2017年8月6日
井伏鱒二
『黒い雨』
 (新潮文庫)

井伏鱒二は広島県深安郡(今の福山市)の出身。広島に原子爆弾が投下された時も、ふるさとに疎開していました。しかし広島市から離れているため、落ちたことはわからず、その10ヶ月後にあらためて広島市内を訪れています。「あんな前例のないことは空想では書けない」と実際に原爆を体験した人たちにその時の話をしてもらい、そのひとりが重松という人物でした。彼には原爆を受けた姪がいて、その病床日記を見せてもらえることになっていましたが、彼女はすでに亡くなり、日記も存在しないものとなっていました。そのため井伏鱒二はさらに多くの人に取材を重ね、あの日、被害を受けた多くの人の声をこの小説の中に蘇らせようとしたのです。

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