石丸:このサロンでは、人生で大切にしている“もの”、“こと”についてお伺いしているのですが、今週はどんなお話を聞かせていただけますか?
東儀:今日は演奏をしているときの気持ちについてお話しましょう。
石丸:東儀さんは雅楽師でいらっしゃいます。今日は楽器をお持ち頂いてますが、これは……。
東儀:篳篥(ひちりき)です。
石丸:私は、目の前で見るのは初めてなんです。意外とコンパクトですね。
東儀: 18センチぐらいの竹の筒に指穴が9つ空いていて、形はリコーダーを想像していただければいいと思います。
1400年前に大陸から日本に入ってきてから、そこから一切、音色も形も変わっていないんです。いっぽう、シルクロードを伝って西にも運ばれていき、これが元になりオーボエやクラリネット、木管楽器になるんです。
(篳篥の演奏を聴いて)
石丸:風が吹いているような、心に染み入るような、そういった印象です。人間の声にも近い感じがしました。
東儀:そうなんです、昔の人はこの音を“人の声が楽器になった”という言い方をしていたんですね。
人が歌うときって、例えば、“ド”から“ソ”へいくのに、直線的に歌うこともあれば、揺らしたりもしますよね。篳篥も、すりあげたり、上から音を滑らかに落としたりと、声のように自由自在にできるんです。
石丸:それは指で操作しているんですか?
東儀:口の締め付け方とか、息の具合で操作します。
石丸:雅楽を宇宙的な視野で語られることがありますが、どのような関連性なんでしょう?
東儀:宇宙というのは広くアバウトな言い方をしていますが、森羅万象と音がひとつになっているということです。
“人間もひとつの宇宙だ”という考え方があるのと同じように、雅楽の成り立ちには陰陽道が絡んでいると言われています。
石丸:面白いですね。
東儀:鼻や肺、呼吸器系と波動が合う音など、雅楽にはいろいろな要素が含まれています。
石丸:そういう音が鳴っているときは、そういった効果があるんですか?
東儀:きっとあるのだと思います。例えば、「 “ソ”の音は肝臓と波動が合う」と言われています。だから、お酒の飲みすぎで肝臓に負担がかかっていると思う人は“ソ”の音を聴くと、肝臓が元の細胞に構成し直されるんじゃないかと言われています。
陰陽道というのは統計学ですから、様々なものから学び、何千年もかけて行き着いた科学だったのではないかと思います。
石丸:現代ではそういうことは伝わっていないような。
東儀:伝わっていたとしても、近代の工業的な所にいる僕らは気が付かないでいるのではないか。反応できるかもしれないのに反応が出来ていないんですね。