石丸:さだまさしさん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは、4週に渡って、人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしてまいりました。最終週は“時を重ねながら長く大切にしていること”についてお聞きしたいと思います。それは何でしょうか。
さだ:「意地でも毎年アルバムを作る」ってことですかね。
石丸:意地でも。
さだ:意地でも作る。
石丸:今までずっと作ってらっしゃったということもあり。
さだ:そうですね、必ず。オリジナルアルバムとは限らず、今回みたいにセルフカバーのアルバムであったりする年もありましたけど、出来る限りオリジナルを作っていきたいですね。
石丸:今回のアルバムは、フォークデュオ「グレープ」の時代から数えて、46枚目?
さだ:46枚か47枚になるんじゃないですかね。
石丸:(アルバム数も)凄いですけど、曲数だって550曲以上書いてらっしゃる、と。
さだ:「恐らく600曲前後」という風に言ってます。スタッフも真面目に数えてくれないんですよ。
石丸:(笑)。
さだ:作ったけど形にならなかったとか、プレゼントしたんだけどレコーディングされなかった、とかの曲もあるので。
石丸:ギター少年になった時に生み出した最初の頃の曲まで入れると、もっと?
さだ:そういうのまで入れると、600曲は遥かに超えていると思います。
石丸:凄いですね。その音楽や歌詞がどうやって生まれてくるのかを改めて教えていただけますでしょうか。
さだ:そうですね。“曲先(きょくせん)”とか“詞先(しせん)”とかって言いますけど、僕はどっちかと言うとメロディが先行するタイプ(曲先)なんです。メロディが先行するタイプの人間にとって一番重要なのは、「何を歌うのか」というテーマなんですよね。テーマが決まらないとメロディって浮かばないです。
僕の作り方は、先ず主題を決める。次に、ギターで曲作りをしますから“自分で歌うとしたらどのキーで歌いたいか”を決めるんです。キーを決める時には、例えば雨を歌うんだったら、雨が降っているギターの音を探すんですよね。それで“これ、雨が降り始めたな”と思ったら、メロディが柔らかい雨か、暗い雨か、強い雨か、弱い雨かは、歌い出しで決まるんです。歌い出しの瞬間に“雨上がり”って決めたら、雨上がりのメロディを探して、メジャーでいっちゃうんですよね。
石丸:そのように必ず通っていくポイントがあるわけですね。
さだ:そうですね。それで言葉がポンと出るとしますよね。言葉がポンと出たら、その言葉はもうメロディを持ってますから、その言葉のメロディを誇張していけば良いんです。そうすると、言葉が一言出たってことはワンセンテンス、単語で言うと4つ、5つぐらいが繋がって、ひとつの文章になります。短い文章ができますよね。そこまでいくと、まずメロディをそこまで這わせるんですよ。
石丸:そうか! 詞があってどうこうじゃなくて、言葉の持っているリズムに。
さだ:どっちかと言うと、言葉が出てきて動き出したら今度はメロディ。メロディっていうのは1回動き出したら、ある程度のところまで転がりたがるでしょう。
石丸:そうですね。
さだ:転がりたい所までメロディをバーッと作っちゃうんですよ。そして最初に言い出した言葉をこのメロディにどう這わせられるか。
それで、一旦止まったところまで行ったら、“さぁ今度はどっちに転がるんだ”っていう展開を考えていきます。
石丸:そうなんですね。さださんの曲はいわゆる「語り言葉」のものが沢山ありますけど、それが自然に音に合っているというのはそこなんですね。
さだ:そうなんです。例えば俳句だと「五・七・五」って言うじゃないですか。だけど、どうしても「五・七・五」で収まらない言葉ってありますよね。
石丸:ありますね。
さだ:あの松尾芭蕉ですら、辞世の句が「旅に病んで」という6(文字)ですからね。「5音」が大事なんじゃなくて、「5音」という節(せつ)が大事なんですよね。
石丸:節(せつ)ですね。
さだ:5つの音が鳴る、節が大事だからここに入れば良い。7の節であれば良い、という風に考えていくと「風に立つライオン」なんてみんな字余りだって言うんですけど、字余りというのはね、メロディが追いつかないことを言うんですよね。
石丸:そういうことですね。
さだ:メロディが追いつかなくて、そこにとにかく言葉だけ入れたっていうものを字余りって言うんで、僕の場合は字余りのようでちゃんと拍が決まっているので、同じように毎回歌えるんですよね。
石丸:そこが凄いところなんですよね。
さだ:ですから僕の歌は1番と2番で全然メロディが変わったり、言葉数が変わったりを平気でするんです。癖が悪いですね。「歌うの嫌だ」って皆に言われますね。
石丸:(笑)。
さだ:「さだまさしの歌は面倒くせえ」って。
石丸:確かに、楽譜を見ると1番と2番の譜面が全然違いますので“あれっ”と思いますけど、“言葉を歌おう”と思えば。
さだ:言葉なんですよ。さだまさしのモノマネをする人達が微妙になんか違うなと思うのはね、言葉で歌ってくれない。歌い方の雰囲気で真似をしてくださるんだけど、僕は「言葉」「言葉」「言葉」「言葉」でいくので、メロディに引っ張られ過ぎず、言葉に引っ張られ過ぎもせず、その単語がちゃんと聞こえるように歌うだけなんで。
石丸:そんなさださんですけれども、昨年の9月にいち早く観客を入れてライブを行っていますね。デビュー以来、こんなに長期間ライブをしなかったことはなかったそうですが、どんな思いでステージに立たれました?
さだ:“僕のコンサートで感染者が出たらどうしよう”という恐怖心が一番でした。「風に立つライオン基金」で、福祉施設、介護施設に感染症の専門家のお医者さんと看護師さんを派遣してコロナの対策を勉強する会をずっとやってましたので、その専門家の人達と「コンサートは出来ないのかね」って話になって、「出来なくはないでしょう」と。
お客さんに1人でも感染者が入ってれば別だけど、ちゃんとしたコンサートホールだったら換気の心配もさほど要らないし、自覚してない人がいると分からないけど、具合の悪い人は来ないようにする。手指消毒をする、熱を測る、連絡先をもらう、座ったら動かないでください、規制退場もする。そしてお客さんはお気づきでないけれども、エビデンスにはないけれど脚底の消毒もしながら入っていただくみたいなことも暗黙の内にして。
コンサートもできるだけ短く、1時間半から2時間のコンサートで納得していただけるものを作ればいいんじゃないかとか、とにかくそんなことで頭がいっぱいで、「ライブをやる」っていう喜びとか感動とかよりもそっちの方が大きくて、9月1日に“やってみよう”と決心をして、昨年ツアーを開始したんですよ。
ウェスタ川越という(埼玉県)川越のホールなんですけど、(定員の)半分以下の600何人かのお客様がお入りくださって。ステージに上がった時の拍手でやられちゃいましたね。“俺、歌えないんじゃないかな”っていうぐらい胸がグッと詰まっちゃって。あの拍手は一生忘れないです。終わったときの拍手とね。
石丸:お互いが待っていたわけですものね。
さだ:そうですね。1曲目から号泣してる人が最前列に見えるんですよ。最前列って言っても3列ほど開けたんですけど、こっちももらい泣きしそうでね。
歌手が自分で作った歌を自分で歌いながら泣くなんて、こんな小っ恥ずかしいことはないので、もう(涙を堪えるのが)必死でしたよ。
石丸:その想いは伝わったと思いますよ。聴いている側も色々なものを乗り越えて、さださんにね。
さだ:そうです。命がけで来てくれたんですもの。
石丸:お互いがね。そういう意味で一生忘れないでしょうね。
さだ:昨年の41公演は感染者ゼロで乗り切ったんです。
石丸:素晴らしいですね。
さだ:だからそういう前例が僕らの勇気になるし、でも「油断するなよ」と言って今年も徹底して(対策を)やってますけど。
石丸:我々含めて他のアーティストもみんなそうですけど、皆が乗り越えて行こうとしてるこの状況で、早くワクチンを打てる人は打って、会場にもっと気持ち良く、マスクも外していけるような日が来るのを願いますね。
さだ:本当ですね。来春には、そういうことは普通に出来るようになるでしょうけど、この秋ぐらいまでに、どうにか落ち着くといいですね。
石丸:本当にそうですね。
さだ:勇気を持って、でも慎重に、まず感染者が出ないことを祈りながら僕らはコンサートを続けていきます。
石丸:最後にひとつだけお伺いしたいことがあります。さださんが歌い続ける理由は何でしょうか。難しいかもしれませんけど。
さだ:何でしょうね。なんだろう、やっぱり上手くなりたいんですね。
石丸:上手くなりたい?
さだ:あの、どう言ったら良いんだか分からないんですけどね。上手になりたい。ああ、どう言ったら良いんだろう。
完璧なコンサートをやりたいんですよ。完璧な歌が無いのに、完璧なコンサートが出来るのかって自分に葛藤はあるんですけど“これは完璧だ”と思ってもね、その中の1曲が気に入らなかったりね。
石丸:そうなんですね。
さだ:楽曲を並べた時に「こいつちょっと落ちるよな」とかね。今回の「さだ丼ツアー」は、ほぼセルフカバーでベストに近いんですけど、それでもなかなか完璧なものとは遠いですよね。あがきながら“もうちょっとだな”と思いながら。何ででしょうね? これは欲ですかね? 一生に1回で良いから完璧なコンサートをやりたいですね。
石丸:そうだと思っても、またその時に芽生えるんでしょうね。“やっぱり違ったかもな”って。
さだ:違うのかな。そして、年々、体力と共に色んなものを奪われる歳に入ってきているので。エスカレーターで言うと、2階から降りてくるエスカレーターを逆走するような毎日じゃないですか。
石丸:それは苦しいですね。
さだ:ちょっと休んでると、下がってくるんですよ。僕はそれでも2階まで逆走しようと思ってるんですね。それで、2階まで行けたら3階も逆走しようと思ってるんでしょうね。屋上へ行きたいんですよ、きっと。
石丸:そのエネルギーですね!
さだ:それが出来ないんですよ。
石丸:それをやろうとなさるさださんのその気持ち、これが歌い続ける理由の元になってるような気がします。
さだ:ま、元がすごく下手なんで楽ですけどね。
石丸:下手じゃないですよ。
さだ:本当に下手だったんですよ。歌が上手な石丸さんは分かってくれないだろうな。
石丸:いや、僕はさださんの歌を聴くたびに勇気をもらいます。
さだ:僕はNHKのオーディションに予選で落ちてますから。
石丸:本当ですか!
さだ:1次で落ちてますから。
石丸:それはその時の審査員が悪いんですって(笑)。
さだ:いやいや藤山一郎先生以下、素晴らしい先生方ですから。
石丸:まずいことを言いました(笑)。
さだ:それ程下手だったんですよ。
石丸:そうですか。でもね、さださんの歌は本当に心に響きますし、感染対策をちゃんとして、コンサートツアーにも足を運んでいたければ。
さだ:そうですね。安心して来ていただけるように頑張ります。
石丸:1か月に渡り、本当にありがとうございました。
さだ:ありがとうございました。