みらい図鑑

VOL.176「かざりかんざし」

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女性の髪を美しく彩ってきた、かんざし。
そのルーツは、縄文時代までさかのぼります。

生命力豊かな自然の草花を髪に挿して、
悪いものから身を守る、「お守り」や「魔除け」としての役割を果たしていました。

時代と共に進化したかんざしが、脚光を浴びるのは江戸時代。
日本髪が定着。
それに伴い、髪型に合わせて、さまざまな飾りが作られるようになっていきました。

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「かざり工芸三浦」の三浦孝之(みうら・たかし)さんは、
4代目として家業を継ぐために、それまで勤めた広告代理店を退職して、
かざりかんざしの世界に飛び込んだという異色の経歴の職人さん。

動物や植物をモチーフに、
さまざまな細工をほどこしたかんざしをひとつひとつ作っています。

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「縁起の良い柄っていいますかね、たとえば、“カタバミ”という草花があるんですけど、
よく野原とか植木とかに生えてきちゃって、雑草扱いされてしまう草花なんですね。
昔の人の感性というのは、
“摘んでも摘んでも生えてくる”ということで、不滅や繁栄というように、良い意味で捉えてきたんですね。
そういう縁起も知ってもらいながら、使ってもらっているんですね。」

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トンボもかんざしの代表的な図柄です。
トンボの別名は、“勝ち虫”。
後ずさりせず、一直線に進んで獲物を捕らえる姿から、縁起の良い虫といわれ、
戦国時代には甲冑の飾りにも施されていました。

かんざしは、髪を止める道具ではあるけれど、
そのモチーフにはどんな意味があるかも伝えていきたいと語る三浦さん。

単に美しいものをつけるだけでなく、
モチーフの意味を知ると、心の持ち様も変わってくる。
それが、作り手としての喜びにつながるといいます。

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「かんざしって、1本作ると長く使ってもらえます。
3代使ってもらって、100年後に、自分が作ったかんざしが話題になっていたら、
職人冥利につきますよね。」

1本1本、意味をもった細工を施してつくる「かざりかんざし」。
その職人魂は100年後を見据えています。

VOL.175「越生うちわ」

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埼玉県のほぼ中央にある越生町(おごせまち)。
江戸時代から「うちわ」の生産で有名な地域です。

「越生うちわ」と呼ばれるこのうちわ、
持ち手の部分は平らで、仰ぐ部分が横一文字になるので、一文字うちわとなるのが特徴。

肩の部分から上に高く引っ張り上げて骨を編んでいくのですが、
高く引き上げながら編むことで、貼りが強くなり、強い風が起こせます。

さらに、柿渋を塗り、強度を増したことで、
七輪などのかまどに風を送る“お勝手道具”として、昔から重宝されてきました。

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※1950年代の店内

材料となる、竹や紙、いぐさが地域でとれていたことで、生産が盛んになった「越生うちわ」、
明治時代には、1年間に240万本が作られていましたが、
時代の変化とともにそのニーズも減少。

現在、その伝統を受け継いでいるのは、たった1軒だけとなっています。

それが、「うちわ工房・しまの」。
工房では、「オリジナルうちわ作り体験」もおこなっています。

5代目・島野博行(しまの・ひろゆき)さんのお話です。

「自分でデザインして貼り込んだうちわであれば、
うちわのファンになってくれると思ったんですよね。
そのファンづくりの一環として始めたんですよ。」

昔の用途に合わせて強度に特化したものだけでなく、
押し花を入れたり、和紙を貼ったり、、、気に入ったデザインのうちわを作ることで、
愛着がわき、身近において楽しむことができます。
「夏の赤いもみじと緑のもみじ。
押し花を集めまして、それを入れてもらうようにしているんですね。
完成した時は、皆さん、凄くいい顔をされるので、こちらも本当に嬉しいんですね。
そんなことで、ずっと、うちわ貼り体験をしています。」

あおげば風が生まれるのはもちろん、
そこにあるだけで、風を感じることができるのがうちわの魅力。

家にうちわを一本置く。
それだけで、夏の体感温度が変わるかもしれませんね。
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