石丸:このサロンでは、人生で大切にしている“もの”、“こと”についてお伺いしているのですが、今週はどんなお話を聞かせていただけますか?
佐藤:今日は「時間」についてです。
石丸:佐藤さんにとって「時間」とは?
佐藤:「時間」だけが、“どうしても戻って来ないもの”ですよね。例えば、デザインの仕事をしていると、当然締め切りがあって、「時間」に追われるわけです。けれども、良い物が出来るまでやり続けて、締め切りを守らない人って結構いると思うんです。
石丸:それはどの世界にもいますよね。
佐藤:でも、私の場合は「時間」は絶対ですね。極端に言うと、クオリティより「時間」の方を優先! そのくらい「時間」を大切にしたいと思っています。
石丸:かなり硬い意志ですね。
佐藤:「時間」は人と共有するものなので、それを自分が破ることによって、他の方に迷惑をかけてしまうじゃないですか。
石丸:共同作業である以上、そうですよね。
佐藤:デザインは常に共同作業です。自分の作品だとは思っていなくて。あくまで発注して頂くメーカーの作品であり、自分はそのお手伝いをしているという意識があるんですね。だから、 “絶対に迷惑をかけたくない!”という気持ちが最優先なんです。
石丸:“プロ”はそうでないといけないですよね。そうでない人もたくさんいますけど(笑)。
そういう「時間」との向き合い方において、「時間」に追われていると感じる時が多々あるかと思いますが、どのように対処されていますか?
佐藤:それはよくある事ですけども、ありがたいことに、常にいくつかお仕事をさせて頂いているので、一つの仕事に向き合った時に“アイデア出ない!”と思ったら、すぐに別の仕事に移ります。
石丸:並行して携わっている別のお仕事にパッと移るわけですね。
佐藤:どんどん頭を切り替えていくと言いますか、“今、これはダメだな”と思ったら、ポーンと違うところに。長くデザインの仕事をしている中で、短い時間で頭を切り替えていく技術が身についたのかもしれないですね。それか、“逃げ方が上手くなった”という事ですかね(笑)。
石丸:そんな佐藤さんが仕事から“逃げ出したくなってしまった事”ってありましたか?
佐藤:逃げたくなったというか…。今から15年くらい前に、自律神経がコントロール出来ない時期がありました。話をしていると急に気が遠くなったり、身体に異変が起きたりして、“一度デザイナーをやめてみよう”という気持ちにまでなりましたね。
石丸:そこまでですか!?
佐藤:当時のスタッフに、「あと一年で、いったんデザイナーを辞めるから」と言ったくらい(笑)。でも、その一年の間に色々と事務所を手伝ってくれる人が入ってきてくれて、徐々に元気を取り戻していけたんです。それで「辞めるの止めました!」って言ったんですけどね。
石丸:忙しすぎた事が大きな原因だったんですね。
佐藤:今から思えばそうですね。デザインの外の世界に完全に行ってしまう前に元気になれましたが、その手前まで気持ちがいった事は自分にとっては大きくて、“デザインの世界を客観視する目が持てた”という気がしますね。
石丸:そういう意味では大事な「時間」でもあったわけですね。
そもそも、佐藤さんが考える「デザイン」とは何でしょうか?
佐藤:まず、自分が至った前提としての考え方は、「デザインと関わりのない物事は何一つない」という事です。
石丸:具体的に言うと?
佐藤:「物のデザイン」もあれば「事のデザイン」もあって、“世の中の仕組み”とか“システム”なども「デザイン」なんです。例えば、政治経済とか医療とか福祉とかもデザインです。どんな分野でも、必ず物事と人の間には「デザイン」が存在する。
石丸: “物事と人を繋ぐ間のもの”も「デザイン」という事ですか?
佐藤:例えば、カーテンとかテーブルは「物のデザイン」ですが、右側通行・左側通行という約束、ルールも「(事の)デザイン」という考え方ですね。
世の中、色んな人たちが移動するじゃないですか。そこに信号機があって「青で進め! 黄色で注意! 赤で止まれ!」というルールがあって初めてスムーズに移動が出来るわけです。それは“移動をデザインする”という事ですよね。
石丸:(デザインの定義が)広いですね!
佐藤:私は、“デザインの概念”って物凄く広がっていると思います。
私から言わせれば、ご自身はデザイナーだと思っていらっしゃらないけれど、“実際はデザインしてますよ!”という人たちが世の中にはいっぱいいるんですよ。いわゆる技術者・エンジニアって言われている人たちも、広い意味で「デザイナー」だと思います。
石丸:これは意外でした!
佐藤:そういう風に「デザイン」を捉えるべき時代なんじゃないかと思っていますね。