石丸:4週にわたって、人生で大切にしている“もの”、“こと”についてお伺いしてきましたが、 最終週は“時を重ねながら、長く大切にしていきたいこと”についてお聞きします。
それは、何でしょうか?
石井:一生懸命じゃなくて「一所懸命」ということです。一生ではなく、一つのことに命を懸けて頑張る。
それだったらできるんです。例えば、ツアーも“あと29回もあるんだ。”って思っちゃったら遠い道になっちゃうじゃない。でも、今日1日だけ観に来ているお客さんはいっぱいいるわけです。だから今日の一回のために全力でやろうって思いながら今までやってきた気がします。
飽きっぽい人間なので、自分に課さなければできないところもあって。ひとつひとつ、とにかく懸命にやっていくということで「一所懸命」なんです。
石丸:それが繋がれば、一生懸命になっていくということですね。
石井:人間ってその瞬間を頑張ってみることは多分できると思うんです。そういう単位で物事考えていくと集中力も増すだろうし、賢明さとか努力とか、お堅い言葉の部分でも我慢できるかなと。
どんな仕事でも我慢しなきゃいけないことはありますよね。歌が好きで勉強して歌の道に入った。じゃあ好きなことだけでいいのかと言ったら、そうじゃない。ここはスタッフの意見を聞いてやった方がいいなって思うこともあるだろうし、それで発見することもあります。
僕らは「好きなことをして飯が食えるんだからいいよな」ってよく言われるんですけど、好きなことをやってるからこそ、微妙な違いが辛いということも多いじゃないですか。
自分はこれがやりたいんだけど、売れるのはこっちだからこっちを求められてしまう。
石丸:自分だけじゃなく周りの意見も考えないといけない。
石井:そうですね。その瞬間だけ集中すれば、嫌だなとか、ちょっとハードル高いなと思っても努力できます。
石丸:今の自分に向き合ってるからそういう風にエネルギーが湧くんだと思います。
石井さんは60歳とおっしゃってましたけども、見た目やエネルギーの部分では60歳じゃない気がするんです。秘訣は何ですか?
石井:やっぱり、若い人の方が好きなんですよね。下手でもいいからこれからのミュージシャンを育てたい。そちらの方が新しいフレーズとかも出してくれたりするんです。なので、比較的若いミュージシャンと一緒にコンサートとかをやったりしています。
自分では気がつけない時代の潮流とかもあるじゃないですか。そういうのは同じ年代の人とずっとやっていてもわからない。
もっと今の音を出してくれるような人たちとやったほうが刺激があるのかなと思っています。
石丸:貪欲ですね。
石井:オーケストラでもすごい方とやるのは大光栄なんですけど、音楽大学に行っている学生のオーケストラと歌ってみたいなという思いの方が強いかもしれません。
石丸:それは、僕も忘れかけていた部分ですね。
石井:周りのスタッフは僕のイメージやキャリアとかを考えて見合った方を紹介してくれるんです。
それで自分がひと回りもふた回りも大きくなれればいいんですけど、50歳を過ぎてからは20代の頃のような成長はないわけですよ。それだったら相当刺激がないとビシッとしないな、と。
自分の中で新しいものを見つけようという感覚がなくなっちゃって、自分で蓄積したものから取っていく。それでも成立してしまう。でも、それだと面白くないんですよね。