石丸:大久保嘉人さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“場所”についてお伺いしております。今日はどんなお話をお聞かせくださいますか。
大久保:今日は「長崎県国見町」についてです。
石丸:国見町というのは、サッカーがすごく盛んなエリアですよね。ご出身は福岡県ですよね。
大久保:そうです。
石丸:ということは、小学校を卒業後、長崎へ?
大久保:はい。1人で行きました。
石丸:私立中学ですか?
大久保:公立中学ですね。その時には県外から8人位、みんなスカウトされてきていましたね。
石丸:公立なのにすごいですよね。
大久保:本当にすごいです。
石丸:自分と同じようなレベルの子が集まって来ているのは、どんな感じでしたか。
大久保:みんな身長も高くて、筋肉もすごくて、そしてプレーも上手い。“俺、すごいところに来たな。このまま3年間やれるのかな”っていうのが第一印象でしたね。
石丸:それまでは、トレーニングをきっちりやるというよりは、思いのままにサッカーをやっていたタイプでしたか? それとも、ちゃんとトレーニングを積んで肉体作りをしてサッカーに臨んでいくタイプの少年でしたか?
大久保:小学生の時は、どこへ遊びに行くにもサッカーボールを持っていって壁に向かってずっと蹴っていたり、公園で仲間を集めて試合をしたりしていました。あとは、夜に走りに行ったりはしてました。
石丸:自分でガッチリやっていましたね。さっき、「スカウトされた子は体が作られていた」というようなことを言われていましたが、みなさん同じようなことをやっていたんですか?
大久保:そうでしょうね。多分同じこともやっているし、国見町はサッカーの町だったので、ちゃんとしたトレーニングをやっていたのかもしれないです。
石丸:そんな人達の中に入って、闘志は湧きましたか。
大久保:プレーでは特に無かったんですよ。けど、“わざわざ親元を離れてお金も出してもらって来たんだから、頑張らないといけない”っていうのが、いつも自分の中に湧いてきてました。駄目な時でも。
石丸:じゃあ、それがエネルギー源なのかな。
大久保:なっていましたね。最初は寂しくて“帰りたい”と思ってたんですけどね。
石丸:そのまま公立の中学から公立の高校に受験されて。
大久保:そうなんです。やっぱり“福岡に帰りたい”と思ったんですけど、親から「せっかく国見に行ったんだから、そのまま国見高校に行きなさい」と言われて。
石丸:いろんなところに有力な高校はありますけど、国見は特別な高校だったんですね。
大久保:そうですね。小学生の時からテレビで高校選手権を観て育ったんで。
石丸:日本の頂点を目指している学校ですものね。
大久保:そうなんです。「一番厳しい」と言われる学校だったんで。
石丸:どういうところが厳しかったんですか?
大久保:非常にきつい練習を一番やる高校だったんです。
石丸:具体的にどういうメニューだったんですか。
大久保:練習時間はそんなに長くなくて、学校が終わって4時から6時までなんです。そこから自分たちでトレーニングをします。けど、「走りの時期」というのが2〜3か月あって、その時期は地獄でした。
石丸:何キロくらい走るんですか?
大久保:一番長くて72 km走ったんですけど、その間に試合もするんですよ、3試合。
石丸:え?
大久保:1試合目が終わったら、次の2試合目が始まるまでずっと走ってるんですよ。また2試合目が終わったら、3試合目が始まるまで走って。
石丸:3試合目までスタミナが持つんですか?
大久保:その時は持ってましたね。試合が終わったら階段ダッシュを何百本もやらされて、(サッカー練習場が)山の上なので、「走って帰れ」って。
石丸:それはキツイわぁ。
大久保:走って帰ってる時には、みんなお腹が減ってきてるんですよね。途中で本当に走れなくなったら、コーチが「どうしたんだ?」って来るじゃないですか。「もう動けないです」て言ったら、寮からご飯と味噌汁を持ってきて「食え」って。
石丸:その場で?
大久保:はい。その場で食べたら、ちょっと復活するんですよ。
石丸:そりゃそうですよね。
大久保:だからそのまま走って帰ってました。本当にあれはきつかったですね。
石丸:でも、その時のトレーニングが今の大久保さんを作っているんですね。
大久保:そうですね。
石丸:福岡を離れて長崎の国見に行って良かったと、今も思われますか。
大久保:すごく思いますね。最初は「行かない」って言ってたのを、父が「行け」と言ったのに従って、“本当に良かったな”って。
石丸:お父様に感謝ですね。
大久保:はい。
石丸:国見高校といえば、大久保さんの恩師でいらっしゃる「名将」小嶺忠敏さん。残念ながら今年の1月にお亡くなりになられました。監督はどういうお方でしたか。
大久保:サッカーもそうですけど、サッカーよりも“人間力”というものを育ててもらったなと思いますね。常々、「サッカーだけ良ければいいんじゃない。人間力がこれからの人生に繋がっていくから」と言われていました。
石丸:どういう人間力ですか。
大久保:“礼儀”ですね。挨拶はすごかったですよ。知らない人が来ても止まって挨拶しますし、国見町を走ってる時に誰かとすれ違っても止まって挨拶をしないといけなかったんです。
石丸:「人としてちゃんとしていなさい」ということを教えてくださった先生ですね。
大久保:そうですね。
石丸:その小嶺先生からもらった言葉があると伺いました。
大久保:僕だけじゃなくてみんなに言っていたんですけど、3年間言われたことが「自信と過信は紙一重」という言葉で、その時は全然意味が分かってなくて、“何を言ってんだろうな”と思っていたんです。
プロになった時に、成功体験が出来れば“自信”になるんですけど、それが行き過ぎて“過信”になればサッカー選手として終わりに近づいていくんだなというのが分かって。(それまでは)自信なのか過信なのか自分で分かっていなかったので、すごく大事な言葉だなと思いましたね。
石丸:それぐらい自信を持っていなければいけないスポーツではあるんですけども、自信と過信を紙一重のところを見極めるには体験しかないですよね。
大久保:そうですね。
石丸:そうやって、国見(高校)時代に小嶺先生に色んなことを教えていただいて、大事な言葉もいただきました。今、大久保さんが子供たちに伝えたい言葉があれば教えていただけますか。
大久保:「諦めないこと」ですね。“サッカー選手になりたい”っていう子供たちは多いと思いますけど、上手くいく時と上手くいかない時は絶対出てきますし、上手くいかない時の方がたぶん多いです。そこで“やっぱりダメだ”と思わずに諦めずに努力することによって先が見えてくる。僕がそうだったんですよ。
本当にダメな時が多くて、プロになれるとも思ってなかったですし。でも諦めずに自分のプレーを信じてやり続けてきたから、チャンスをものに出来たんですよね。
石丸:待ってるだけじゃなくて、そこに努力があるからですよね。
大久保:そうですね。だから諦めずにやり続ける。
石丸:良い言葉ですね。これを聞いてる子供達、諦めないで頑張ってください!