石丸:関根勤さん、これから4週に渡り、どうぞ宜しくお願い致します。この番組では人生で大切にしている“もの”、“こと”、“場所”についてお伺いしていますが、今日はどんなお話をお聞かせいただけますか?
関根:今日は「東銀座ナイルレストラン」の“ムルギーランチ”についてです。
石丸:ナイルレストラン、有名ですものね。その看板メニューが、
関根:ムルギーランチなんですよ。
石丸:なぜこのメニューが、関根さんにとって大事なんですか?
関根:小さい時から凄くカレーが好きで、食べているうちに、“カレーはインドから来た”って情報を知ったんですよね。でもテレビでインドの風景や映像を見ると、“どうも自分が日本で食べているカレーは何処かを経由するうちに変化してきたんじゃないか”と思って、“本場のカレーを食べてみたいな!”って思ったんですよ。小学校高学年から中学校にかけての頃だと思うんですが、その頃は行動範囲が狭すぎて、本場のインドレストランがどこにあるかなんて分かりませんでしたからね。中学生の行動範囲なんて半径1キロぐらいですから(笑)。
それから時が経ち、『ぎんざNOW!』という番組で、僕はお笑いで5週勝ち抜いてチャンピオンになり、レギュラーになったんです。
石丸:『ぎんざNOW!』観てましたよ。
関根:1974年ぐらいに空前のグルメブームが来たんですね。イタリアンだとかカレーだとかトンカツだとか、それぞれを特集したグルメ本も色々と出たんです。それで僕が本屋さんでめくったカレーを特集した本の1ページ目に、「東銀座ナイルレストラン」がトップで書かれていたんですよ。
石丸:その当時にはもう、ナイルレストランがあったんですね。
関根:昭和27年創業ですから。
石丸:歴史がありますね。
関根:そうなんですよ。『ぎんざNOW!』を放送していたスタジオの場所は今の三越の新館の辺りでしたから、ナイルレストランまで3〜4分ですかね。
石丸:かなり近いですよね。
関根:だから本を買わなくても場所は直ぐに分かったんですよ。それで“本場のカレーの味はどんな感じなのかな?”と思って行ったのが最初です。
石丸:インド人の方がやってらっしゃるんですよね?
関根:そうです。創業者がA.M.ナイルさんという方で、息子さんがG.M.ナイルさんという方です。
石丸:三代目がいらっしゃるんですよね。
関根:三代目がナイル善己さんっていうんです。
初めてお店に行った時にメニューを見ましたら、日本語でも書いてあるんですけど何のことか分からないんですよ。「チキンカレー」とか書いてないんですよ。困っていたら、ラジャーンさんっていうホールをやっている方が来て、「ムルギーランチ美味しいよ。お薦めよ」と話しかけてくれて。「ムルギーランチって何ですか?」って聞いたら、「骨付きチキンのカレー」って言われて、「そうだ! インドと言えばチキンカレーだ!」と思い出して、それを注文したんです。
石丸:それが看板メニューだったんですよね。どんなカレーでしたか?
関根:骨付きの鳥のもも肉を7時間以上煮込んだ、スパイシーなカレーなんですよ。
石丸:いわゆる我々日本のカレーとは違う?
関根:全然違います。いわゆる“欧風カレー”とは違うし、“おふくろのカレー”とも違う。本場のインドカレー。
石丸:そうすると辛いんですよね?
関根:まあ、ギリギリ食べられました。
石丸:なぜこんな事を聞いたかというと、実は小学校6年生の時に、それこそ銀座に一人で楽器を観に行ったとき、突然“インドカレーが食べたい”と思ってナイルレストランに飛び込んだんですよ。出てきたカレーが辛すぎて泣きながら食べた…という思い出があるものですから。
関根:(笑)ムルギーはそこまで辛くないので、その辛いのは他のカレーですね。
石丸:そうですか! ムルギーにしとけば良かったなぁ。
関根:ムルギーカレーを一口食べた時に、魂がガンジス川に飛びましたね。
石丸:(笑)。
関根:「これだよ! これだ!」と、DNAが過去を遡ってアフリカから誕生したカレーが、その途中でインドを通過しました(笑)。「あっ、ここ通過してきてる!」って。
石丸:あの時の記憶が?(笑)
関根:そう(笑)。“お袋の味”よりも、もっともっと深い(笑)。それ以来ですね。もう入り浸りになっちゃって。
石丸:その時って21歳ですよね。今でもいらっしゃるんですか?
関根:この間も行ってきましたね。毎回、21歳のときに食べた一口目の、あのガンジス川に飛んだ感動があるんです。だから飽きないんです。
石丸:初心に還りますね。
関根:そうなんです! ムルギーランチを食べると『ぎんざNOW!』で頑張っていた、もがいていた自分に出会えるんですよね。そういうタイムマシーンみたいな場所です。
石丸:大事な場所ですね。