石丸:このサロンでは、人生で大切にしている“もの”、“こと”についてお伺いしていますが、今週はどんなお話を聞かせていただけますか?
伊東:「建築は頭で考えるのではなくて、身体全体で考える」ということですね。
石丸:禅問答のようですね。具体的にどういう例がありますか?
伊東:これは僕が菊竹清訓さんという建築家のところで4年間働いて、一番印象に残ってることなんです。頭で考えていることは3日で変わってしまう。でも、身体全体で“この建築がやりたい。”とか、“これが好きだ。”ということは最低10年は変わらないんじゃないかと。
石丸:身体という部分は、自分が体験する、実感するということですか。
伊東:分かりやすく言うと、皆さんカーナビで運転されていますよね。カーナビで地図を見るのと、実際に道を走っているのとでは違いますよね。
石丸:地図を目にしながら、いろんな情報を頼りに、実際に走るということですね。
伊東:はい。僕らは図面を描きますから、図面で建築を考えるっていうのは、地図で道を知ってるというのと同じような事なんですよ。ですから、わりと外側から抽象的に考えてるわけですね。
それに対して、内部を走りながら“あそこにあの建物がある。このコーナーがある。”というように走っていると、その中にいるわけですよね。
石丸:確かに。
伊東:そういうように物を考える。つまりは身体がその中にいるわけです。これが簡単なようでなかなかできないんですね。
僕らはすぐに外に飛び出しちゃって、図面で考えた方がいいんじゃないのと思ってしまうんです。
これは想像力の問題だと思うんですけれども、その空間の中にいる時に自分がどう感じるだろうか、というのが大事で。“もうちょっと天井が低い方がいいんじゃないだろうか。”とか、“ここに壁があったほうがいいんじゃない だろうか。”とか、そういうことを身体で感じていくことが大切なんです。
石丸:伊東さんはそういう風に感じていて、ビジョンがある。それを一緒に作る仲間たちに共有できるものなんですか?
伊東:そのためにも何度も何度も模型を作ったり、スケッチを描いたり、いろんなことをやりながら共有できるようにしたいと思うんですが、なかなか共有するのは難しいですね。
ましてや、利用する方たちは出来上がってみて初めて共有してくださるので、図面とか模型を見てもなかなかその中に入っているような気持ちになってくださらないというのがあります。
石丸:壁の材質にしても床材にしても空間の広がりにしても、我々一般人は限度があるんですよね。でも、建築家の方はそこを超えて面白いことをたくさん考えてらっしゃるじゃないですか。
伊東:僕らでも建築が立ち上がってくると、”こうしておけば良かった。”って思うことだらけです。 光の入り方なんかは時間によっても変わりますし、季節によっても変わります。
石丸:四季を通してどんな風にその建物が味わえるかというところまでイメージされる。それが身体で考えるということなんですね。
伊東:まさしくそうですね。