石丸:古澤巖さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは、人生で大切にしている“ひと”や“こと”についてお伺いしております。今日はどんなお話をお聞かせいただけますでしょうか。
古澤:はい。今日は「東儀秀樹の雅楽」についてです。
石丸:東儀秀樹さんは、以前この番組にも出演いただきましたが、奈良時代から1300年続く楽家に生まれた雅楽師でいらっしゃいます。そんな東儀さんとは、どのような出会いだったんですか?
古澤:普通は宮内庁で楽師をされていたら、そこから外に出られることはないと思うのですが、東儀さんの場合は冒険家ですからね。虎の穴を抜け出してきたんですよ。
石丸:虎の穴(笑)。
古澤:実は同い年なんですよ。彼と出会ったのは、彼がデビューしてすぐの96年ぐらいだと思うんですが、ステージをたまたまご一緒させていただいたんです。僕も音楽家の端くれとして、音楽のルーツのような雅楽を知らずして自分が音楽家と言うのは恥ずかしいと思って、「毎年何でも良いから自分のステージに関わってほしい」と懇願して、今まで毎年20数年ずっと一緒にやってもらっています。
バーンスタインの時も言ったかもしれませんが、客席で聴いているのとは違うんですよ。一緒にステージに立って、至近距離で、奏でている音と心を感じながら…彼の場合は、そこに宇宙が入っていて。それが雅楽の素晴らしさだと僕は思います。
それまでは、「ロングトーン」ってあるじゃないですか。もちろん歌でもたくさん使われますが、僕らはすごく苦手で。音を伸ばしている間はどうして良いか分からなくなったり、余計なことを考え始めたりするので、“細かい音をガチャガチャ弾いている方がごまかせる”みたいな感じってあったんですよ。ロングトーンの美しさなんて考えたこともなかったんですが、雅楽には“ロングトーンで宇宙を奏でていく”という技法があるんです。“一つの音だけでこれだけ人を包み込むことができるのか”と。
彼に「何を考えて演奏しているの?」とかいろんな質問をしてきましたけど、長く一緒に弾いているといつも浴びるように聴いているので、何となくテイストも慣れてくるし、自分がやる時にもイメージしやすくなってきます。だから、“音楽家としてこの人に出会えて良かったな”と思うくらい、自分の中では本当にセンセーショナルなことだったんです。
石丸:いつしか、東儀さんの篳篥(ひちりき)のような世界観の音を紡ぎ出しているのかもしれないですね。
古澤:そうです。実は東儀君とコラボをする時に、普通のバイオリンの弾き方だと全く通用しなかったんですよ。だから、“篳篥のあのゆらぎに合うように”とか(弾き方を)変えていかなきゃいけなかったんですけど、どう変えて良いのかも分からなかったんです。
最近バロック音楽を学び始めたんですけど、何か(雅楽と)似ているんですよ。古いと言っても、三百〜四百年ぐらいの前の音楽と千数百年前にあった音楽とでは違うかもしれないけれど、バロックの音って、今の現代の人たちが“こうじゃないのかな”と思って想像しながら弾いているに過ぎない…過ぎないって言い方はおかしいかもしれないけれど、音源が無いから。
石丸:そうですね。
古澤:雅楽のレッスンの仕方ってすごいじゃないですか。千何百年も先生と生徒が口伝で教えるからこそ続いてきたと思うんです。
石丸:すごいですよね。楽譜も無いじゃないですか。西洋の楽器というのは口伝というのはあまり聞かないですよね。
古澤:楽器って、最初は先生と生徒の技術の差がありすぎるし、先生も出来ない子の苦労が分からないと思うんですよ。先生って、たまたま小さい頃に出来ちゃった人しかならないし。
石丸:そうなんですね。
古澤:苦労して先生になった人は多分いないですよ。そういうものじゃないので。小さい頃から優秀な子だけが大人になってもそのまま優秀で、出来ない子は辞めていっちゃうとかね。だけど、口伝だったら歌と歌で、楽器を使うよりは同じレベルで真似出来るじゃないですか。
石丸:楽器を先生と一緒に吹くんじゃなくて、そのフレーズ感みたいなものを口で伝えているということなんですよね。
古澤:そうです。余計なことに気を取られるからこそなかなか先に進まないから、昔の人はそんなところまでメソッドを考えたことが素晴らしいなと思います。
石丸:確かにそうですね。口伝ではないかもしれないですが、東儀さんの語り口から古澤さんに伝わった音の世界がコンサートでは聴けるんですね。
古澤:そうですね。雅楽の世界を覗かせてもらえるような友人がいたというのは、“日本人で良かったな”と思いますね。
石丸:出会いって素敵ですね。
古澤:本当にそうですね。
石丸:そうやってジャンルを広げていかれていますが、秋から新バンドがスタートすると伺っています。これはどんなことをされるんですか?
古澤:よくぞ聞いて下さいました! 今、大河(NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」)にも出られています、山本耕史さんと一緒にコンサートをするんです。
それも、パーカッションはあの(オルケスタ・)デ・ラ・ルスを作った大儀見元さん、ベースは井上陽介さんで、ギターは小沼ようすけさんです。そして音楽監督にSALT(ソルト)と呼ばれる塩谷哲さん。彼も初期のデ・ラ・ルスのメンバーでしたので、何となく(音楽性が)見えてくる感じですけれども、そこで果たして“山本耕史さんが一体何をするんだろう?”と思いますでしょ。
石丸:何をするんですか?
古澤:それが面白いところで、基本的には音楽会のナビゲーターとして登場するんですよ。だから、その音楽会を全て彼がつかさどってくれて、その中で僕たちが弾けんばかりの音楽を演奏するというものになります。実は過去2年ぐらい、実験的にずっとライブを重ねてきてたんです。“コロナが今年は明けてくれると良いなあ”と願いながら、このバンド結成に至ったという感じです。
石丸:それは楽しみですね!
古澤:(コンサートツアーは)「Dandyism Banquet(ダンディズム・バンケット)」というタイトルなんですね。
石丸:これはどなたが命名されたんですか。
古澤:「ダンディズム」というのは、実は元々僕が宝塚が大好きだったので。そこからそのダンディズムのバンケット、いわゆる宴のような、バーレスクのような。
石丸:良いですね!
古澤:そういったちょっと怪しげな世界観を、頑張ってるおじさん達と一緒にやるんですが、そこに山本耕史さんが入ることによって、何とか僕らが救われたいという(笑)。
石丸:いえいえ。新たな世界観で楽しみですね。
古澤:そうなんです。ここでまた自分の知らないことをしてスキルアップが出来たら、それって何か良いじゃないですか。
石丸:良いですね。ぜひ楽しみにしたいと思います。