2021年3月14日

川上弘美
『センセイの鞄』
(文春文庫)

一杯飲み屋で注文するものが似ていたり、人との距離感が同じだったり、自然と心が寄り添っていくセンセイとツキコさん。お花見やキノコ狩りに出かけたり、センセイの家で飲み直したり、時にはケンカもするけれど、心惹かれるエピソードがたくさん出てくる「センセイの鞄」。恋愛というよりも「恋情」という言葉が似合う小説です。そしてふたりの「恋情」には、どこか死というものが漂っています。孤独をきちんと引き受けているからこそ、本当の意味でお互いを想い合うことが出来る大人の結びつき。そして物語の終わりも強く心に残ります。センセイの鞄を開けて、中を覗き込むツキコさん。そこには何が見えるのでしょうか?

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