石丸:三遊亭円楽さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは3週にわたって、人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしてまいりました。最終週は“時を重ねながら長く大切にしていること”についてお聞きしたいと思います。それは一体何でしょうか。
円楽:「身綺麗でいる」こと。
石丸:「身綺麗」…。 円楽さんは落語家の中でも飛びぬけてお洒落でいらっしゃいますね。
円楽:「身綺麗」っていうのは良いものを着るだけじゃなくてね、髭を剃ることであり、シャンプーすることであり、歯を磨くことであり、体を洗うことであり。私は“老い”というのは“汚れ”だと思っているんですよ。
石丸:なるほど。
円楽:歳をとってくると面倒くさくなってくる。無精ひげを生やして頭もボサボサで、“この人、歯も磨いて無いんじゃねえかな”と思う人はいっぱいいるわけよ。独居老人になって朝起きてやることも無いからその辺にあるものを食べて、観たくもないテレビをたれ流して観てね。ふと気がついたら、“今日、顔洗って無いな”“パジャマのまんまだ。このパジャマもひと月くらい着てるな” って(笑)。
石丸:それはヤバいですね(笑)。
円楽:体臭で死んだやつはいないって言ってね。私はね、加齢臭が嫌だからマネージャーやお弟子さんに「加齢臭がしたら教えてくれ」って言ってるの。そしたら食べるものに気をつけるか、クリームを使うとか。芳香のものは使わないまでもそういう手入れはしようと思って。老いさらばえるのが嫌なの。病気や薬のせいもあったりで痩せて猫背になってきたけど、それでも身綺麗にしておこうと思って。
前は気持ちがいいからゴシゴシタオルみたいなもので使って体を洗ってたけど、(刺激が)強すぎて肌荒れするんだよね。だから今は手で洗って、オーガニックのクリームを塗り込んでみたりね。で、地方へ行くとね、1人エステ。
地方のホテルで風呂に浸かって全身を洗って、またお湯を溜めて浸かって。(風呂から)出て、ベッドの上にバスタオルを敷いて、クリーム塗り始めて・・・。
石丸:ご自分でね(笑)。セルフということですね!
円楽:そう、エステシャン(笑)。
一同:(大笑)。
円楽:鏡の前でいろんな事をしてね。そういうことが面白くて仕方なかった。
石丸:気持ちよく過ごせるのは大事ですね。
円楽:お風呂が好きですからね。昔から温泉も好きで、温泉へ行くと1日ずっと出たり入ったりして。行きつけの渋温泉(長野県)ってあるんですけど、そこでもう亡くなっちゃった俺より年上の関昇次(
御宿 多喜本)って人と自分の部屋を作ってね。
石丸:そうですか!
円楽:部屋を広くして、囲い込みでもって露天風呂を作ってね。そこへ行くと飯と酒を持って来てもらって、部屋から出ない。ずっと1日ゴロゴロしてるの。で、夕方になって出るとなったら、「今日は、飯いらないよ」って言って(旅館の)前にあるラーメン屋でギョーザ食べたりしてね。あとは、バスタオル持って外湯めぐりを2、3軒やるのが楽しみですよ。カランコロンと下駄を履いてね。
石丸:それは「時を重ねながら長く大切にしていること」のひとつですね。
円楽:だから身綺麗っていうのは、体を綺麗にする、お洒落をする、そして金の話だったらせこくならない。祝儀ひとつきれるような芸人でないと。芸人は祝儀をもらうもんだと思ってますけど、後輩たちに「これで飯でも食いな」って出来ないと恥ずかしいな、と。そこまで含めて身綺麗。
石丸:先代と先々代の師匠から「そういうような生き方が良いよ」と言われてましたか?
円楽:うちのお師匠さんはとにかく一途でお忙しかったから、滅多に何か言われないし、小言も言われなかったかな。
石丸:そうですか。
円楽:あ、小言は言われたんだ。うちのお師匠さんは「やらずに後悔するバカはいねえんだから、何でもいいからやっちまえ」って真っ直ぐ生きる人だったから。それで人にも迷惑をかけたかもしれないけども、誰も文句が言えないお師匠さんでしたよ。だから、私は逆に外交。他の師匠や他の仲間たちと手をつないで「落語はすごい良いエンタテイメントなんですよ」って。うちの師匠も「落語っていう職業が舐められちゃいけない」っていうのがあったから。だって世間っていうのは、“お笑い”というと下に見るでしょ?
石丸:どうしてもそういう部分はありますよね。
円楽:お笑いっていうけど、笑うのは人間だけなんですよ。「お笑いはくだらない」ってことはない。笑えないっていうことは、その人は精神的に病んでる証拠ですよ。やっぱり笑顔が一番の化粧道具だもん。
石丸:良い言葉ですね!
円楽:マリリンモンローが言ったのかな(笑)。
石丸:(笑)。話は変わりますが、師匠は今年、年男になられるんですよね。「五黄の寅」ですよね。
円楽:五黄の寅で水瓶座で、A型。その通りですね。
石丸:その通りとは?
円楽:A型は生真面目で、水瓶座は知識を含めて溢れる才能があって、寅は千里走って、千里戻ってくるというね。
石丸:強烈ですね(笑)。
円楽:強い星なんですよね。
石丸:今年の抱負がありましたらお願いします。
円楽:「寿命事切れるまで頑張ろう」っていうことで。ひと月に1回大学病院へ行って治療をして、3か月に1回CT(検査)をやって、半年に1回MRIを撮って、1年に1回再発転移が無いかPET-CTを撮って。生きている間はそれが自分のルーティンになってるから、副作用が出た時にはたまにギブアップするけども、それ以外は“行けるとこまで行ってみようかな”って。 ただ欲張らずに、寿命事切れるまで。
これもうちの師匠が言ったのかな、「良いかい、いつか目の覚めない朝が来るよ」って。寝るのが好きだって言ったけど、いつか目が覚めないんですよ。
石丸:そういうことですね。
円楽:だからその日まで。それで“終わったな”と。意識がないんだから仕方ないよね。
石丸:「悔いのない人生を送られる」と。そんな中で“圓生”という名をお継ぎになるのかなと僕たちは注目してるんですけど。
円楽:世間にはね、いろんな意見があって、「あの芸で圓生なのか」ってね。芸っていうのは比べるってよりも、その人が持っている芸なんだから。そりゃ圓生師匠は凄いですよ。昭和の大名人ですよ。だけど名前っていうのはね、宝の持ち腐れじゃないけど、埋もれたら勿体ないんですよ。
三遊派と柳派というのが落語の大元。三遊の一番大名跡って言うと“圓生”なの。それが時の流れの中で「止め名」ということになったんだけど、それをほぐして。今、思っているのは、世の中に出したいんですよ、“圓生”を。出して恥ずかしい芸かもしれないけども、「円楽が圓生を継いだ」って言えば話題にはなるわけ。
石丸:なりますね。
円楽:それで何かが出来るかもしれない。それに1回出しておけば、後が継ぎやすいじゃないですか。「俺じゃ駄目だ」っていう人が多かったら、誰かに継がせる段取りは作っておきたい。つまり“圓生”という名前を止め名にしたくない。いわゆる落語協会脱退、圓生問題という我々が背負い込んだ負の遺産を整理して終わるのが俺の役目だなと思ってるから。三遊の流れの中で“圓生”の惣領弟子の“円楽(圓楽)”という名前を継がせてもらったんだから、「“圓生”を世の中に出すのが私の役目かな」と思ってるから。世間や仲間内を含めて「継いじゃいなよ」っていう意見があれば手を挙げてみたいな、と。
石丸:ぜひそれが叶う事を祈っております。
円楽:だって俺が落語を一番好きなんだもん(笑)。
だから私の今やってることは、「落語というものが話題になっててほしい」。石丸さんから今日呼んでもらったのは、落語家として呼んでもらってるでしょ?
石丸:はい。
円楽:僕はラジオやテレビしかり、あらゆるジャンルに広報係として“落語というものを少しでも世間に知らしめたい”と思って、あと残りの寿命を全うする。それが1番の自分の夢ですね。
石丸:素敵な夢ですね。
円楽:そのためには、少し長生きしなきゃいけないなと思ってね。
石丸:そうですね。
円楽:あと、10年位生かしてくれれば何とかなるかなと思って(笑)。
石丸:また笑点も楽しみにしておりますので。本当に1か月に渡りありがとうございました。
円楽:ありがとうございました。