石丸:このサロンでは、人生で大切にしている“もの”、“こと”についてお伺いしていますが、今週はどんなお話を聞かせていただけますか?
笠原:今日は「新宿の街」についてです。
石丸:笠原さんとどういう関係があるんでしょう?
笠原:私は新宿生まれではないんですけれども、料理人になって初めて修行を始めた場所で、料理人人生をスタートした場所が新宿なんです。
石丸:具体的にどちらですか?
笠原:新宿の百貨店の中にある懐石料理の店です。
石丸:吉兆さんですか。
笠原:そうです。
石丸:すごいところに修行に入ったんですね!
笠原:高校3年生で卒業して修行に出たんですけども、高校生だったのでそこまですごいお店ということをわかってなくて、入ってからすごさを目の当たりにしていきました。
使う食材から、器から……。“ここはすごいところなんだな。”というのがいろんなところから垣間見えました。
石丸:いわゆる先輩となる人は何人くらいいらっしゃるんですか?
笠原:あの当時はすごく忙しかったので調理場には全員で25人ぐらいいました。
石丸:何年間ぐらいいたんですか?
笠原:9年間いました。最初の1年間はほとんど下働きですよね。掃除をしたり、築地に朝行って荷物を持ってきたり。
石丸:自分で食材を選ばせてもらうようなこともありましたか?
笠原:いえいえ。担当の方いるので、買っておいてくれるのを持って帰ってくるだけという感じです。運び屋ですね(笑)。
石丸:自分で選べるようになるのは何年目ぐらいなんですか?
笠原:食材を市場に行って選ぶようになったのは、だいぶ後ですね。6年目7年目ぐらいです。
石丸:どういうタイミングでそうなれるのでしょう?
笠原:買い出しもそうですし、今までやってなかった上の仕事をやれるようになるのは、その先輩がインフルエンザで倒れたとかで突然チャンスがやってくるんです。
そのときにできないと、もう二度とやらなくていいと言われてしまいます。
石丸:厳しいですね。
笠原:そうなんです。なので、その日のためにいつも備えておいて、あの先輩が休んだらあの仕事が俺に回ってくるな、というのを虎視眈々と狙ってましたね。
石丸:そんな笠原さんにとって、新宿という街にはどんな思い出が詰まっていますか?
笠原:まだ19歳の子供にとっては、最初はちょっと怖かったですね。
大人の街だなという感じがしましたし、約30年前ですから今よりも怖い人も歩いていました。酔っ払ってる方もいっぱいいたり(笑)。
でも、 “大人の街に来たな。”という感じがしましたし、新宿は誰もが似合う街だなと思うんです。
渋谷ですと若者の街というイメージがありますし、銀座ですと大人の落ち着いたイメージがありますけど、新宿って若い子も年配の方もいますよね。いろんな人がいて、誰がいても似合う街。僕の性格に合ってる街だなと思いました。