・わたる)さん。
福島県で、会津漆器の魅力を伝えるために、
オリジナルブランドの企画や販売などを運営する、“漆の伝道師”です。

自然のリズムにあわせて、人間が手を加える。
そんな漆器に魅せられた貝沼さん、
職人さんの作業場を訪問するツアーも企画していて、たくさんの人が訪れています。





漆器の価値について、貝沼さんはこんな風に語ってくれました。

「漆器は、ひとつの器が作られるまでに1年以上の時間を
かけて作られますが、その分、お直ししながら世代を超えて
使っていけます。安いものを使い捨てではなく、いいものを
長く使う暮らしが叶う器。これからの時代だからこそ、もういちど、
漆器が見直されるんじゃないかなと思っています。」


かけがえのない素材で作られる器。
だからこそ、使う人の人生に、長く寄り添うんですよね。


貝沼さんが手がける漆器「めぐる」のサイトはこちら。
http://meguru-urushi.com/

VOL.143「和竿」 埼玉県

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埼玉県の川口市で、200年以上の伝統を誇る産業が「釣竿づくり」です。
材料は、竹。
天然素材の竹で出来た釣竿、
ほんの数十年前までは、これが日本のスタンダードでした。


※昭和30年頃、青木町の和竿製造業者

「竹独特のしなりというか、粘りというか、“あたり”っていうんですけどね。
魚が掛かってからの手元に来るまでの感覚がすごく繊細で、
釣竿は、竹に敵うものはないと思うんですけどね。」

竹に敵う釣竿はない、そう教えてくれたのは、
埼玉県の伝統工芸士で「山野和竿店」、二代目の山野正幸(やまの・まさゆき)さんです。



弾力性に優れ、鋭い反発力を持っているのが天然の竹の特徴。
曲げてもしなやかに戻るため、魚に違和感を感じさせないといいます。

そして、手元に伝わる微妙な“あたり”の感触は、竹の釣り竿ならでは。
手応えのある釣りを楽しむことができるのが、和竿の魅力です。



和竿で使う竹は、竿の種類とその調子によって使い分けられます。

竹には、「新子」と呼ばれる一年竹、「二年子」と呼ばれる二年竹、
そして、「古竹」と呼ばれる三年以上の竹があり、
それぞれの特長によって、用いる竿の部位も異なるんだそうです。

「この釣竿づくりは、竹の伐採から製品をつくるまでのひととおりを、
一人の職人が作業します。
やっぱり竹選びがいちばんのキーになりますかね。」





すべての工程をひとりでおこなうことで、職人の想いが込められている「竹の釣竿」。
国内はもちろん、最近ではアジアにヨーロッパと、海外からの問い合わせが多いそうです。

和竿の実演販売、竹釣竿教室など、様々なイベントもおこなっている「山野和竿店」。
自分の手で素材の竹を触って、製造工程を体験して、
ようやくできあがった竿を水面(みなも)に垂らす。

これぞ、和の心を携えた、究極の釣り、、、ですよね。



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