石丸:中嶋朋子さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしておりますが、今日はどんなお話をお聞かせくださいますか。
中嶋:今日は「自然と触れ合う時間」についてです。
石丸:自然と触れ合う時間。東京で生活していらっしゃいますよね? そんな中でも自然は求めていかれますか。
中嶋:はい。求めますね。もう無くてはならない感じです。
石丸:身近な自然とかでも大丈夫なんですか?
中嶋:はい。東京はわりと緑が多いんですよね。
石丸:確かに。
中嶋:私には新宿御苑がmust place(マストプレイス)。生まれ育ったのがあの界隈だったので、遠足もスケッチ大会みたいなことも“これでもか”というくらい御苑でしたね。でも飽きなくて、“帰る場所”みたいな感じ。大好きな木がいくつかあって、昔から仲良しの木がありますね。
石丸:じゃあ、今でもよくいらっしゃる?
中嶋:行きます、行きます! 年パス(年間パスポート)持って行ってます。
石丸:年パス! 庭ですね。
中嶋:庭です!(笑)
石丸:それが中嶋さんのリフレッシュになっているということですね。
中嶋:そうです。
石丸:自然と言えば、中嶋さんはフジテレビ系列の『北の国から』というドラマで子供の頃から大自然の中での生活をしていらっしゃいました。
中嶋:22年間やってました。
石丸:そうですよね。現地の北海道の富良野で収録されてましたよね。
中嶋:はい。
石丸:富良野の大自然は、中嶋さんご自身にどんな影響を与えてますか。
中嶋:8歳とか9歳の頃、ドラマの撮り方として、1年以上かけて全部撮ってから放送だったので、(ドラマのことを)誰も知らない状態で撮っていたんです。
石丸:そうだったんですね!
中嶋:だから、“ロケ地に人がいっぱい来ちゃう”ということもない中で撮ってました。
それはカルチャーショックですよ。新宿御苑界隈から富良野に飛んで、しかも『北の国から』の一家というのは原野のようなところへ住むので、本当に“見渡す限り自然”というところで。地球って丸いんだと知りました。牧草地に寝転がったら、空が丸いんですよ。“あ、丸い!”と思って。
石丸:すごい発見ですね。
中嶋:それこそ最初の週にお話ししました、自分が大事にしてる「wonder(ワンダー)」という感覚は、絶対にあの北海道での経験や衝撃から育まれています。本当に星も空にみっちりですからね。
石丸:満天ですね。
中嶋:“満天ってこのことなんだ”とか、“あの星よりこっちの星の方が近いんだなぁ”って、星の距離が分かるというか。
石丸:収録中にそういうものを観察してる余裕はあったんですか?
中嶋:無いですけどね(笑)。待つ時間に、そんな観察をしてました。基本的にはものすごく過酷な撮影で、多分、自然と相対するということ自体がとても過酷なんですよね。例えばドラマとかだと、昼間の時間に暗幕っていう黒いカーテンを張り巡らして夜の撮影が出来ちゃったりするじゃないですか。
石丸:スタジオ内ではね。
中嶋:だから私たち撮影部隊は、“照明をたけばちょっと暗くなっても撮れる”とか、自然を操作できると勘違いしちゃうんです。
でも北海道へ行っちゃったら、雪は待つしかないし。吹雪いちゃったら真っ白になっちゃうから、吹雪では撮れないんですよ。本当に翻弄されるだけ。
石丸:自然に。
中嶋:それは素晴らしい経験でしたね。
石丸:1年以上にわたって撮っていらっしゃったということは、もちろん真冬の厳冬期も撮ってますよね。
中嶋:はい。
石丸:子供の頃はその寒さにどうやって耐えていらっしゃったんですか。
中嶋:体を動かすとか…あんまりお金持ちじゃない家族の設定なので、服がペラペラなんですよ(笑)。昔は携帯用のカイロとか無かったから本当に大変で、新聞紙を足の先に巻いて唐辛子を靴の中に入れたりしましたよ。それで足踏みするとか…本当に大変でした。
石丸:ひとつのシーンで自然を待つとおっしゃっていましたが、OKのテイクが出るまで妥協をせずに撮り進めていたと伺っています。
中嶋:すごくしつこい演出家なんです(笑)。
石丸:(笑)。
中嶋:雪のシーンでも、雪って粉雪やぼた雪とかいろんな種類があるので、雪のパターンを全部撮るんですよ。
石丸:そうなんですね! 先ほど、“吹雪”とおっしゃってたじゃないですか。そういうところも妥協せず?
中嶋:「吹雪を撮りたい」って言うんだけど、実際に地吹雪が起こった時は本当に見えなくなっちゃうから「じゃあどうやって撮ろう?」って言って、扇風機を持ってきたりとか、色々したり。
石丸:自然に逆らってみたり(笑)。
中嶋:本当に色々でした(笑)。
石丸:苦しい思い出もあったかもしれませんが、楽しい思い出もありましたか。
中嶋:ありました。ダイヤモンドダストは本当にしょっちゅう見てました。あれ(ダイヤモンドダスト)って気温が本当に低くなると出るんですけど、寒い時にキラッと出るからご褒美みたいでした。
あとは「気温当てゲーム」みたいなのをみんなでやってて。あんまり寒いと鼻から息を吸うとピッと鼻の穴がくっつくんです。そうすると「マイナス10℃はいってるよね」って、みんな当てられるんです(笑)。
石丸:(鼻の)感覚でね。一番寒い時は何℃ぐらいだったんですか。
中嶋:マイナス15℃とかいったかしら。(マイナス)10℃はよくいってました。今とは違いますから、本当に寒かったです。
石丸:それでもカメラを回していたんですね。
中嶋:(寒さで)カメラの方が回らなくなっちゃって、先にリタイアするという感じ。
石丸:なるほど。限界に挑戦して撮影していたんですね。
中嶋:そんな感じでした(笑)。
石丸:貴重なお話です。実はこのドラマ『北の国から』は今でも配信で観れるんですよね。ですから最近は新しいファンの方も増えて。
中嶋:そうなんです。この前も高校生に「大好きなんです」って声をかけられて。「え? いつどうやって観たの?」って聞いたら、「いや、観れますから」とかって言われて。
石丸:この話を聞いて、“じゃあ私も観てみようかな”と思った方は、ぜひ配信を通じてご覧になってください。
改めて、20年以上「螢」という役を演じられて、中嶋さんにとってこのドラマ『北の国から』は、どんな作品ですか? ひと言では難しいかもしれませんけど。
中嶋:「人生」ですよね。本当にそうでした。だから22年かけて終わった時にたくさん記者の方に「どんな感じですか」って質問をされたんですけど、私、ひと言も言えなかったんです。感情が湧かなかったから。
それで、“私は何て冷たい人間なんだろう”と思ってよく考えたら、「人生」なんだ。“人生をひと言で言えますか”っていうことだったんですよ。
石丸:そういうことだったんですね。
中嶋:“私の螢としての人生が終わったんだなあ”っていう、そういう不思議な体験をしました。