石丸:中村雅俊さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは、3週に渡って人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしてまいりましたが、最終週は“時を重ねながら長く大切にしていること”についてお伺いしてまいります。中村さん、それは何でしょうか。
中村:「自分に正直に生きること」です。
石丸:中村さんにとって、“自分に正直に生きる”とはどういうことなんでしょうか?
中村:元々そういう性格だというのもありますが、人間には軸みたいなものが必要だと思った時に、“自分に噓をつかず正直に生きよう”という気持ちが、随分小さい頃からありましたね。
石丸:小さい頃からですか。それは、「その時の自分と向き合う」ということですか?
中村:そうですね。生きていくというのは色々な判断をする時があって、その時に何を基準にするかというと、“自分の気持ち”を一番大事にしてずっとやってきましたね。
“お前はどうなの? どうしたいの?”と自問自答をいつもしながら生きていくというか。
石丸:じゃあ、2つのものを選択しなくてはいけない時は、その時の感覚ではなくて、ゆっくり自分を見つめなおして慎重に選ばれるタイプですね。
中村:そうですね。自分に問いかけて。でも、前にも話しましたけど、「間違えたら修正する」という風にしています。
石丸:杉村春子先生の『女の一生』の一節ですよね。
でも、自分の本心に逆らって別のことを選ばなければならない時もあるじゃないですか。
中村:そういう時もありますよね。でも、結局は自分の気持ちにどんどん戻っていったりしますし、必ずという訳じゃないですけど、ほとんど(何かを選ぶ時には)自分の気持ちに問いかけて生きてきたのかなと思いますね。
石丸:東日本大震災の復興支援の時も、1ヶ月ぐらいで被災地へ飛んで行って歌ってらっしゃる。これは想いが溢れてのことですものね。
中村:人生を振り返ると、自分に正直に生きてきたので、親の期待は裏切ってきた生き方でしたね。俺は宮城の田舎者だったんです。(生まれたのが)小さい街だったので“この街にずっと埋もれていたくない”という気持ちがあって、幼い頃から東京に行くって決めてましたね。
石丸:親御さんはどんな期待をかけていらっしゃったのですか?
中村:親の希望としては、「仙台の大学に行ってほしい」とか「大学を卒業したら宮城県庁で働いてほしい」とか思っていたみたいです。けれど、東京の大学へ行って途中から「役者になるから」と言い出したので、「何のために育ててきたんだ!」というようなこともあったりしました。
自分の気持ちに正直に生きてきた中での一番は、妻と結婚した時ですね(笑)。
当時はちょっとした人気者だったので、「結婚すると人気が落ちて仕事がなくなるから」って、周りの人に随分言われました。今は皆さん「おめでとう!」って言われるんですけど、昔はそんな雰囲気ではなかったんです。それでも俺はすぐ結婚しましたから。
石丸:ご自分に向き合って、正直に選んだ結果ですよね。潔いというか、自分に正直に生きられるって素敵なことですよね。
中村:そうですね。人から言われて決めたことで間違っていると、「お前が言ったからさ」って、どうしても人のせいにしたくなるじゃないですか。でも、自分が決めたことなら(間違っていても)自分を責めれば良い話なので、それで良いのかなと思います。
石丸:そうやって色々なことを選択されてきた中村さん。パッと見た感じでは50代くらいに見えますが、今年70歳になられたんですね。
まだまだ色々なことにチャレンジしたいのだと伺っておりますが、どんなことにチャレンジしようと思っていらっしゃいますか?
中村:英語を話すことに関しては、セリフが英語の役を演じてみたいなっていうのがありまして。
石丸:ということは、また日本を飛び出て海外で?
中村:そうですね。去年、ニューヨークでの仕事があったんですよ。“オノ・ヨーコさんにも会えるかもしれない!”と思ったんですけど、コロナで世界中が大変なことになり、行けなくなってしまいました。
またそういうチャンスはきっと来るだろうと信じて、海外で役を演じることができたら良いなと思っています。
後は、「ふれあい」を出してから毎年ずっと45年間やっていたコンサートツアーが、去年、コロナ禍で全て中止となりました。
石丸:これは致し方ないことですけどもね。
中村:今年もやれるかどうか分からないですけど、また再開してツアーをやりたいなと思ってます。
石丸:デビューされてから毎年ずっとコンサートを続けていらっしゃるって、ものすごいことだと思うんです。昔のドラマって、1年間ずっと撮影していますよね。
中村:そうですね。昔はその撮影の合間に、コンサートをやっていましたね。多分(石丸さんは)コンサートの良さを分かっていると思いますけど。
石丸:そうですね。
中村:俺みたいな奴で「良かった」と言ってくれる人がいるから、コンサートをやらせてもらっているんです。ステージの上でのパフォーマンスというのはすごく良いなと思いながらやっています。でも「良いな」だけじゃなくて、勝負もあるじゃないですか。
石丸:勝負?
中村:お客さんが(パフォーマンスを)良いか悪いか判断をしているから、良ければまたリピーターとして来てくれるけれど、悪かったら来ないじゃないですか。勝負じゃないのかもしれないけど、そういうことも意識しながらやるライブというのも、また良いものだな…と思いながらやっています。
石丸:お客様あって、ですものね。その(お客様との)やりとりが止められないというか。
中村:70歳になっても止められないです。何歳までやれるかは分からないですけど、“ずっとやれたらな”って、本当に願っています。
石丸:このコロナ禍ですけれども、何らかの形で歌い続けていって頂きたいと思います。
中村:そうですね。あとは「喉との戦い」ですね。
石丸:喉?
中村:ちょっと俺がどう見えているのか分からないですけど、“酒呑み”なんですよ(笑)。
石丸:(笑)。
中村:呑むと陽気になって大声で喋って、次の日に喉を痛めてきたのでね。
石丸:ちょっとハスキーな声も良かったりするじゃないですか。個性ですよ。
中村:でも、23歳の時の「ふれあい」みたいな歌い方は、もうできないんです。
石丸:お酒を控えたらできるものなんでしょうかね(笑)。
中村:ダメです。もう戻らないです(笑)。
石丸:改めまして、ご自分の人生を振り返ってみて、どういう人生を歩んでいらっしゃったと思いますか。
中村:「ラッキー」。この一言ですね。自分のターニングポイントとなる人生の節目があるんですけど、出逢いに感謝と言いますか、本当に恵まれてきたんだなと思っています。墓石に書きたいくらい、“こんなラッキーなやつは居ないだろう”って思っています。
石丸:きっと中村さん自身がずっとポジティブに生きてらっしゃるから、色々なものが寄って来るんですね。
中村:いつも努力していて、いつでも何が来ても良いようにフットワークを良くしているからこそ、「棚からぼたもち」みたいなものもちゃんと掴めるのかなと思うんです。
石丸:そこですね! ただ、傘を広げて待っているだけじゃダメなんですよね。
中村:きっとね。そんな気がするんですけどね。
石丸:この1ヶ月、中村さんから色々なお話を聞かせて頂きまして、僕もポジティブにフットワーク軽く生きていきたいと思いました。1ヶ月に渡り、どうもありがとうございました。
中村:ありがとうございました。