2020年11月15日

古井由吉
『杳子』
(新潮文庫)

又吉直樹さんが「めまい」を感じた小説、古井由吉さんの「杳子」。まず題名から不思議です。「ようこ」という女性の名前ではありますが、「杳」という字には「はっきりとわからない」という意味があり、すでに小説の内容が暗示されています。山の深い谷底で出会う杳子と大学生。彼女が心のバランスを崩していることに気付きながら、引きつけられていく彼。まるで人の心の「ぼんやリ」としたところに分け入っていこうとするような作品です。「1回読んでわかったという小説ではなく、繰り返し読むことで発見がある」と小川洋子さん。ピースの又吉さんのように「めまい」を感じることが出来なくても、何度となく読んでいくと「杳として知れない」ものが少しずつ見えてくるかもしれません。

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