2021年3月21日

泉鏡花
『春昼』
(岩波文庫)

主人公が散策を続けると、もう一匹蛇を見つけます。二匹の蛇は何かの暗示なのでしょうか?その後、お寺の僧侶からこんな話を聞くのです。以前この寺の客人だった若い書生が海で亡くなったとか。彼は‘玉脇みを’という財産家の奥様を何度か見かけるうちに恋に落ちてしまいます。その女性の家が、先程蛇が入っていった屋敷だったということです。怪しい夢のような小説「春昼」の世界。これは明治39年、泉鏡花が33歳の時の作品です。当時、鏡花は体調を崩し、神奈川県の逗子で静養していました。きっと普段から近所を散策していたのでしょう。平凡な春の散歩からスタートして、他の誰も行き着けない世界へ到達してしまう泉鏡花。時に読者さえも置き去りにしてしまう凄さを持っています。

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