石丸:このサロンでは、人生で大切にしている“もの”、“こと”についてお伺いしていますが、今週はどんなお話を聞かせていただけますか?
伊東:「自然体」であることですね。
石丸:伊東さんにとって自然体というのは?
伊東:一言で言えば“柔軟でありたい”ということです。
僕は柔道をやりませんけど、柔道の方はよく「押せば引け、引いたら押せ」と言いますよね。まさしくそういうことなんですね。
元々、僕は子供の頃から人の話をじっと聞いているような子供だったんです。あまり喋らないでじっと話を聞く子供だったので、それが未だに影響してるのかもしれないんですけれど、チームでスタッフと話をしてる時にもそうだし、クライアントと話してる時にもクライアントが“こうしたい”と言うと、一回自分で引いてみる。
自分の考えてることとは違うけれども、相手の言うことを聞いて自分の考えてることはどういう風に変わるだろうか、ということを一度考えてみるようにしています。
石丸:そういう方はなかなかいらっしゃらないと思います。
伊東:建築家でも、「これが一番いいんだ!」と突撃していくようなタイプの方も結構多いんですけれども、一度引いて自分でもう一回咀嚼すると、もっといいアイデアが出るんじゃないかと思うようなタイプなんですね。
石丸:そうすると、チームの他のメンバーも自分たちでも考えるわけですよね。クライアントの方も、キャッチして頂いたら次に返って来るものを非常に大事に受け取るでしょうし、人間関係もすごくスムーズにいくでしょう。
伊東:いつもそういうわけではないですけど、特に公共の仕事の場合には相手が役所の人たちになるわけです。
なので、実際にその建築を使う方ではないわけですよね。利用者はまた別にいる。役所としては管理のしやすい建物であるとか、安心安全であることが重要になってきます。必ずしも市民にとって快適な建築、居心地のいい建築になるとは限らないわけです。
そこがなかなか難しいところですね。
石丸:先生は、利用する人たちの気持ちを考えていらっしゃるんですね。
伊東:そこをどうやってクリアしていくか、ということが公共建築の場合は非常に難しいところだと思います。
石丸:一番難しかったのはどういう部分でのやり取りでしたか?
伊東:役所の人は自分たちが責任を取らなくてもいいと思えば、「やっていいよ」と言うんです。市長さんとかトップに居られる方が“これをやりたい!”と言ってくだされば、下の人はそれに従いますから、そういう意思決定者を見つけるということは僕らにとって重要なことですね。
石丸:そうですね。その方と伊東さんのチームがどれくらい合うかということですね。