TOKYO FM
GRAND SEIKO

Articles― 最新のTHE NATURE OF TIME ―

13 Jun.2020
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Vol.63井上芳雄さん(俳優)

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石丸:この番組では人生で大切にしている“もの”、“こと”についてお伺いしていますが、今日はどんなお話を聞かせていただけますか?

井上:今日は「いつも読み返す本」についてです。


石丸:その本は何でしょう?

井上:『夜と霧』という本なんですけど、ご存知ですか?

石丸:知っています。結構ヘビーな作品ですよね。

井上:そうですね。タイトルも“意味深”ですし、内容も確かに明るくはないんですけど。

石丸:どんな本かご紹介頂けますか?

井上:心理学者、精神科医のヴィクトール・E・フランクルが書いた本です。
彼はユダヤ人で、第二次世界大戦中ナチスによって強制収容所に入れられてしまうんです。心理学者・精神科医として元々持っていた考え、どういう風に生きたらいいのかを収容所内で試すことによって、何とか自分の気持ちを保とうとしました。その経験を書いた本です。
「ホロコーストの体験記」ではあるのですが、“それがどんなに残酷でどんなに酷かったか”を描くのが目的ではなく、その経験を通して彼が至った“考え方”を綴っています。

石丸:いつ、この本と出会ったのですか?

井上:中学生くらいの時に、母親から「これは絶対に読んでおきなさい」と急に渡されて。多分 母親が愛読していたと思うんですが。

石丸:中学生…。僕が読んだのは大人になってからだけど、難しい本ですよね。

井上:難しいし、最初に残酷な写真が載っていて、その時は写真の衝撃の方が強くて中身までいかなかったんですよ。でも、(大学入学で)上京する時に頭の隅に残っていたこの本を“持って行こう!”と思って。

石丸:映画『シンドラーのリスト』が公開されたあたりかな?

井上:そうだと思います。

石丸:作品を通じて、日本でもアウシュビッツの話を身近に感じられるようになっていましたね。

井上:杉原千畝さんのことも少しずつ知られてきた頃でしたね。だから本はずっと持ってはいたんです。(上京してから)“苦しいなぁ“と思うことが度々あったんです。それで“どうしよう?”と思うとこの本に目が行き、その度に読む…みたいな。

石丸:じゃあ、芳雄くんにとっては“バイブル”のようなもの?

井上:そうですね。それはありますね。そこに“助け”とか“救い”の言葉を求める、みたいなところはありますね。

石丸:そんな“大事な本”ですが、芳雄くんは何度か朗読劇で演っているんですよね。きっかけは何だったんですか?

井上:それが偶然なんです。東日本大震災の後、この本は沢山読まれていて、それで(たまたま)演出家の笹部博司さんから「朗読劇にしたいんですが、演ってくれませんか?」とオファーを頂いたんです。「実はこの本、僕は人生の1冊だと思っているんです」と伝えました。

石丸:凄いね!

井上・石丸:運命!

井上:それで1人芝居みたいにして演らせていただいて。ずっと演じていきたいなと思っているんですけど。

石丸:意義ある仕事だと思うよ。

井上:何というか、ちょっとやそっとの覚悟では演れない気はするんですけど、自分もいまだに教えてもらうことが多いので。

石丸:確かに。僕も(本を)読みましたが、心理学者の方の視点って、意外な“冷静さ”と言うか、ちょっと“シニカルなものの書き方”をされているなという印象がありました。

井上:具体的だったり実用的だったりすることも沢山ありますね。例えば本の中で、“クリスマスまでには自分達は解放されるだろう”とか、“ナチスの人達もクリスマスには休みをくれるだろう“というような根拠がない希望を持ってしまうと、それが実現されなかった時に、ショックの余り、生き続けられない人が沢山いた…というエピソードがあるのですが、まさにこのコロナ禍でも“いつまでに(自粛が)解除になるんだ”とか、“何月までには大丈夫かな”って、どうしても人間だから思うじゃないですか? それがダメだった時に、ドーンと落ち込むというか。

石丸:そうだね。今、我々が向き合っている事態を少し重ねることができる。

井上:そんな時に我々は“なぜ僕たちをこんな目に合わせるんだ!”とか、“神様!”“運命よ!”って言っちゃうんですけど、ヴィクトール・E・フランクルは「逆だ」と言っているんです。「運命が自分達に何を期待して、こんな目に遭わせているのかを考えてみてくれ」と言っているんですよね。

石丸:素晴らしい境地にまで辿り着いて本を残したんだな、と思いますね。芳雄くんは、朗読劇の時は“彼”になって読んでいるの?

井上:基本的には“公演をしている”という程で、「僕がヴィクトール・E・フランクルです」と言って演じています。

石丸:そのままを読んでいるというよりは、演じている……。

井上:抜粋したものを読んでいって、最後のパートだけ本を外して前に出て演じる、という。それで最後に曲を歌うんですけど。ちょっと不思議なタイプの“朗読劇”というか、“一人芝居”ですね。

石丸:それは是非、生で拝見したいな。今後のスケジュールには入ってないの?

井上:近々演る予定はないんです。でも、このコロナを経た僕たちに、きっと必要なメッセージを持った作品なんじゃないかなって思います。

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