VOL.251「雄勝の硯」
室町時代から600年以上続く、硯(すずり)の名産地、
宮城県石巻市雄勝町。
東日本大震災による津波で被災した町で、
硯職人の遠藤弘行さんは、今日も、石を彫って硯を作っています。
「そうですね、仕事場も自宅も、何もかもなくなっちゃったんですけどね。
ノミ10本と原石さえあれば、どこでもできるんです。
だけど、いい石があっても、それを製品にする職人さんがいないとダメですよね。
作るしかないな、という想いで10年やっているんです。」
津波に流された、遠藤さんの工房と自宅。
瓦礫の中をかき分け見に行くと、震災前のものが見つかり、
かき集めているうちに、「ああ、これは、このまま作り続けろということかな。」、
と、思ったと遠藤さんは言います。
もともと職人ではなく、採石場で石を採る仕事を3代に渡ってしていた遠藤家。
雄勝の山にはいろんな良い石がある。
ですが、こだわりの職人がいないと硯は作れません。
良い石を製品として残したい、という思いで、
採石業から職人になったのが遠藤さんの父親でした。
「うちの場合は手作りなので、石を見ながら作るんですね。
一個一個、形が違いますよね。
その石の形を生かしながら硯を作るんです。」
父親の思いを受け継ぎ、
“石の個性を見る硯づくり”を、遠藤さんは続けています。
墨をすっているだけで、心が落ち着いてくる。
そんな硯を雄勝で作り続けたい、と語る遠藤さん。
「良い石と墨がマッチすると、気持ちが整うというんですかね。
それが一番良い硯だと思っています。
こういう、コロナの時代になって、うちのなかで時間を忘れるゆとりというかね。
ぜひ、石の硯でゆっくり墨をすって、
今の想いを書いてみてもらえたらな、と思っているんです。」