石丸:大久保嘉人さん、これから4週にわたり、どうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしております。今日はどんなお話をお聞かせくださいますか。
大久保:今日は「自分を信じ続けること」を話してみたいなと思います。
石丸:大久保さんは昨年の11月に現役を引退されましたが、20年というすごく長いサッカー人生ですよね。
大久保:そうですね。これだけ長い期間やれて、振り返ると“よくやったな”って思いますね。
石丸:改めて、お疲れさまでした。
大久保:ありがとうございます。
石丸:サッカー選手としての20年、一言では言えないかもしれませんが、振り返ってみていかがですか?
大久保:苦しいことも非常に多かったですけど、その中に喜びもあったので、本当に充実した20年間だったなと思います。自分が想像した以上の、最高の現役生活でした。
石丸:1番最高だったのは何ですか?
大久保:「Jリーグで活躍して名前を残したい」という目標があったんですけど、「得点で(名前を)残せた」というのが、1番嬉しいですね。
石丸:20年続けてきたからこその記録ですよね。
大久保:そうですね。
石丸:プロのサッカー選手の平均年齢って、大体何歳位なんですか?
大久保:平均は「25歳」と言われてましたね。
石丸:25歳! 早くに引退する方もいらっしゃる?
大久保:そうですね。引退して全然違う仕事に就く人もいますし、チームでコーチとして子供に教えたりしている人が多いですね。
石丸:いわゆる(キャリアの)第2章に行くということですよね。39(歳)になって周りを見た時に、プロ入りした時のメンバーはいらっしゃいましたか? カズさん(三浦知良)はいらっしゃいますよね。
大久保:そうですね。カズさんはいますけど、本当に少なかったです。10人いるかどうかでしたね。
石丸:そういう人たちと連絡を取り合ったりしてました?
大久保:会った時に喋るくらいです。(チーム内で)1番年長になるので、「どんな感じでチームメイトと接しているの?」とか、そういう話をします。若い選手とは話題も違ってくるじゃないですか。
石丸:あと、「いつぐらいまでやるの?」をみたいなことを、さりげなく聞いたりしますか?
大久保:しますね。
石丸:逆に聞かれることもありましたか。
大久保:ありましたね。「まだやるの?」とか。
石丸:その時はどう答えてました?
大久保:「やれるとこまでやるよ」っていう話はしましたね。長くやってる選手って、みんな“やれるとこまでやりたい”っていう選手ばかりなので。
石丸:そりゃそうですよね。出来たらいつまでも現役で輝き続けたいと思いますしね。
大久保:そうですね。
石丸:日本のJリーグで活躍されてから、海外でプレーされました。海外へ行ってみて日本と比べた時に、差はありましたか?
大久保:サッカーに関しては、やっぱり差はありましたね。チームメイトなんですけどライバルでもあるので、練習からスイッチが入るというか、すごく激しかったですね。“これを日本でしたら引かれるな”っていうくらい、危ないシーンがいっぱいあって。
“そいつがケガをすれば俺が出れるんでしょ”みたいなことが、海外は普通だったので、最初はちょっとびっくりしましたね。
石丸:僕もたまに拝見しますけど、大久保さんのプレーって結構激しいじゃないですか。それは元々持っていたものなんですか? それとも海外に行ってより増したものなんですか?
大久保:元々小さい頃から持ってました。海外に行ったらそれが普通で、僕よりすごい人もいて、“これが海外だな”と思いましたね。
石丸:“今までの自分のスタイルで良かったんだな”っていうことを感じますよね。
大久保:感じましたね。そこでは“それ以上にやらないといけない”って感じました。
石丸:そういうシーンで怪我をしない方法とか、うまく回避する方法は現場で学んでいくんですか?
大久保:そうですね。やりながら、“このまま頑張って耐えると骨折するな”とか。
石丸:骨折まで!
大久保:だから耐えずに、そのままコケると怪我をしにくくなりますね。“これは危ない”と思えば先にコケたり、ジャンプしたりして回避していました。
石丸:みなさん“こうなるだろうな”と思って上手にコケたり乗られたりしているんですね。
大久保:そうなんです。怪我をしない人達はそういう風にやっていますね。考えながらプレーしてます。
石丸:25歳くらいが現役選手の平均年齢のところ、39(歳)まで現役を続けていらっしゃいました。引退は何がきっかけだったんですか?
大久保:本当に急だったんですよ。引退発表する3日前に“辞めよう”って決めて。
石丸:3日前!
大久保:練習が終わって車に乗る時に、ようやく1人になるわけじゃないですか。その時に、次の年のキャンプで自分がやってるイメージがなかったんです。いつもだったら1年間を振り返って、またキャンプから頑張ってやれるんですけど、それが今までと違って、イメージがなくなっていて、“あ、これは辞めた方がいいのかな”って思って。でも、そこですぐに言わないと、“やっぱりやりたい”って波がくるんですよ。
石丸:そういうものなんですか。
大久保:波が来るから“そこで伝えよう”と思って。
石丸:逆に、今までその波って、どのくらい来てましたか?
大久保:この年齢になると、結構来てたんですよ。1年に3、4回来てて。
石丸:シーズン中でも?
大久保:はい。そこで伝える勇気がまだなかったんですよね。でも今回は“11月に伝えよう”と思って、伝えましたね。
石丸:勢いもあったけど、ちゃんと自分のことをよく見つめていたから決められたんでしょうね。
大久保:「活躍してなくて…」ということで辞めたくなかったんですよ。でも昨シーズンに古巣の(セレッソ)大阪に戻って、そこで得点も取れたので、“今が1番綺麗なのかな”って自分の中で思ったんです。
石丸:“辞め際”ですよね。記者会見でも言われてましたけども、ゴールの数として、もうすぐ(通算)200にたどり着く191ゴールというところでピリオドを打たれたわけです。“あと少しで”という未練はありましたか?
大久保:特になかったんですよ。逆に気持ちがスッキリしたんです。周りの人達から「200まで観たい」って、それをすごく言われたんですよ。
石丸:勝手に決めてね(笑)。
大久保:(笑)。自分も、 “200までいきたい”とはすごく思ってたんです。けど、“9点取るためにあと何年やらないといけないのかな”という風に考えてしまうんですよ。
石丸:そうか、確かにね。
大久保:この9点を、“まぁ、行けるだろう”って見てる人達はいると思うんですけど、僕の中では“まあまあ長いだろうな”と思ったので、“今、辞めるしかない”と思って(引退を)言いました。言ったら本当にスッキリしました。
石丸:「9」という数が見えないプレッシャーで乗ってきていたんですかね。
大久保:そうですね。乗ってきていましたね。もうちょっとでいけますけどね。
石丸:周りから見たら、39(歳)まで現役でトップレベルでよくやっていらして、僕は“このまま走り続けてもらってもいいのにな”くらいのことを思ったんですけど、きっちり考えた上で、潔く引退宣言されました。改めて伺いますけども、「大久保嘉人にとってサッカーとは?」。
大久保:今までは「仕事」って言ってました。サッカーは小さい頃からやってきて、小学生の時にJリーグが出来て、“華があってお金も稼げる”と思ったから、“そういう風(プロ)になりたい”と思ってやってきて。プロになった時に、「何年やれるかも分からない。だから、やれる時に稼がないといけない」というのがあったので、本当に好きなことだったんですけど、「仕事」と捉えてましたね。
石丸:ある意味、仕事と割り切って。
大久保:割り切ってやってましたね。
石丸:好きなことを仕事に出来る人って、本当に少ないですからね。
大久保:そうですね。本当に幸せですよね。
石丸:ですよね。それは今も変わりませんか。
大久保:変わらないですね。そこはずっとブレずにここまで来ました。
石丸:「大久保嘉人にとって、サッカーとは仕事である」。
大久保:はい。
石丸:ありがとうございます。