2018年12月2日

久生十蘭
『雲の小径』
(ちくま文庫「名短篇、さらにあり」)

心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。

作家の北村薫さんと宮部みゆきさんが選んだ名短篇が12編収められているアンソロジー「名短篇、さらにあり」。その中から今回は、久生十蘭の短編小説「雲の小径」を読んでみました。白川幸次郎という主人公が、大阪から東京へ移動する飛行機の中で思い出す奇妙な過去。それは3年前のクリスマスに亡くなった香世子という女とのミステリアスな関係です。「心霊研究会」に通い、亡くなった香世子の霊とつながりを持つ白川。その思い出が語られたかと思うと、意識は再び現実に戻り、彼の乗った飛行機は雲の中を飛び続けています。灰色の雲の上にしらじらと漂う薄明かり。それはまるで香世子が言う死後の世界の風景にそっくりです。

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