石丸:小堺一機さん今週もどうぞよろしくお願いいたします。最終週になりました。このサロンでは3週に渡って人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしてまいりましたが、今週は“時を重ねながら長く大切にしていること”についてお伺いしたいと思います。それは一体何でしょうか。
小堺:いろんな意味があるんですけど、「1日の最後」ですね。寝る前の時間をどうやりくりするかをいつも考えてます。
石丸:それを大事にしてらっしゃる?
小堺:そうですね。
石丸:どんなことを考えたり、どんなことをしていらっしゃいますか。
小堺:これもまた萩本(欽一)さんの話なんだけど、大将(萩本さん)に「寝られないぐらい売れるって時あるじゃないですか。どうしていたんですか?」って(聞くと)、「お前、仕事だけして寝てたら“何のために生きてんだ”と思うだろう。寝る前に必ず本を読むとか、何かをしてた。それで眠くなるまで布団に入らなかった」って。
石丸:そうなんですね。
小堺:当時舞台もやってらっしゃったし、若い時ってなんかエンジンかかっちゃったりする時ないですか。
石丸:あります。
小堺:完璧に疲れているはずなのに、帰っても目が冴えて。寝なきゃいけないんだけどお風呂に入ったりとか、お酒を飲んだりとかなさると思うんですけど。
石丸:はい。
小堺:それを聞いてから、
石丸:小堺さんも眠くなるまで何かを(している)?
小堺:気絶するようにベッドに入ったら寝ちゃうっていうところまで。(何かをするって)ちゃんと決めてるわけじゃないです。この間話した“『素晴らしきかな人生』の最後のところだけ観よう”、とか、“『ゴッドファーザー』のアル・パチーノが初めて人を殺すところだけ観ようかな”、とか。
石丸:やっぱり映画ですね。
小堺:で、映画を観てると、“あ、そう言えばアルパチーノの本を持ってたよな”と思ったら、映画を途中で止めて(笑)。
石丸:(笑)。
小堺:でも、どの本か分からなかったりするんですよ。で、“あった! そうそう、これを読みかったんだよ” “あ、違う、俺、映画を観てたんだった。このシーンでみんなは認めたんだよ、すごいなー”って。そうしてウトウトっとなってくると寝ます。その前にお風呂に入っておくっていうのが…。
石丸:ひとつのポイントですね。ただ自分の好きなことを納得がいくまでやって、スッと落ちるところで寝る、と。
小堺:そうです。だから舞台をやっている時は、舞台に集中してるので。“明日は松尾(伴内)君にあそこで最初のセリフとは違うことを言ってやろうか”、とか(笑)。
石丸:考えてる時間もあるんですね(笑)。
小堺:あるんですけど、“あ、そんなことをやっている(場合じゃない)。(フレッド)アステアの映画で『バンドワゴン』っていうのがあったな、観よう!”“あ、ここ、そうそう。違うことをやるんだよな。あれ、アステアが踊った時に足に血がにじんで、誰かが…あ、あの女優さんと一緒だった。あ、そうそうこの話”とか。
石丸:仕事と違うモードに持っていく気分転換がお上手なんですね。
小堺:要するに好きなことをやってるんですよ。「何かのために」じゃなくて。
石丸:楽しいことで一日を終えるっていうのはストレスがなくていいですね。
たとえその日いろんなことがあって引きずってても、自分に一番気持ち良いコンディションを作って寝てるんですね。今、世の中に寝られない人が沢山いると思うんですよ。
小堺:そうですよね。でも今は、寝られなくても、テレビとかつければ何かやってますもんね。
石丸:何かやっていますね。僕は、そういう“自分の好きなこと”じゃなくて、飛び込んできちゃったものに振り回されているうちに1日が終わることが多いんですけども。
小堺:ああ、分かります。(北野)たけしさんが上手い言い方をしてましたね。
石丸:何と仰ってました?
小堺:「昔は情報を皆が追いかけてたのに、今は情報を追い越しちゃうから、もっと無いか無いかって変な方向に行っちゃうんだ」って。「大事なことはあっちから勝手に来る」って言ってました。
石丸:そうなんですね。
小堺:アンテナさえ張っていれば。
石丸:確かにね。
小堺:たけしさんも大将も「アンテナ張ってる」って同じことを言います。(大将は)「俺ね、昔20本立ってたんだよ。今3本」って。(オバケの)Q太郎ですね(笑)。
石丸:本当ですね(笑)。
話は変わりますが、小堺さんは色んな作品を観たり、映画を観たり、いろんな所へ行ったりなさってるって聞きましたけど、その中で、旅行は、意識して“どこかに行きます!”みたいなことはありますか?
小堺:僕ね、旅行自体が好きなんじゃないと思うんですよ。バブル全盛期の30(歳)の時に、僕がブロードウェイが好きだというのを聞いて、その頃はまだかじってただけなのに、テレビ番組でニューヨークへ連れて行ってくれたんです。それが初めてのニューヨークだったんですよ。
石丸:そうですか。
小堺:そこで、ブロードウェイの舞台監督の人にインタビューしたりとか、アンダースタディ(代役)の人と街をめぐってみたりとか、すごく楽しい番組だったんです。それでニューヨークが好きになっちゃったんですよ。
石丸:そうか! “旅行が好き”なんじゃなくて、“ニューヨークが好き”になった。
小堺:それからもいろんな特番とかで外国へ連れて行っていただきましたけど、毎年「小堺クンのおすましでSHOW」をやってる時は、出演者で行ける人と一緒に、毎年1回、6月に(ニューヨークへ)行ってました。事務所には研修旅行という名目で、ただ遊びに行ってました。
石丸:トニー賞の発表がある頃ですよね。
小堺:そうです。トニー賞の会場(授賞式会場)にも1回入ったことがあります。
石丸:本当ですか!
小堺:タキシード着なきゃいけないですけど。
石丸:ですよね。
小堺:あの頃は、まだニューヨークが怖いというのがあって。僕の周りでも「もう二度と行きたくない」という位、怖い目にあった人もいるんですけど、僕は全然。楽しいだけの30年間で毎年行ってました。
石丸:そうですか。そういう所へ行くと、自分のパフォーマンスに何かもらえるものがあったんですか。
小堺:やっぱり刺激ですよね。“すげえなぁ”と思って。事務所には勉強って言いますけど、勉強じゃないです。楽しいから観に行くんです。お客(の立場)になって「わぁ」っていうのが。
僕が最初に行った時はまだ、ロンゲストショー(当時のブロードウェイで一番長く公演を続けているショー)が『コーラスライン』の時代でした。それから、86年にロンドンから『ファントム(オペラ座の怪人)』が来て、僕、初めて英語圏のものを観て泣いたんですよ。英語も分かんないのに涙が出たんですよね。
そういうのをそれまで“嘘だ”と思ってたんですよ。「分かんないけど舞台を観て私、感動しちゃって」って“そんなことないよ、分かんないんだから”って。
でも“本当だ”と思って。すごいものって言葉とか関係ないんだなと思って。
石丸:どこが魂を打ったんでしょうね?
小堺:やっぱり(アンドリュー・)ロイド=ウェバーの曲もそうですし、「Your number, sir?」でやられました。
石丸:冒頭ですね。
小堺:“何だこれ!”って。シャンデリアがブワーッとなって!
石丸:ありますねー!
小堺:ゾクーッとして。それで歌声が素晴らしい。マイケル・クロフォードとサラ・ブライトマン。僕が観た日がサラ・ブライトマンの最後の日だったんですよ。
石丸:それは貴重ですね!
小堺:カーテンコールでマイケル・クロフォードが「サラは今日で終わりです」って言って“僕、凄い日に観ているんだ”って思って。
あと、(世界的タップダンサーの)セヴィアン・グローバーの『ブリング・イン・ダ・ノイズ・ブリング・イン・ダ・ファンク』を観た時も皆で「絶対これから“タップやってます”って言うのを止めようね」って。
石丸:(笑)。
小堺:こんな凄いの観せられて、「僕、タップ出来ます」なんて恥ずかしくて言えないねって。
石丸:僕も観ましたけど、あのタップは凄かったですね。
小堺:あの頃はまだ床にマイクを置くってのはまだ出来てなくて、全員両足にマイクを付けてたんですよ。それは、自信がなきゃ出来ないですよ。かすったりするんだから。
石丸:ですよね。
小堺:それで“参ったな”と思って。あと『プロデューサーズ』を観た時も、“ああ、大将が言ったのと一緒だ、(舞台が)生きてる、生きてる、アドリブやってる”って。
石丸:ああ、確かに。
小堺:“笑いは一緒だなぁ”とか。
石丸:エベレストの頂上みたいな本物の人達がそこで毎日ショーをやっているんですもんね。
小堺:そうですよ。
石丸:小堺さんのお話を聞いて思い出しました。やっぱり飢えちゃうんです。乾いちゃうんですよ。そうするとニューヨーク、ブロードウェイに、呼ばれているみたいな気がして。
小堺:あと、日本人のお客さんはちょっと恥ずかしがりが多いから、静かじゃないですか。
石丸:観客は、そうですね。
小堺:アメリカって悪いやつが悪いことをすると「オーマイガー!」とか言ったり、すごい良いと「イエー!」って。悪役の人がカーテンコールで出てきても、悪役として素晴らしければ凄い拍手をしたりする。
何の舞台か忘れたけど、悪役の人がカーテンコールで出てきたら、皆がスタンディングオベーションしたんですよ。そしたら「僕だよ?」って顔をして、そしたらそれを見て皆ワーッと笑ったりとか。
あと、『プロデューサーズ』でネイサン・レインがマシュー・ブロデリックに水をかけられる時に、距離感を間違えて水が届かなかったんですよ。そしたら(ネイサンは水をかけられるのを)待ってるんですよね。だからマシューが戻って水を入れて(笑)。
石丸:もう1回(笑)。
小堺:みんな「ワーッ」って受けて。“ああ、こういうのも大将に教わったから分かるんだなー”って。大将や堺(正章)さんといった諸先輩から教わっているからこういう所が面白いんだって分かる、良かったと思って。
石丸:そういうのを(小堺さんも)やっているんですもんね。
小堺:でも飢えるって感じ、すごい分かります。
石丸:飢えるんですよ。
小堺:スポンジが乾いたみたいにね。
石丸:乾くんですよ。
小堺:ね。
石丸:日本は今、再開してる所も多いですけど、多くの方にエンターテインメントを観て欲しいと思いますし、やっぱり必要なものですよね。
小堺:だって元気が出ますもん。ブロードウェイって劇場がみんな近いじゃないですか。で、大体終わる時間は僕のショーみたいに際限なくやってるわけじゃないから、ちゃんと時間通り終わるわけで(笑)。
ワーッと一斉に(劇場から)出てきて、みんな楽しそうに歩いて、おじさんがタップの真似事なんかしてるのを奥さんが「あー」って言ったりしながら。“ああ、これが文化だよなぁ”と思って。
石丸:文化ですね。
小堺:楽しんで、また明日からの元気が出るみたいな。
石丸:そうですね。私たちもこれからもやり続けませんか。
小堺:何とかこの世界に居させて頂けるなら、頑張ってやりたいと思います。
石丸:もちろんです。この4週間に渡って小堺さんから楽しいお話をいっぱい聞かせて頂きました。本当だったら5週6週やりたいんですけど、今月は4週しかないので。でもまた時を改めて来ていただけたら嬉しいと思います。
小堺:分かりました、呼んでください。ありがとうございました。
石丸:ありがとうございました。
小堺:どうもありがとうございました。