ファッションへの目覚め
――生活圏はアメリカだった
学生時代は勉強もあまりせずに、映画ばかり観たり、音楽を聴いたり、好きな事ばかりやっていましたね。親からはしっかりしなさいと日々言われていました。
実を言うと、父の仕事の関係上、普段の生活が基地の中だったんです。父は技術者で研磨工だったんですけど、当時アメリカの基地の中では極秘のモノが多かったです。それは、軍事用品の型を作ったりとかしていて、外に流出するのは困るので、そういう意味で基地の中に住んでいたんです。
小学校の時は、生活は金網の中で、学校は金網の外だったんです。なので、生活圏はアメリカだったんですよね。だけど、着ているものや履いている靴がみんなと違ったので、当時はバカにされたりしましたね。必要最小限なものは金網の外で買っていたんですけど、衣類に関しては基地の中で買う方が安かったんですよ。
クリスマスや正月を迎えるにあたって、親から何が欲しいかと聞かれた時は毎回「靴が欲しい」って言っていましたね。いじめられるので、みんなと同じ靴が欲しかったんです。

──当時の若者には新鮮だった『アイビー』

我々の高校時代っていうのは、基本的にジーパンもジーンズもアメ横で調達していたんです。あの辺から、オシャレな子はシアーズローバックのカタログとかを見ていたんですよね。
ただ、紙媒体よりも先に『アイビー』というのがありましたよね。それはやっぱり、石津さんの影響が大きいですよね。アメリカに行って、それをそのまま素直に持ち帰ってきたんですよ。若者たちには新鮮だったんでしょうね。
当初は『アイビー』と言っても東海岸の『アイビーリーグ』の学生のファッションとして紹介をしていたんです。僕はどちらかと言うと、『アイビースタイル』って言った方が正しいんじゃないかなって思うんですけどね。
日本の若い男の子がオシャレになってきたなと思ったのは『VAN』が出てから、1960年後半くらいでしたね。音楽も含めてファッションだけじゃない部分を若者に影響を与えていったと思いますね。

北村さんとファッション
──雑誌『POPEYE』が持つスピリッツとは
雑誌『POPEYE』に関わることになったのは、石川次郎さんに誘われて、最初は片足くらいの湯舟だったのが、気が付いたら首まで浸かっていたって感じですね(笑)。
70年代のイギリスのファッションとか音楽っていうのが、基本的にまたアメリカに移行するわけですよね。もう『アイビー』こそ低迷しているんですけど、どちらかと言うとウッドストック・フェスティバルだとか、ヒッピーですよね。分かりやすく映画で言うと『イージー・ライダー』ですね。
それと同時くらいに『Whole Earth Catalogue』がアメリカで出てきてヒットするんですよね。あれが元になって、環境問題とかが問われるようになって、初めて『POPEYE』のスピリッツみたいなものが生まれたんじゃないかなと思いますね。
西海岸のさんさんと降り注ぐ太陽と、パームツリーと、青い空…なんとなく自由な雰囲気っていうのがアジャストしたんでしょうね。

――何年も着続けられるように

羽毛服っていうと、元々はヨーロッパにたくさんあったんですよ。ただ、羽毛でも西海岸で開発したものとは形や素材がだいぶ違ったんですよね。使用目的が違ったんです。ウィンタースポーツを代表するウェアだったんですけど、カリフォルニアで出たのはアウトドアで着る服としてデビューしたんです。
当時『ORVIS』のダウンベストを買ったんですけど、『ORVIS』はアメリカじゃなくてスコットランドのブランドで、とてつもなく高かったんです!こんな高いものをワンシーズンしか着られないのは酷だと思って、一番最初にしたのが、ツイードのジャケットにネクタイをして、ウールのパンツにワークブーツを履いて、ダウンを重ねて着たんです。
それが結構ウケて、面白い恰好をしているけど意外にしっくり来るよね。ってことで、その格好で『POPEYE』にページを作ろうってなったのが発端なんです。
それで、一つのダウンジャケットが5年も10年も着れるって誰もが思ってくれたら成功だったんですよね。

――変わらないものが継承されていくことの大事さ

海外から来たものが日本で想像もしていなかった方向に行ってくれるっていうのは、怖い部分もあるけど、心がくすぐられるというか、喜ばしいですよね。物に一つの意味があるっていう強さは大事だと思うし、そういうものが無いと革新的なものは生まれて行かないんでしょうね。

「不易流行」っていう言葉があるんですけど、松尾芭蕉が旅を続けるうえで、この言葉があったから旅を続けられたっていう説もあるんです。要するに、時代の移り変わりというものは多々あることは当たり前。だけど、その中で絶対に変わらないものがある。これが大事なんです。変わることも大事だけど、変わらないという事が大事だという言葉なんですけど、ある意味ファッションもそうなんですよね。
変わらないものが脈々と継承されていくことの大事さ。それが無いとチャレンジできないんです。一つでも意味合いが分かって履くと、そこから違う発想が湧いてくるんです。ワークブーツにしても、このワークブーツはどうやって誕生して、どう作られているかっていう部分が何となくでも分かると、着こなしのキャパが広がっていくんですよね。
チャレンジ精神が生まれてきて、勇気が湧いてくるんですよ。一つの物の意味をちゃんと分かって自信が出ると冒険が出来るんですよね。
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