石丸:このサロンではゲストの皆さんに人生で大切にしている“もの”、“こと”、“ひと”についてお伺いしておりますが、今日はどんなお話を聞かせいただけますか?
関根:今日は「萩本欽一さん」についてです。
石丸:萩本さん!
関根:僕の“師匠”ですね。僕は『ぎんざNOW!』で素人のままいきなりプロの世界に入っちゃいましたから、師匠がいないまま1人で試行錯誤を繰り返してやってきたんです。それで8年経って萩本さんの番組に出て…。
石丸:同じ会社に所属していたのに、それまで仕事でご一緒だったことはなかった?
関根:なかったんです。萩本さんは、その当時 物凄い勢いだったわけですよ。『欽ちゃんのドンとやってみよう』、『欽ちゃんのどこまでやるの!』、『欽ちゃんの週刊欽曜日』、『欽ちゃんドラマ・Oh!階段家族!!』とか、全部あわせると100%以上だったんですよ。
石丸:視聴率がね。
関根:もう、お化け番組ばかりだったんですよ。社長としては、スカウトした僕と後輩の小堺(一機)君の2人を何とか萩本さんの番組にねじ込みたかったんです。それで考えた作戦が、欽ちゃんの家に連れて行って「欽ちゃん会ってやってくれ!」って。
石丸:えっ! 社長が「会ってやってくれ!」って言わないと会えないくらいの距離感だったんですか?
関根:ぜんぜん!
石丸:会うこともなかったんですか?
関根:なかったですよ。それでご自宅でお話を色々と聞いていると、萩本さんがいきなり「はいっ! 時代劇のヤクザの出入!」って言うんですよ。
石丸:お題が出ちゃうんですか!?
関根:そう! 僕は刀を抜いて震えた感じで「ゆっ許さねぇ! お前ら許さねぇからなぁ……!」とか言いながら演じると、萩本さんが「50点!」とか「60点!」とか言うんですよ。
石丸:点がつくわけですか!
関根:萩本さんが「関根ね、それは刀抜かなくても震えていれば表現出来るから」って言うんですよね。“深いなぁ”と思いましたね。
石丸:うわぁ、深いですよね。
関根:そういったことを僕と小堺君に色々と話をしてくれて、「お前ら2人がダメなのは何でか分かるか?」って言うんです。
石丸:と言うことは、“2人のことを見抜いている”ってことですよね。
関根:そうです。萩本さんが「お前たちは出来の良い時と出来の悪い時の振り幅があり過ぎる。80点の時もあれば20点もある。20点の時のお前らを初めて観たら、“つまんねぇなこいつら!”と思われてしまう。その最初のイメージを覆すのに相当なエネルギーがいる」って言うんですよ。
石丸:そうですか。
関根:萩本さんが「俺がすぐに売れたのはなぜかって言うと、先ずはテレビではなく小さな劇場や舞台で、50人とか100人くらいのお客さんの前で、毎回80点以上を取れるようになってからテレビに出るようになったから。だから(テレビでも)毎回面白い、面白いでいけたんだよ。お前ら、潜って修行しろ!」って言うんですよ。
石丸:潜って。
関根:つまり「テレビに出るな!」と。
石丸:テレビに出ちゃうと日本中の人が観ちゃうから。
関根:それを言われて、下北沢に「スーパーマーケット」っていう小さなライブハウスがあったんですよ。そこに2人で「出させて下さい!」ってお願いして、出演させて貰うことになったんです。最初はお客さんが2人とか3人から始まって、段々とコツを掴んできてコントとかも色々と出来上がってきて。
それでマネージャーが「あの2人は大将(萩本欽一)の言う通りに、ちゃんとライブハウスで修行していますよ」と萩本さんに伝えてくれたんです。
石丸:どのくらいの期間?
関根:1年以上やっていましたね。そしたら萩本さんがマネージャーに「お前が観てどうなんだ?」って聞いて、マネージャーが「面白いですよ」って言ったら、「お前が観て面白いだったら面白いんだよ。じゃあ先ずはテレビにあまり出ていない小堺から使おう!」って言って。これが良かったんですよ!
石丸:それはどうしてですか?
関根:小堺君、最初はアガってしまって全然ダメで、それで役を外されちゃって「クロ子」にさせられちゃって。でも、クロ子になると人と絡まないで1人で喋れるようになるから、自由になるんですよね。そしたら小堺君がウケてきたんですよ。それで小堺君は『欽どこ(欽ちゃんのどこまでやるの!)』で確固たる地位を築いたんですよ。そして僕が一年遅れて『欽どこ』に入っていったんです。小堺君は慣れていますから、僕がダメでも何とかしてくれるんですよ。
石丸:いわゆるチームプレーが生まれたわけですね。
関根:それで、(2人で)「クロ子とグレ子」でやって。小堺君は『欽どこ』のメンバーですから、お客さんも安心して観ているわけです。
ところが僕は『カックラキン大放送!!』で、カマキリ拳法の使い手で毎回車団吉さんを殺す殺人者をやっているわけですよ。だから、あのホンワカとした番組に“ギラギラとした感じの嫌な奴が来ちゃったな”みたいな。
でも小堺君はウケるから、僕も頑張ってウケなきゃと思って、段々とオーバーアクトになっていくんですよ。そうすると萩本欽一さんに呼ばれて、「関根、お前は100万円を持っていたら、その100万円を目の前にかざして“100万円ありますよ!”って芸をしているんだよ。5万円だけ見せて“5万円しかないのかな?”と思わせておいて、実は95万円は胸のポケットに入っている。そういう芸をしろよ」って言われたんですけど、29歳の僕はポカーンですよ。
石丸:まあね。
関根:“何を言っているのかな?”と。それまでオーバーアクトしていたのを、“とりあえず5万円だから動いちゃいけないんだな”と思って(笑)。「クロ子とグレ子」で出ていって、最初、小堺君がウケている横で直立不動ですよ。段々と欲求不満になるじゃないですか? そうすると、“今日は、ちょっと手首の先だけ動かしてみようかな?”とか“今日は肘動かしても良いかな?”とか少しずつ動かしていって、3ヶ月かけて元に戻ったら、僕もウケるようになったんですよね。
結局、『欽どこ』のお客さん達が“(関根勤は)どんな人なのかな?”というのが分かるまでの間、オーバーアクトでなくナチュラルな感じで見せる、自己紹介みたいな期間が必要だったんですよ。それを萩本さんがちゃんと分かっていてくださって。
石丸:萩本さんも、俯瞰で見てらっしゃったんですね。
関根:そして物凄い深いですよ。