石丸:松重豊さん、今週もよろしくお願いいたします。このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“ひと”についてお伺いしております。今日はどんなお話をお聞かせくださいますか。
松重:そうですね…「お金」、「食べもの」とくるとね、今日はね、やっぱり「女房」について話さないわけにはいかないですね。
石丸:大切になさってますよね。
松重:こういう場所で「お金」と「女房」を出す人はなかなか居ないでしょう。
石丸:確かに。皆さん、あまり出したがらないもののうちの2つですよね。
松重:なんでかなぁと思って。
石丸:俳優はプライベートをあまり表に出さない人達が多いですけども、松重さんはそうでもない?
松重:別に女房について(話を)出しても、それで女性ファンが減るなんてことは俺には無いし、全然大丈夫ですね。石丸さん、ご結婚は?
石丸:僕は(結婚を)していないので出す人は居ないんですけども、松重さんのように「女房です」って言われると、奥さんは多分嬉しいでしょう?
松重:いや、嬉しいとも思ってない。「また私の話(するの)止めてよ」って言ってますよ(笑)。
石丸:そうですか(笑)。
松重:僕は(付き合いが)長いのでね。19(歳)位の頃からずっと一緒に居る人なので、“マラソン”というか“競歩”というか、そういう“伴走者”としてずっと横に居てくれるし、居てくれるのが当たり前だと思っていて。
石丸:だから、美味しいものを食べに行くという時も一緒に。
松重:そうですね。仕事以外の時は女房と居るんで。仕事で面白いなと思ったらその映画を観に行くなり、そこの観光地に行くなり。(仕事で)美味しいものが食べれたら“これ女房に食わしたいなあ”とかって思うし。それを共有するっていう意味でいくと“伴走者”なんで。
石丸:何か欧米的ですよね。(欧米の方は)皆さん劇場行く時も奥さんを連れて行くとか、スポーツ観戦に行く時もご夫婦で行くとか、そういうひとつの形があるじゃないですか。
松重:日本だと、結婚してる人達でも男同士でつるんで行ったりするのかな。
石丸:飲み会とかね。
松重:あ、飲み会ね。飲み会はもう行かないからね。
石丸:そもそも、奥様とはどういう出会いで?
松重:彼女も大学の時に1回だけ芝居をやったんですけどね。それで同じ舞台に…三谷(幸喜)さんとかも一緒に出てましたしね。だから三谷さんと共演経験はありますね。
石丸:そうですか!
松重:まあ、色んな人が近くにわさわさ居たんでね。
石丸:じゃあ、演劇をやっている仲間のうちの1人が奥様?
松重:そうですね。それ1回きりで、彼女はもうやってないんですけどね。ただ、女房も音楽が好きだったし、会話の80%位は音楽の話だったりしたので、いまだに家の中でも常に音楽を聴きながら何かしてるとか、喋ってるとかっていうことが多いですね。
石丸:どんなジャンルの音楽ですか?
松重:本当に僕はジャンルを問わないというか、普通この位の歳になってくると「あの頃に聴いてたジャズで十分だ」とかって言う人が多いと思うんですけども、最新の音楽をバンバン聴きたいんですよ。
石丸:そうですか!
松重:いまだに新しいもの好きなんで、新しいミュージシャンとか新譜が出たとかっていったらそれを(聴きます)。今はサブスクリプションで、どんどん新しいものを手元で拾っていけるような時代になったじゃないですか。昔はレコード屋さんとか中古レコード屋さんとか行ってね、パタパタっとレコードをめくってレコードを探して、針を落としてみたら「うわあハズレのアルバムだった」みたいなことがあったりしたんだけど、今はサブスクで何でも出来るから。家でとにかく音楽を聴くっていうことがここ何十年もずっと続いているって感じですね。
石丸:奥さんとは趣味は似てますか?
松重:僕と違ってのんびりしている人なので、性格は全然違うと思っています。好きな音楽の傾向は同じような感じで、僕が色んな所から拾ってきた音楽を女房に聴かせて、「これどう?」って聞いたら「これ良いね」とか「これは好きじゃない」とか。昔、僕らは女の子を好きになったら、(会話の)きっかけとして自分のレコメンドのカセットテープを渡すって世代なんですよ。切ないでしょ(笑)。
石丸:あるあるでしたね。
松重:あるあるでしょ。「自分の好きなベストヒット80’s」みたいなやつをカセットテープに入れて「俺はこういう趣味なんだけど」って言って渡す世代の走りというか、そういう時代だったんですよ。だからそれが今でも続いてる感じで。俺が良いと思った音楽を「これどう思う?」って話して、飯食って、くだらないお喋りをするっていうことが僕にとってやっぱりかけがえのない時間だし、このコロナ禍で約2年間ほぼ家に居る時間があっても、“こういう日々が続くのであれば、別に退屈したり不満があったりすることもないな”と思えたんですよね。
石丸:コロナ禍でご主人が会社に行かなくなって、家に居るからどうやって生活したら良いのか、とか、お互い趣味が合わないことが分かっちゃった、とかね。“長く一緒に居るのが苦痛だった”というようなことを言ってるご夫婦も多い中で、松重さんは、元々よく一緒に居られたご夫婦だからかもしれませんけども、すごくスムーズな関係ですよね。
松重:そうですね。でも1人で居るってやっぱり寂しいですよね。(石丸さんは)どうなんですか?
石丸:僕は逆に2人で居ると“面倒くさい”と思っちゃうタイプなんで。
松重:大変な人だ!
石丸:1人のことを突き詰めている時間が幸せなので。
松重:“おひとり”が好き?
石丸:好きですね。何時間でも1人でいられます(笑)。
今後、奥様とどういうような生活を送っていきたいって思います?
松重:別にゴールが決まってないんで、でも「どっちかが死ぬ」ってなったら、それがいきなり「ゴール」って言われるのかなと思うんですよね。本当にずっと伴走者として横にいる人で、空気のように当たり前だとも思ってないし、かけがえのない存在だと思ってます。別に「愛してるよ」って抱きしめてるわけじゃないですけども、とにかく常に(彼女が)横にいるっていう状態でいることの方が、自分の中で(気持ちが)安定してるんです。彼女もそういう気持ちで居続けていられるように日常を過ごしたいなと思いますね。
石丸:今、お話を伺っていて、頭の中で勝手に…サザエさんの家族団欒があるじゃないですか。いつもみんなそこに集まってきて、何気ない会話をして、いろんな事件は起こるけども家族が一番居心地良い、と、そこの絵にクッと繋がった。
松重:サザエさん一家って僕も本当に大好きですけど、波平になりたかったですね、やっぱり。
石丸:思われましたか。
松重:ええ、幸いなことに頭の毛は残っているんで、ビジュアル的には波平になってないですけど。ただ、今、ああいう一家団欒っていうのがもう難しくなって、マスオさんのような人が婿に来ることも(少ない)。うちの子供は2人とも結婚しているんですけど、それぞれ別の場所で家庭を持ってるし。ただ(子供夫婦が)家に来た時には、“にわか波平”になってちょっと悦に入ってますけどね。
石丸:そうですか。
松重:ええ、娘の旦那とかと一緒にね。僕は酒呑まないですけども、彼にお酒を呑ませながら話しているっていう絵面っていうのは、“俺、なんか良いなあ。波平だな”って思ったりはしますね。
石丸:良かった。僕の想いと通じました。ありがとうございます。