2021年4月18日

川端康成
『千羽鶴』
(新潮文庫)

物語の冒頭から衝撃的な展開の小説「千羽鶴」。先を読んでいくと、まるで人間関係の深みにはまるような作品です。すでに亡くなっている菊治の父親には、栗本ちか子の他にも太田夫人という愛人がいました。菊治は円覚寺の茶会で彼女に出会い、自然と関係を持ってしまいます。しかし自分の罪深さを感じ、自ら命をたってしまう太田夫人。菊治は、その娘から夫人の形見として「志野の水差し」を渡されるのです。焼き物の名品と太田夫人の存在を重ね合わせる菊治。それはまさに作者である川端康成の視点そのものにも感じます。女性の美しさ、はかなさ、そしておそろしさを常に冷静に観察する目。これが川端文学のどの作品にも通じる共通点かもしれません。

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