2019年09月22日

阿部昭
『天使が見たもの』
(中公文庫)

大学卒業後、昭和34年にテレビ局に入社。ディレクターとして活躍する傍ら小説を書き始めた阿部昭。昭和37年「子供部屋」という小説で文學界新人賞を受賞しています。今回取り上げた「天使が見たもの」は、それから14年後の昭和51年に発表された短編小説。母子家庭の少年が、亡くなった母を追って投身自殺したという実際の事件を題材にしています。「このまま病院へ運ばずに、地図の家に運んで下さい。家には母も死んでいます」という文章は、実際に少年が残したメモと同じ。そしてそのあと阿部昭が加えた「ここから少年の自宅までは、やく二百五十メートルということもわかった」という言葉によって、少年が抱えていた想いがより胸に迫ってくるのです。

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