石丸:水谷豊さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしておりますが、今日はどんなお話をお聞かせいただけますでしょうか。
水谷:今週は「撮影現場に居ること」について。
石丸:水谷さんは、1年中殆どと言っても良いほど現場にいらっしゃるお忙しい方ですよね。どういう心構えで現場に向き合っていらっしゃいますか。
水谷:かつては、仕事って、上手くいっても失敗しても、やった分を休まないと何かしらの後遺症があったんですね。だから、後遺症が癒えるまで休まないと次へ行けない、というような。これは若い時ですよ。
石丸:ということは、今は無いということですか?
水谷:無いんでしょうね(笑)。
石丸:無いんですね! すごいことですね。
水谷:若い時というのは新陳代謝が激しいですから、なかなかひとつの所に居られないんです。
石丸:そういうのもありますよね。
水谷:ありますよね! 若い時は横の振り幅を欲しがりますけど、ある時からだんだん“奥に何かあるんじゃないか”って変わってくる。
石丸:“奥”ですか。
水谷:“同じようなことをやっているようだけど、これ、違うんだ。奥にもっと何かあるんじゃないか?”っていう風になってくる。だから(横の)振り幅で(現場を)変えなくても、“ここにはまだまだ分からない事がたくさんあるんだ”って、そこに居られるようになってくる…という。
石丸:それはひょっとして、ドラマ『相棒』の現場のこともありますか?
水谷:『相棒』もそうですね。
石丸:ドラマ『相棒』はseason20まで続いていますからね。
水谷:不思議なもので、そういう現場というのは、自分にとって奥があって、その奥にまだ何かあるように変わってきて。
石丸:その域に私もたどり着くのかなあ(笑)。
水谷:たどり着くと思いますよ(笑)。年齢かもしれません。年齢で興味の持ち方が変わってくるのかもしれませんね。
石丸:勉強になります。そういった意味で、映画『太陽とボレロ』の撮影現場は、奥に奥に、貪欲に向かっていらっしゃいましたか。
水谷:そうですね。そして現場というのは、ひとつの脚本をみんなが読むんですよね。だけど、みんな感性がそれぞれ違うから、そこで集まって出来上がるものが同じこともあれば摩擦もあるし、いろんなものがある。
だからこそ想像していなかったすごいことになっていくのが、「現場で起きること」ですよね。
石丸:ある意味、マジックですね。
水谷:マジックですね。
石丸:例えば、カメラマンの会田さんは「もっとこう立ってみたら」みたいなアイデアを言ってくださったりとか。もちろん監督の意向を汲んでなんですけど、“彼にとっての見方はそういうところにあるんだな”と、思ったりしましたね。
水谷:「(カメラに映っている)画」というのは、カメラのこちら側にいる俳優にとっては、実際のところ“どのくらいの大きさでどうしてるか”というのは、なかなか分かりにくいみたいですね。
石丸:分からないですね。
水谷:ところがこっち(クルー側)から見ていると、「もうちょっとこっちにいて欲しい」とか、「もうちょっとここに居たら魅力的になる」とかを素直に見ているわけですよね。それをちゃんと分かってくれている人がやっていると良いですね。
石丸:水谷監督の現場には良いクルーの人がいっぱいいらっしゃる。そして皆さん、以心伝心なんですよね。
水谷:そうですね。確かに、あんまり多くを(伝えていない)。
石丸:だから、言わなくても、サーッとそこへ動いていく。
水谷:現場に入る前にちょっとしたミーティングでみんなに知ってもらって、あとはみんながやってくれるっていう感じ。
石丸:きっと、水谷さんが太陽だからですよ。皆さんがそこにふわっと包まれていくんですね。
水谷:本当ですか。
石丸:監督をやるべくして生まれていらっしゃった方じゃないのかな。
水谷:いやいや。そう言っていただくと“やって良かったな”と思いますね。
石丸:改めて私も参加させていただいて、こんなに嬉しいことは無いなと思いました。
そして、20年以上続いているドラマ『相棒』の話をさせてください。
水谷:最初は2時間のドラマとして始まって、2年間で3本作りました。そこからシリーズが始まって22年位になりますかね。
石丸:日本を代表するドラマとして皆さんが次を楽しみにしているんですけど、この番組は長い間、ほぼスタッフも変わらずにずっと進んでいますよね。
水谷:そうですね。
石丸:このチームプレーはどうやって育んで続けていっているんですか?
水谷:スタッフもキャストも含めて「チームで長くやる」ということは、ある意味仲良くなるんです。仲良くなるということはとても結構なことなんですけど、気をつけなきゃいけないのが「なあなあ」という言葉がありますよね。
石丸:ありますね。
水谷:撮影の場合って、「なあなあ」になって決して良いことは起きないんですよ。というのは、仲良くなっているという感覚が相手を許しすぎちゃうんです。本当は“好きな人の前では恥ずかしいことが出来ない”という方へ行って、“もっと良いことないかな”って探したりすると良いんですよね。
だから長く続くということは、多分、そういうことは出来ているんだろうなと思うんですよね。
石丸:僕もドラマ『相棒』のseason19とseason20にまたがって、ひとつのキャラクターで出していただきました。皆さんのチームプレーというか、プロとして若手に対してはちゃんと厳しい意見もおっしゃるし、ベテラン同士は阿吽の呼吸であっという間に撮っていくじゃないですか。これに圧倒されましてね。
やっぱり皆さんで長年築いているグループだからこそ出来るんだなと思いましたし、この現場の流れが“格好良いな”という風に僕は思ったんですけども。
水谷:そうですか。やりやすい現場でしたか。
石丸:「すごくやりやすい」って僕が言うのはあれなんですけども、気持ち良い現場でした。やっていたキャラクターは気持ち悪いキャラクターだったんですけど(笑)。
水谷:でも僕は、あのキャラクターが面白くて(笑)。よく笑ってたでしょ。石丸さんの芝居があまりにもすごいんで、本番も我慢するぐらい面白かったですよ。
石丸:現場に行って、セットを見て、皆さんとのやり取りの中で段々ああなっていってしまったんですよね。
水谷:そうですか。
石丸:それを許してくださっていたので。
水谷:いやいや、とても良かったですよ。そういう意味では楽しかったです。
石丸:最後はものすごい扮装までさせていただいて。VRの世界ですから何でもありだったんですけどね。
水谷:そうでしたね。ああいうのって、俳優同士で楽しい時間じゃないですか。大変な時間というのは当然あるんだけども、“一緒に世界を共有する”みたいな感覚が芽生えたりする時は、嬉しいものですよね。
石丸:僕は1話で居なくなるものだと思っていたんです。それが(シーズンを)またがって出していただけたということは、今後も出てくるんでしょうか? もう無いんですかね(笑)。
水谷:可能性ありますよね。脚本家の輿水さん次第ですね(笑)。
石丸:過去に出ていて画面から消えたキャラクターが何度も蘇っていらっしゃるじゃないですか。「実はそういう絡みがあった」とかが相棒の面白さだと思うんですよ。
昔から観ていた人には堪らないシーンが、このseason20もいろいろありましたね。
水谷:そうですね。どうなるか分かりませんよ(笑)。
石丸:分かりませんね。輿水さん、よろしくお願い致します(笑)。