石丸：上原浩治さん、これから4週に渡りどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは、人生で大切にしている“こと”や“時間”についてお伺いしております。今日はどんなお話をお聞かせいただけますでしょうか。
上原：今日は「浪人時代の1年」についてです。
石丸：それは、野球のための浪人だったんですか？
上原：いえいえ、野球は「プロを目指そう」っていうのも一切無かったですし。
石丸：そうなんですか。そもそも野球との出会いはいつだったのですか？
上原：出会いは、幼稚園の時に、2つ上の兄貴が野球チームに入っていたのについて行って…という感じです。
石丸：子供の頃から野球には親しんでいたんですね。
上原：親しんでいましたけども、高校時代もレギュラーでもないですし、プロを目指すなんてとんでもない話です。
石丸：ちなみに、どこのポジションを守っていらしたのですか。
上原：僕は外野を守っていました。高校の最後の夏の大会だけ、ちょっとピッチャーをやりましたけども、ほぼ試合に出てないですから。
石丸：子供の頃の夢みたいものはなかったんですか？
上原：小学校の時は卒業文集に「野球選手になりたい」っていうのは書きましたね。
石丸：じゃあ、それが実っているわけなんですけど。
上原：実りましたけど、大学へ行くのに受験を失敗して1年間予備校に通ってました。
石丸：それは、何を目指して大学へ行こうと思ったんですか？
上原：体育教師になろうと思っていたので、体育大学の方に。
石丸：そうなんですね。浪人中は、どのようにして次の受験に向かっていったんですか。
上原：予備校はほぼ学校ですから、朝の9時から行って、夕方4時、5時まで勉強していました。
石丸：その間、野球とかは？
上原：野球は全然してなかったです。
石丸：え！ 体がなまりませんでした？ 大丈夫でした？
上原：ジムには週に2回位行ってましたけど、野球はしてなかったです。
石丸：そうですか。浪人時代って、いわゆる辛い時代ですよね。
上原：経験しなくて良いのであればしない方がいいですよね。プロの世界で野球をしている人で言えば、みんな野球だけで高校、大学へ行ってますから、浪人を経験している方ってほとんどいないと思いますね。
石丸：周りの同級生達がそういう風に進学しているの見て、どんな風に思いました？
上原：“良いなぁ”っていう感じですよね。
石丸：自分もそういう風に（なりたかった）？
上原：自分はそういう（野球で進学する）実力がなかったんで浪人もしましたし、勉強しないと先が見えない浪人時代っていうのはやっぱりキツイですよね。
石丸：そうですか。浪人時代で今までの生き方と何か変わりました？
上原：どうなんですかね。とりあえず18年分の勉強をしたという感じですよね。
石丸：それまではどんな感じだったんですか？
上原：高校時代は野球漬けでしたし、勉強もできていなかったので。
石丸：“そんなに（勉強を）しなくてもいけるだろう”ぐらいの感じ？
上原：いや、そんな感じではなかったんですけど、（同級生の）賢いやつが「同じ大学を受験する」って言ったんですね。僕だけだと多分受かってたと思うんですよ。そいつは学年でトップ位のやつだったので、「お前が来たから落ちたんや」って（笑）。
石丸：（笑）。
上原：“お前が受験せんかったら、俺が受かってたのに”っていうのは、ずっと思ってましたね（笑）。
石丸：そうですか（笑）。「（浪人は）経験しなくて良いのであればしない方がいい」とおっしゃいましたけれども、その1年があったことによって、どんなことが上原さんの中に起こりましたか。
上原：その1年があったから今があると思っています。もしそのまま受かっていたら今の自分がなかったと思っているので、その一緒に受験した友達には逆に「ありがとう」って感じですよね。
石丸：その1年があったからこそ今の自分がある、ということですね。
上原：それはもう間違いないと思います。
大学での4年間で野球は辞めるつもりでいたんですけど、1年生の時に全国大会に出れる機会に恵まれて、学校にスカウトの方がいらしたりするようになった時に、“あ、プロに行けるのかな”みたいな感じでした。
石丸：上原さんは巨人時代から背番号がずっと「19」でしたよね。この「19」というのは何か特別な意味があるそうですが、どんな意味があるんですか？
上原：自分が浪人してた年齢ですね。
石丸：19歳のそこに向ける想いというのは、どういったものなんでしょうか。
上原：浪人していた1年間というのは、野球ができなかった1年間だったので。
プロに入って怪我をしても、その背番号19を見た時に、“怪我は治れば野球がまたできるでしょ？”という位の気持ちになりましたから。
石丸：その19を見れば、19歳の時を（思い出す）。
上原：19歳の時の先が見えなかったあの1年間というのは、自分の中では忘れてはいけない、人生を本当に変えてくれた1年間だったと思うんで、そういう意味で“19をずっとつけたい”という想いがありましたね。大学の時もつけていましたから。
石丸：あ、そうなんですね！ もうその時すでに。
上原：もうつけてました。
石丸：“もうそういうことにはなりたくない”とか、“そういうことは二度としないぞ”という想いもある「19」。
上原：“二度としないぞ”という想いではなくて、“19歳の想いがあったから”という風に考えてます。
石丸：ポジティブですね。
上原：プロ野球を目指す人で浪人をしている人ってほとんど居ないと思いますけど、だからこそ“そういう奴らに負けたくない”って想いももちろんありますよね。ずっと野球だけやってるエリートのやつには負けたくないと。
石丸：「雑草魂」。この言葉が「19」に関わってきそうな気がしますね。
上原：そうですね。先程言ったようにエリートに負けたくないっていう意味から（エリートの）反対の言葉として「雑草」っていう言葉を使ったんですね。
石丸：ご自身の生き方を雑草に例えて言ったということですか。
上原：プロに入るまでの（自分の）ことをずっと言ってたんですけど、「巨人のドラフト1位が何が雑草やねん」ってよく言われてましたね。
石丸：そういう想いをずっと持ち続けるということは、自分にとって一番大事なことなんですかね。
上原：そうですね。現役中はずっと「雑草」とは言ってなかったですけど、そういう意味合いで “あいつには負けたくない”って想いは常に持っていましたから。
石丸：誰かよりも必ず上に行く。（今の）状況より超えていこうっていう想いが。
上原：プロの世界ですから、上に行かないと生き残れないですからね。
石丸：そこは厳しい世界ですね。
上原：はい。駄目ならもう引退するしかないわけですから。
石丸：でも全然引退なさらずにね。
上原：しつこかったですね（笑）。
石丸：いや、そんなことないですよ！
