石丸:寺脇康文さん、今週もよろしくお願いいたします。1月は5週あるんですよ。
寺脇:得した。1月で良かった(笑)。
石丸:(笑)。今まで4週にわたって、人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしてまいりました。最終週は“時を重ねながら長く大切にしていること”についてお伺いしたいと思います。それは一体何でしょうか。
寺脇:いろいろ考えたんですが、“やっぱりこれかな”ということで、「演技をする時に客観的に自分を見ること」です。
石丸:これは俳優を長くやっているとわかりますね。なかなか客観性を持てないんですけどね。
寺脇:でも、それはやらなきゃいけないんですよ。“僕らの仕事ってなんだろう”と思った時に、自分1人で演技をして満足するものではないじゃないですか。何のためにやってるかっていうと、お客様に感動とか元気とかを渡したいからやってるんですよね。
石丸:そこですね。
寺脇:映像も舞台も全てお客様ありきなのに、独りよがりの芝居をしても仕方ないわけで。“これをお客さんは今ちゃんと受け取ってくれているかな”ということを確認するためにも、客観的に「自分は今どんな表情で芝居をしているのか」、「どんな形で立っているのか」とか、全部を俯瞰で見ていないといけないと思うんですよ。
なので、大体僕の70%は、俯瞰で見るようにしています。残り30%で芝居をするという感覚です。
石丸:70%で俯瞰する、というのは、結構冷静ですね。
寺脇:そうなんです。ただ勘違いしていただきたくないのは、30%だけの感情でやってるんじゃなくて、その30(%)の中で感情は100(%)です。
石丸:30(%)の中のパンパンで(芝居を)やっている。
寺脇:パンパンです。
石丸:演出家とか監督とかの視点が備わっているということですよね?
寺脇:それもあるし、自分のやっている演技がちゃんとお客様に伝わってるかどうかを1番考えたいので。これは僕の個人的な感覚なんですが、 “自分の体を運転する自分”が30(%)、としているんですよね。
石丸:運転する…なるほど。
寺脇:ギアを入れると“悲しくなったり”、“こっち向いたり”、“走ったり”、“悔しがったり”、いろんな感情が出てくる…という風にドライビングしている感覚なんですよね。たとえば号泣するシーンがありますよね。ブワーッと涙を流してすごい泣いているんだけど、それを運転する自分をちゃんと見ていて、“お、良い感じで泣けているぞ”っていう。
石丸:わかります。
寺脇:“その感じはお客さんも納得してくれるよ”みたいなことを思いながらやっているんですよ。不思議な商売ですけどね。
石丸:ですね。僕も俳優をやっていますので、大いにわかりますね。若い頃っていうのはちょっと行き過ぎて、本人が“やり切った!”と思ったら、お客さんが引いちゃった…ってありますよね(笑)。
寺脇:“何1人だけ悦に入ってんの?”みたいな(笑)。1番ダメなパターン。
石丸:そういうことを経てきて、1番良いバランスというのが70と30くらいの比率?
寺脇:僕はそうですね。幹二さんはどの位で客観的に見てますか?
石丸:近いと思います。結構クールに(芝居しています)。
寺脇:そうですよね。
石丸:そういう目って大事ですよね。
寺脇:それが無いとダメです。よく若い役者が、こっちが捕まえようとしてるのに本当に逃げちゃったりとか。「ちょっと待て」と。「捕まるんだよ、お前は」っていうね。
石丸:ですよね(笑)。
寺脇:“どうスリリングに捕まるか”をやらなきゃいけないのに、捕まえられなくしてどうするんだみたいな(笑)。あと、グッと胸を締め上げるところも「こっちが苦しくてセリフが言えない」みたいなことをやってくるやつがいると、「ちょっと待って。危ないシーンこそ冷静になって」って言って。
石丸:大事なことですね。
寺脇:だから、アクションシーンとかを経験の無いやつとやるのが1番怖いでしょ。キックとかパンチがどこから来るかわからないのが1番怖いから、「いい? 段取りやったよね? それを冷静にやろう。絶対違うことをやらないでね」って言ってやらないと。感情100(%)で来られても、こっちは怖いわけですよ。約束事ですよね、芝居もダンスもアクションも全て。約束事の中に感情を詰め込んで、客観的に見ながらお客様に共感してもらうっていうのが出来たらベストだと思うんで。
石丸:そうですね。僕たち俳優っていうのはかなり冷静で。ベテランは特にね。
寺脇:冷静じゃないとダメですね。
石丸:それがあってこそ、しっかりしたものが出来上がるのかなと思いますね。そして寺脇さんは役作りについて大切にしていることはありますか?
寺脇:もちろん衣装や髪型とか見た目のことはあるとして、ドラマ『相棒』で亀山薫を演じて5年目ぐらいに段々わかってきたというか、“そういう考え”に変わっていったことがあるんです。
それまでは台本を読んで、表情やセリフ回しを頭で考えていたんですよ。現場に行ってそれをやるんですけど、自分で考えたものと合わないこともあって。例えば部屋が狭い部屋だったりすると、自分が言いたい「お前、どこ行くんだ!」って(大きな声で言うと)“うるさいな”ってなっちゃうじゃないですか。だから、その場所へ行って「誰と喋るのか、どんな場所で、どんな広さで、相手役の言い方に対してどうなるのか」ということをセッションしようと思ったんですね。
石丸:なるほど。
寺脇:自分の言い方を考えていくんじゃなくて、極端な言い方をすると、行き当たりばったりというか。だから“そこにその役として居れば良いんだな”って思いました。
石丸:5〜6年経った時にわかったんですね。それは『相棒』の現場がそんな感じだったんですか?
寺脇:『相棒』を最初から撮っていらした和泉聖治監督に「そんな大きな声じゃなくてもいいから自然にやってください」って言われて。俺がいつも頭で考えていくからやっていることが大げさだったんでしょうね。そういうことが多々あったので、よくよく考えると“場にそぐわないことやっていたな”と思って。だから“頭でっかちに考えるのは止めよう。まず、そこに居よう”と思ってからは、非常に楽になりました。
石丸:映像の世界って、舞台に比べて狭い部屋は本当に狭いし、広いといえば屋上でどこに向かって叫べばいいのかわからないこともありますしね。僕もそうですけども、自分でプランしていくと大体間違っているというか、難しいですよね。
寺脇:僕は、“このシーンはこういうイメージになればいいな“ぐらい大まかなイメージだけを持って現場にいけばいいんだな、と思って。あとは行った先の現場で、セッションでぶつかりあうっていう。そうなってからは自分の芝居が変わったような気がしました。
石丸:そういう風にその場で自分を変えていくっていうのは面白いですか?
寺脇:面白いです。自分を裏切ることが出来ていく。昔は自分が考えたことは絶対やろうと思っていたけど、自分のやり方が間違っていたと素直に思えて、パッと変えられるようになりました。
石丸:それは柔軟ですね。では、どういう俳優になってきたいという想いはありますか?
寺脇:舞台は絶対にやっていたいですね。舞台って、長く稽古をして同じセリフを何日もやるので、どんどん引き出しの中に何かを詰め込んでいく作業なのかなと思って。映像は時間が無い中でやらなきゃいけないから、ある引き出しから「これだ!」って言ってどんどん引き出しから出していく作業。で、また舞台でタンスに色々詰めていく…というイメージを持っているんで、自分には舞台が無いとダメだなと思います。自分を鍛える場でもあるし、勉強の場でもあるし、体力を作る場でもありますよね。
石丸:舞台上で体力ってついていきますからね。
寺脇:セリフを言うこと自体、腹筋を使ってますから。舞台をやると素晴らしいそぎ落とされた体になるんですよ。
石丸:皆さんも舞台に来ていただいて、寺脇さんの姿をとくとご覧いただきたいと思います。寺脇康文さん、1ヶ月にわたり本当にどうもありがとうございました。
寺脇:こちらこそ、ありがとうございました。