みらい図鑑

VOL.146「奈良墨」 奈良県

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書道には欠かせないもの、「墨」。
日本で作られる墨のうち、9割以上は奈良県で生まれています。



中国から伝わった墨づくりは、奈良時代から1300年の間、絶えることなく続いてきました。
仏教文化の影響から日本でも写経が行われるようになり、日本での墨の製造が盛んになったのです。

江戸時代に入ると各地で墨が作られるようになりましたが、
実績のある奈良に優秀な職人が集まったため、奈良の伝統産業となりました。

そんな奈良に工房を構える「錦光園」。
伝統を守り、昔ながらの製法のまま、一つ一つ手作りで良質の「奈良墨」をつくっています。



奈良墨を作り続けて40年になる職人、
「錦光園」の六代目・長野墨延(ながの・ぼくえん)さんに伺いました。

「私の想いは、墨をすっている時間が大切やと思うんですね。
この時間にいろんなことを頭に想像して、また、お手紙を出す場合は相手のことを思うとか。
これは、今の時代のパソコンあたりには、
ちょっと真似ができないことやと思うんですよね。」



墨の世界により親しんで欲しいと、工房では、「墨作り体験」もおこなっています。

「にぎり墨体験といって、生の墨ですね、
自分の手のひらで感じてもらって、それを握るんですね。
そうしたら、自分の指紋がついた、自分の握った形の墨ができるんです。」

生の墨を握った瞬間の香りややわらかさ、温かさが体感できるという「にぎり墨」、
自分の手型や指紋がついた、世界に一つしかないオリジナルの「墨」です。



昔ながらの製法で、一つ一つ手作りで墨を作り続ける長野さん。
ワインやウイスキーと同じように、
良い素材を使った墨は、時間が経てば経つほど良い墨になっていくそうです。

時間をかけ、心を込めて墨をする、、、
その時間に馳せた様々な思いが、“書”にあらわれるんでしょうね。

VOL.145「つづら」 茨城県

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今回のタカラモノは、竹で編んだ、蓋つきの収納箱、「つづら」です。
昔ばなしの「舌切りすずめ」に登場する四角いカゴでおなじみですね。



「つづら」は、江戸時代には生活に欠かせない家財道具で、
着物などを入れて、嫁入り道具としても使われていました。

昭和初期には、全国に250軒ほどあったつづらのお店ですが、
いまでは、数えるほどになっているそうです。



茨城県のつくば市で、「高橋つづら店」を営む、
高橋 諭(たかはし・さとし)さんにお話を伺いました。

「手の感覚で全部やるので、竹も1本1本、硬かったり柔らかかったりと個性があり、
均一の薄さにするというのが大変ですね。」



材料である竹は、全て地元のつくば産にこだわって手作りしているという高橋さん、
1本1本、個性が異なる竹を1ミリ以下の薄さに剥いで、
四ツ目編みで、四角くカゴを編んでいきます。

竹を薄く剥ぐ作業は職人の技。
高橋さんはこの技術を習得するのに、4〜5年かかったんだそうです。

カゴの内側には和紙を1枚、
そして、外側には和紙を2重にしたものを、防虫効果のある柿渋をまぜた“フノリ”で貼り、
最後に、カシューナッツを原料とする樹脂塗料を塗って、完成です。



大量生産される収納ボックスではなく、職人さんの想いが編み込まれた「つづら」。
暮らしのなかに取り入れてもらえば、きっと生活は豊かになると、高橋さんは言います。

「当然、自分は、引き継ぎたい、残したいと思ってやっているので、
いま40歳ですけど、60歳になってから始動するのではなくて、
やりたいという人がいたら、早いうちに継承していきたいと思っています。」



つづらの色は、朱色、黒、濃い茶色の溜色と、全部で3種類。

機能性に優れた日本の伝統文化、「つづら」を“見せる収納”として、
現代の生活に取り入れてみるのも素敵ですね。
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