石丸:12月25日になりました。このサロンでは3週にわたって人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしてまいりました。最終週は“時を重ねながら長く大切にしていること”についてお伺いしたいと思います。米村さん、それは何でしょうか。
米村:「かがく」。…と言っても、「楽しむ科学」についてです。
石丸:楽しむ科学。科学って漢字で書くと理科の「科」に「学ぶ」という字を書きますが。
米村:それを音楽の「楽」。楽しい方の「科楽」。
石丸:楽しい方の「科楽」ですね。これはどういうものが当てはまるんですか?
米村:科学との接し方、スタンスが、名前を変えることによって変わるんじゃないかなと思って。“学ぶ”って字を使うと、どうしてもお勉強っぽい匂いがするんですよ。
石丸:しますね。
米村:実験を見せたり、当然いろんな解説も入れるんですけど、皆さん分かったか分からないかを気にされるわけです。「これって科学実験ですよね? なぜこうなるんですか? 自分は分からなかったんですけど」とか。
でも、分かっても分からなくても良いんですよ。特に、小さいお子さんだったら分からないかもしれないですけど、実験を見ること、自分が実験をやってみることで、大切な経験を積み重ねて成長してるんですよね。だって、音楽を聴いて何かを理解しようって思わないですよね。
石丸:思わないですよね。音楽もそう、テレビもそうだし、演劇を観たり、スポーツを体験したり。
米村:ミュージカルとか演劇もそうですよね。作る側にはテーマがあったり、伝えたいことがあったり、色々あると思いますけど、どう感じるかは観る側の自由ですもんね。
石丸:確かに。
米村:でも「科学」って言うと、何かを学んだり理解しないといけないと思われちゃうんですよ。
石丸:そう思ってしまいがちなんですけどね。
米村:なので、「科学」を「科楽」にすると少しスタンスが変わって“面白かったな”で納得してもらえるんじゃないかなということで、“楽しむ科学”にこだわりを持っています。
石丸:“楽しむ科学”は、家の中でも出来るものはありますか?
米村:そうですね。例えば氷をお風呂に浮かべる。ちっちゃいとすぐ溶けちゃうので、ポリ袋に水を入れて冷凍庫で大きな氷を作ります。それを「今夜は氷風呂だよ」って言って、お子さんと一緒に入っていく。
石丸:これはどうなっていくのを楽しむんですか?
米村:「氷山の一角」って言葉があるじゃないですか。
石丸:はい。
米村:でも見たことは無い。
石丸:確かに。
米村:お風呂に(氷を)浮かべるとその氷が氷山です。
石丸:あー!氷の上がちょっと出てるけど…。
米村:そう。9割は沈んでいる。お風呂が海原になっていて、そこに氷が浮かんでる。「これが氷山の一角だよ」って、ちょっとわざとらしいですけど(笑)。
石丸:でも、(家に)居ながら氷山を見れるわけですね。
米村:子供たちとっては(氷を)浮かべてるだけで「わー!氷が浮かんでる。でもほとんど沈んでる」ってことを言葉にしなくても体験的に分かる。だから“氷を浮かべたお風呂”っていう奇抜なことが1つの実験になって、「氷山の一角」という言葉は絶対に忘れないですよね。
石丸:確かにそうですね。大人がそれをちゃんと言ってあげられればね(笑)。
米村:そこに“何で氷って浮かぶんだろうな”ってほんのちょっと科学が(入ります)。多くの物質、例えばロウ(蝋)を溶かして(固体の)ロウを浮かべると沈みます。固体になると大体重くなるので、普通は沈むんです。でも水だけは凍るとなぜか浮くんです。これは水がすごく特殊な物質なんですよね。
もし沈んだら海底や湖に沈んだ氷は太陽に熱せられないので、凍ったままになります。どんどん氷が積もって地球が全部凍っちゃいます。でも浮かんでるから下の魚は生きていられる。
石丸:そうか! 考えたこと無かったです。
米村:氷が浮かぶっていう当たり前のことが、地球の気候とか、すごく大切なことにも繋がってるんですよね。ちょっとしたことが先々の経験に繋がってるから、今はお子さんと一緒に楽しんでおきましょう。
他にも、ペットボトルがあったら、ペットボトルを持ってお風呂に入ります。お湯につけてペットボトルをキュッキュッと押すと空気砲と同じで水中にリングが出来るんですよ。
石丸:リングが出ていくわけですね。
米村:そうなんです。イルカがバブルリングを作るじゃないですか。あれと同じものが出来ます。ただ、そのままだと見えないから、ちょっとだけ牛乳を入れると白い輪っかが出ます。お風呂でそういうことをやっちゃいけないと思ってるけど、ちょっとだけ枠をはずしてやってみることが楽しいですよね。大人に「だめだよ」って言われてることを「今日は良いんだよ、実験だから」って口実を与えてあげると、子供たちはすごくワクワクする。
石丸:これはクリスマスプレゼントにもなりますね。
米村:そうですね。牛乳風呂をやって下さい。
石丸:(笑)。
米村:ホワイトなんとかですね(笑)。
石丸:本当にそうですね。話は変わりますが、サイエンスショーで客席の子供たちに空気砲を飛ばして最後に風船がバーッと飛ぶのを見たら、子供も大人もワクワクしますし、自分も体験したいなって思います。今はコロナ禍なので機会は減ってるかもしれませんが、サイエンスショーは年間を通じてやられているんですか?
米村:そうですね。延期になったり、中止になったり、人数制限とか色々と制限があったりするんですけど、だんだん収まってくれば、また以前のように。どちらかというと体験型のショーなので、出来るだけお客さん交えて一緒に楽しむ。その中のひとつが、直径1〜1.5mあるような大きな風船を100個くらい用意しておいて、それを一斉に客席に撒いたら、子供達が夢中で触る。
石丸:ですね。ぴょんぴょん飛びますしね。
米村:そうするとね、大人げないと思うんですけど、大人の方が一生懸命触って、背が低い子供たちが全然触れないんですよ(笑)。
石丸:(笑)。
米村:“ちょっと周りを見てください”って思うんですけども(笑)。大人の方も夢中になっちゃって。
石丸:子供の気持ちに戻るんですね。
米村:そうですね。
石丸:サイエンスショーに行けば、皆さんいろんな実験が楽しめますね。
米村:そうですね。子供たちには難しいかなと思うものでも、お母さんお父さんが思っている以上に、すごく興味を持ちます。なぜかは分からないんですけど、“子供には難しいんじゃないかな”と思うものでも、実験で見せているとピタッと動きが止まって、ずっと見続けてますね。本能に訴えかけるものがあるんだと思います。
石丸:サイエンスショーは
でんじろう先生のホームページから、いつ・どこで開催されるのか必ず分かるようになっています。お近くの方は行ってみて、そこで一緒に体験する。大人ははしゃぎすぎない(笑)。
米村:子供に戻るのも良いと思いますよ。
石丸:そうですね。一緒に楽しんでいただきたいと思います。今後、先生がやってみたいことがありましたら教えていただきたいんですけども。
米村:僕もいい年齢になったので、今後は後進を育てていきたいと思っています。サイエンスショーというものがある程度定着してきたんですけど、僕一代で終わると、(サイエンスショーが)終わってしまうので。ミュージカルとかお芝居は文化として定着しているわけですよね。それと同じように、科学を楽しむという文化が定着していかないかなって。僕が初代でんじろうになって、13代目でんじろうみたいな人が100年後にいてくれたら嬉しいよなって思うんです。そのためにはやっぱり後進を、良い人材を育てていけることが出来たら良いなと思っているので。だから目標は、人を育てていきたいということです。
石丸:分かりました。素敵な方達とチームを組んでやっていらっしゃいますからね。彼らもきっとこれからいろんなものを一緒に作っていくんじゃないかなとも思っております。米村でんじろうさん、1か月にわたり本当にありがとうございました。そして皆さまメリークリスマス! 良いお年を。
米村:メリークリスマス!
※米村でんじろうさんの最新情報については、公式サイト
「米村でんじろう サイエンスプロダクション」をご覧ください。