石丸:水谷豊さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは3週にわたって、人生で大切にしている“もの”や“こと”について伺ってしてまいりました。最終週は“時を重ねながら長く大切にしていること”についてお聞きしていきたいと思います。さあ、それは何でしょうか?
水谷:やはり「エンターテイメント」ですね。
石丸:水谷さんにとって、ズバリ、「エンターテイメント」とは何ですか?
水谷:僕にとっては“生きがい”ですね。
石丸:“生きがい”。
水谷:思えば、僕は中学、高校生の時から映画に惹きつけられているんですよ。
石丸:どういう映画に惹きつけられましたか?
水谷:最初にショックを受けたのが、『俺たちに明日はない』という、ウォーレン・ベイティとフェイ・ダナウェイの、美男美女の銀行強盗の話なんです。最後が「うへえ!」というくらい、衝撃を受けるラストシーンなんですね。
2人は銀行強盗ですから最後は警察に追われているんですけど、「まさか!」っていうくらい、蜂の巣みたいに2人がババババッて打たれて死んでいくわけですよ。“映画館に行くと何かがある”と思ったのは、そんな衝撃的な映画を観てから。
石丸:いわゆる「非日常の世界」ですもんね。
水谷:そこからは、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの『明日に向かって撃て』とか、ダスティン・ホフマンの『卒業』という、結婚式で昔の彼女を盗んじゃうというすごい映画とかに、どんどん惹きつけられていくんですね。『スケアクロウ』という映画もありましたね。
石丸:ありましたね。やっぱり、“日常では(体験)出来ないようなことが、映画館に行くと観れる”というところに惹きつけられたんですか。
水谷:惹きつけられましたね。だから、“映画が無かったら自分の人生ってどうなっていたんだろう?”と思うぐらいの惹きつけられ方でしたね。
石丸:そうだったんですね。やっぱり今、映画監督にはなるべくしてなってらっしゃるんですね。
水谷:どうなんでしょうね。でも1番惹きつけられたのは、『エデンの東』だったんですよ。
石丸:良い映画ですけれど、どういうところが?
水谷:高校3年生の時にリバイバル(上映)で観たんですね。僕、感動で帰りの電車の中で涙が止まらなかったんです。そこからは『エデンの東』のテーマソングが流れるとドキッとするんです。
石丸:人生に刻み込まれた作品になってますね。
水谷:なっていますね。やっぱり映画と共に、音楽ってエンターテイメントじゃないですか。
石丸:そうですね! 確かにそうです。
水谷:高校時代ですけれども、家に「世界の映画音楽」というレコード盤があったんですね。当時、それを聴くのが好きだったんです。
石丸:では、ご覧になった映画(の音楽)もその中に入って?
水谷:全部入っていました。だからレコードで聴く映画音楽の世界も大好きだったんです。だから「映画」と「音楽」っていうのは、僕の中では素晴らしいエンターテイメント。
石丸:そうなんですね。今の時代、新型コロナでいろんな規制がある中で、エンターテイメントは私たちに何を残すと思われますか?
水谷:僕は、“時代に何が起きても、エンターテイメントは人にとって必要なものなんだ”と。例えばヨーロッパで「戦争をやっていてもオペラは止めないでほしい」という国があったりとか。だから、コロナがあっても、人にとってエンターテイメントの力というのは絶対に無くしちゃいけないものなんだろう、と。
石丸:感情、感覚の部分というのは、生きていくために必要なものに付随しているものですよね。
水谷:そうですね。良い音楽を聴いたり、良い舞台を観たり、映画もそうですけど、自分で“良いな”と思ったものって、観た後にしばらく幸せになれますよね。僕はずいぶん、エンターテイメントで幸せにしてもらってきているんだと思うんですよ。
石丸:だからこそ今の世の中においてエンターテイメントは忘れちゃいけないものだし、側(そば)に置いておきたいものですよね。
水谷:そこにいつもあって欲しい。
石丸:そうですね。私たちはエンターテインメントを作っていく立場の人間ですが、(コロナ禍の期間)現場では叶わないことも多かったじゃないですか。でも“乗り越えて、前に前に”っていう想いは持っていましたね。
水谷:持ってましたね。
石丸:今回の『太陽とボレロ』の撮影中もコロナ禍だったんですけど、皆さんルールを守って対策をしながら、でも想いは1つだったように感じますね。
水谷:そうですね。
石丸:水谷さんは「70歳になるまでに3本映画を撮りたい」と、かねてから仰っておられました。今回、『太陽とボレロ』で3本目が叶いました! 4本目、どうですか(笑)。
水谷:(笑)。最初は本当に口走っただけだったんですよ。そんな簡単に映画は作れないから、60代で3本撮れると思っていなかったということもあって。でも、たまたまメンバーに恵まれて撮れたわけです。
僕ね、もし僕の中に才能ってものがあるとしたら、僕が持った唯一の才能は、「想い続けることが出来る」っていうことだろうと。「想うこと」って、出来るんですよ。だけど、「想い続けること」って意外と出来ないものなんですよ。
石丸:そうですね。
水谷:想い続けることはお金もかかりませんし、自分の中のことなので、何かに強制されないものですから。今回の3本(の映画)もそうですけど、人にも言うけれど、“ずっと想い続けていたんだな”と思いますね。
石丸:想い続けながら、皆さんに発信も続けてらっしゃいましたものね。
水谷:想い続けていると自然にそうなりますよね。だから“そうか。他の才能は無かったけれど、僕には想い続けることだけは(才能が)あるな”と。
石丸:いやいや。でも、それが成功への一番の近道なのかもしれませんよね。ということは、このまま想い続けていかれますか。
水谷:いきたいですね。
石丸:「あと何本」と言わずに、どんどん次の作品に向かって。
水谷:とりあえず今年で60代が終わりますからね。
石丸:次は70代をお迎えになりますよね。どういうビジョンが見えてますか?
水谷:そうですね。若い時から、僕は見た目で勝負している感じはなかったんですよ。それが、歳を増した時に“歳を増すってことはこんなに素晴らしいことだったんだ”って分かったんです。60の時に、“うわ、60になっちゃった。どうなるんだろう。歳を取りたくないな”と思っていたんだけど、(実際に)歳を取ったら(歳を重ねることは)“素晴らしいことだ”“楽しいことだ”と分かった。だから、おそらく70でも何かあるんじゃないかと期待してますね。
石丸:そうですか。水谷さんには輝いている先輩たちがいっぱいいらっしゃるじゃないですか。“こんな70代になってみたいな” という目標になる方はいらっしゃいますか?
水谷:実は、70代の先輩たちのイメージとして、フゥーッとエネルギーが終わっていく人が多かったんですよ。もしくは、遊び過ぎたり飲み過ぎて体を壊していく人とかが多かったんです。素晴らしい先輩がそういうことで消えていく。でも僕は、たまたまここまで来られたので。
石丸:僕にとっては水谷さんのような良い先輩が輝き続けてらっしゃると、本当に目標になりますしね。
水谷:ちょっとね、石丸さんのために頑張りますよ(笑)。そんな簡単に言えることなのかと思いますけど、70代もそうありたいですね。
石丸:水谷さんご自身がポジティブな方だと思うんですけども、そうやって言ってくださると嬉しいですね。その秘訣って何がありますか?
水谷:僕もこう見えて、いろいろと悩むことがあったんですよ。今もあるかもしれない。でも経験していくと、“それほど悩むことでは無かった”と、必ず思っているんですよ。
アインシュタインの言葉でね、「自分を責めることはないよ。必要な時は人が責めてくれるから」っていう言葉があって。“あ、まさにそういうことってあるな”と。やっぱりポジティブな方が、きっとエネルギーも前向きになれるでしょうし。
石丸:そうですよね。
水谷:いろいろあるでしょうけど、なるべく落ちる時間は短い方が良いですよね。
石丸:本当ですね。いろんなことが起こっている世の中ですけど、今の言葉はすごく励みになります。前向きにいようと思うだけでも明るくなりますし、そして周りの方もそういうところを見て一緒に走ってくれますし。
水谷:そうです! 何事も限りがあるんですから、せめて楽しく。人は“ただ楽しくなる”ということは無いのも分かっているんですけど、やることをちゃんとやりながら楽しんでいくという。
石丸:そうですね。人生やっぱり前向き!
水谷:前向きが良いです。
石丸:ということで、水谷豊さんとひと月の間、楽しいお話しをさせていただきました。ありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いいたします。
水谷:こちらこそ、ありがとうございました。