石丸:このサロンでは、人生で大切にしている“もの”、“こと”についてお伺いしていますが、今週はどんなお話を聞かせていただけますか?
首藤:今日は「旅」についてです。
石丸:旅はお好きですか?
首藤:好きですね。土地を変えると成長できる気がするんです。
環境を変えると、その環境に自分の体を適応させようとするために力を使うんですけれど、その力が結構面白いなと思います。
石丸:踊りから離れる旅なんですか? それともやはり、踊りがついてくる旅なんでしょうか?
首藤:旅といっても必ずレッスンは受けていました。オープンクラスと言って、10ドルほど払うとちゃんとしたバレエクラスが受けられるシステムがあったんです。
パリやロンドン、ニューヨークなどの都会に行くことが多かったんですけど、最近は自分の泊まっているホテルであったり、ランニングなど自分なりのトレーニングメニューを作ったりしているので、少し行ける場所が広がりました。
今まではニューヨークしか行っていなかったんです。
石丸:なぜ、ニューヨークを選ばれていたんですか?
首藤:レッスンもそうですけど。劇場がたくさんあるので、当日にチケットを買っていつでも劇場で観られるという部分で、ニューヨークによく行っていました。
石丸:首藤さんはプロのダンサーとして世界中を回られていますが、それらも旅として含めると、どのぐらいの都市を回っていますか?
首藤:おそらく、50カ国ぐらい行っていると思います。いろんな街と劇場に行きました。
石丸:その中で、特に印象が強かった街を一つあげるとしたらどこでしょうか?
首藤:一つあげるのはなかなか難しいのですが、一番最初にモスクワのボリショイ劇場で踊ったときが印象深いです。舞台に立ったときに転んでしまって大失敗をしてしまったんです。
楽屋に帰って大泣きしていたら、楽屋に必ずお付きの方がいるんですが、その方が声をかけてくれて。その人は40年〜50年くらい劇場に仕えている方で、歴代のプリマや主役を踊ってきた方のサポートをされている方だったんです。
マイヤ・プリセツカヤというロシアの有名なバレリーナがいらっしゃるんですけど、彼女のデビューのときも、その方がサポートとして付いていたそうなんです。
それで、マイヤ・プリセツカヤもチャイコフスキーの作品『白鳥の湖』の黒鳥の出番のときに階段でつまずいて転んだという話をしてくれて。
「でも、彼女は素晴らしいバレリーナになったじゃない。だから、あなたが転んだことは凄い良いことなのよ」って慰めてくれたんです。
石丸:励ましにもなりますね。
首藤:その劇場自体の素晴らしさもあるんですけど、その劇場に関わってきた人と触れ合うことによって印象が大きく変わるんだなと思いました。
石丸:思い出の劇場でもありますね。
首藤:そうですね。ロシア人って冷たいというイメージがあったのですが、完全に感覚が変わりました。