石丸:このサロンでは、人生で大切にしている“もの”、“こと”についてお伺いしています。今週は松之丞さんが尊敬する、あの方のお話です。
松之丞:はい。今日は「立川談志師匠」についてです。
石丸:立川談志さんのように生きたいという思いでしょうか?
松之丞:恐れ多くて、なりたい、生きたいというのはまったく思わないです。永遠のファンで、天上人です。
僕はこれまで、演芸に限らず様々なお芝居を観たり聞いたりしてきましたが、その中でダントツで談志師匠の落語は凄かったです。高校時代の僕は、“世の中にいる名人というのは口ばかりで、そんな人はいないだろう。いたとしても死んでいるだろう”と、当時は思っていました。
あの立川談志に対しても、そのような事を思っていましたが、実際に独演会に行ったところ、あまりの凄さに感動するどころか、すべてが変わった気がしました。
石丸:それは、彼の話術や空気感にですか?
松之丞:全部ですね。それまで映画などが娯楽の王様だと思っていました。
お金をかけている映画や多人数で演じるお芝居には勝てないだろうと思っていたんです。
しかし、談志師匠の高座は “鳥肌があれだけ立つのか”というくらい、鳥肌が立っていました。
終わった後もしばらく立てず、拍手をするタイミングも失って、
帰る道すがら電車に乗るときもずっと鳥肌が立っていました。
“こんな体験は、今までもこれからもないだろう”と、そのとき思いました。
石丸:そんなにですか。
松之丞:それくらい、素晴らしかったです。
もちろん、お芝居など、多人数でやる中での調和、手間なども素晴らしいのですが、
一人芸がそれを超えてしまうんだな、というのをまざまざと見せつけられた気がしました。
今まで聞いていた落語と全然違うんです。
石丸:そうなんですね。
松之丞:立川談志が凄かったのかもしれないですけれど、落語を通して立川談志が「お前の人生はどうなんだ」と、問い詰めてくる感じというか…叩きつけられるような気持ちになりました。
挑戦的で、それでいて若者を応援するような刺激も与えてくれて、年寄りの娯楽じゃないというのを見せつけられました。