石丸:藤岡弘、さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。
藤岡:宜しくお願いいたします。
石丸:このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしておりますが、今日はどんなお話をお聞かせくださいますか。
藤岡:今回は「武道教育・武士道精神」について話が出来ればと思っております。
石丸:先週も少しお話しくださいましたけど、武道教育はお父様から受けられたと。
藤岡:そうですね。父だけではなくて、いろいろな恩師との出会いがあって。戦前、戦中、戦後を生き抜いてきた大先輩との出会いによって、いろんな薫陶や教訓を残していただいたものが、僕の中に砂に水を入れるがごとく吸収されて溜まっているんですね。
石丸:藤岡さんが学んでいた武道は、どういうものがあるんですか?
藤岡:最初は父から柔道の基本を。柔(やわら)ですね。昔は“柔術”だった面もあるんですが、今は“(柔)道”になってますけどね。
昔はもっと実践的なものがあって、父は実践的なものと両方兼ね備えていましたから、歴史的にも(名前が)残っているような武道家でもあったんです。
石丸:それは古武道にあたるものになるんですか?
藤岡:そうですね。実際に戦前、戦中ずっとそれ(武道)で海外を生き抜いてきて。ですから私の母は、8年ぐらい海外の領事館…というのかな。
石丸:どこの国だったんですか?
藤岡:中国の日本領事館でずっと活動をしていました。ちょっと(戦況が)危なくなってきたので、先に母は日本へ戻ってきて、後から無事に父が帰ってきたけれども、体も何もかもボロボロでした。
生死をさまよった、修羅場をくぐって生き抜いた傷跡が、小さい頃(父と一緒)にお風呂に入ると良く分かりました。鼻はもげてくっついているし、いろんなところにいろんな傷があったり。(父は)何も語らないので、それを見て“おかしな親父だな”と思ってました。
石丸:子供は分かりませんものね。
藤岡:何の話もしない、寡黙な父でしたからね。けれど、兄貴と私は厳しく育てられましたので、ひとつの大きな基礎になりました。
石丸:藤岡さんは、そういう教育を、どちらかというと当たり前のように吸収されていったんですか?
藤岡:基礎的なものは少し教わりましたが、その時は僕もそれほど興味を持っているわけではなく、流れの中で教わっていて、“自ら”ということではなかったんです。後々に“こんなにすごいことだった”“もっと自ら進んで覚えておけばよかった”と。今は悔やんでも遅いんですがね。
石丸:そうなんですね。
藤岡:それから教え導いてくれるたくさんの恩師との出会いによって、いろんな術、武道を学び、そこからどんどん開けていきました。
柔道を習ったおかげで、高校の時は柔道でずっとキャプテンを続けて、そこで体を鍛え、精神を強化したことで、後に事故や怪我で難局になった時に役に立ちました。「確信を持って越えられた」というか。
”やっぱり心の強さは、自分の心の持ち方や心構えが大事だったんだ“という事が、今になって繋がるんですよ。不思議と。だから、“やって良かったな”と思いますね。
石丸:お母様もいろいろな技を持っていらしたと伺っていますが。
藤岡:そうですね。母は伝統的な日本のお花、お茶、琴、それから日本料理とかね。お茶の先生であり、お花の先生であり、いろんなものの先生でした。それから裁縫は、日本の着物とか袴まで縫ってましたから。
当時は周りにもたくさんいたと思うんですけど、日本女性の元々持っているものを身につけた「女武士道」を地でいくような、凛とした一本芯のある母でしたね。
石丸:お父様もお母様も武家の生まれのような方ですね。
藤岡:確かに。でも、そういう家族は周りもありましたけどね。父の友人達が来ていてもそんな感じでした。父は厳しさがあったけれど、母はその厳しさをうまく優しさで包み込んでくれて、助けられたこともありました。
日本の伝統的なものを背負った父母であったのかなと思いますね。
石丸:その影響は今も残っていらっしゃる?
藤岡:影響を受けていますね。
石丸:話は変わりますが、藤岡さんのホームページを拝見していますと「藤岡弘、が伝えたい 武士道九つの道徳と実践実戦侍精神」というページを作っていらっしゃいますよね。
どういう道徳があるのかを、ここで改めて教えていただけますか。
藤岡:九つというのは、よく武士道精神の本にも書いてある「義・信・智・仁・勇・誠・忠義・名誉・礼」で、これは世界のどの民族にも通用する道徳を内包しているんですよね。
僕は、これは日本民族の宝だと思うんですよ。己を律する心とか、「惻隠(そくいん)の情」といってあわれみの心を持って“慈しみ”というか“思いやる優しさ”というものとか、感謝するとか、自己犠牲の精神とか。いろんなものが含まれている武士道精神は日本人にとって、人格・品格・品性を養う貴重な原点だと思うんですよ。
石丸:なるほど。
藤岡:だから、これから日本を背負っていかれる今の子供たちや若者には、ぜひこの武士道精神を紐解いて先人が歩んできた日本人の真実の歴史に眼を向け、関心を持ってもらえたら、国家が問う民族力の源、自分の人生で目指すものが出来た時に「あ、これだ!」というものが絶対見つかると思うんですよね。
日本人の強さの原点、民族力の強靱な人間力は事ある時に現れるという事。
石丸:(心の)支えにもなりそうですね。
藤岡:なります。特にこの時代はいろんな困難な壁があり、そして試練があり、そしてコロナなど大変な事がいろいろ起きている流れの中で、「生き抜くということはどういうことか」という人生観が問われてきます。人間力、民族力とは死生観やあらゆるものが、この中(武士道九つの道徳と実践実戦侍精神)に眠っているわけですよ。
石丸:何かに迷っている人は、この
「藤岡弘、が伝えたい 武士道九つの道徳と実践実戦侍精神」のページへ入って。
藤岡:そう思います。素晴らしい先人たちが命がけで培って残してきた教訓ですから。「分をわきまえろ」「足ることを知る」「誇りを失うな」など、全部意味があるんですよね。だから人間形成によって人間力を養う上においては、これほど力になるものはない、と。
新渡戸稲造さんが武士道精神を世界に誇るべきものとして英訳して出されて、世界中が注目したというくらいの内容なのでね。日本人こそがこの真髄を知っていないと、海外に行った時に逆に聞かれたら恥をかく事になる。
石丸:そうですよね。よくありますよね。
藤岡:「誠実に生きる」とか、大義、道義、信義、「人としての思いやりや労りや慈しみ」、「信義を重んじる」。いろんな教訓をひとつひとつ紐解くともっと深いものがあるんですが、お話が長くなってしまうので(笑)。
石丸:ぜひ、(藤岡さんの)ホームページを見てもらって。私もいろいろ読みながら「生きるとは修行だ」というところは、“ああ、これはすごく実感するな”と思いました。
藤岡:己磨きの旅なんですよ。だから私は「人生はサバイバル。生きて、生きて、生き抜くための知恵を自分で見つけろ、自己発見の旅なんだ」と。
それが全部、この武士道の中に教え導かれるものが入っていると思っているんです。
石丸:私も改めていろんなページを読んでみたいと思います。皆さまもぜひ、武士道、そして侍精神を浴びてみてください。
藤岡:ぜひお勧めしますね。